ウォール街、勢い取り戻すも市場に乖離-リスク志向投資家に警戒信号
ウォール街が勢いを取り戻した1週間だった。米株式相場は急反発し、4月の関税ショック前の水準に戻した。企業は社債発行を再開し、仮想通貨などの投機的資産も軒並み上昇した。
だが、ホワイトハウスが近く貿易協定を取りまとめるという期待に支えられたこの反発相場の裏側で、金融エコシステムはヘッジファンドやデイトレーダーなどのリスク志向の投資家に対して警戒信号を発している。
債券市場の動向は、米連邦準備制度理事会(FRB)が政策に縛られていることを示唆しており、パウエルFRB議長が関税の影響を速やかに和らげられるという期待には不安が漂う。ドルは米国債利回りの動きに逆行しながら、引き続き方向性を見失っている。信用市場や株式市場でも強気派が企業破綻の増加や業績の下方修正といった現実を無視しており、こうした乖離(かいり)が広がっている。
アナカパ・アドバイザーズのフィル・ペクソック最高投資責任者(CIO)は「こうした資産間の矛盾は市場に付き物だが、現在のような乖離には注意すべきだ」と指摘。「関税が課されるのか、適用が猶予されるのか、税率が引き下げられるのか、報復措置を招くのか分からず、基本のシナリオを想定するのは非常に難しい状況だ。誰も何も分かっていない。方向感が失われた状態だ」と説明した。
トランプ氏の関税措置を受け一時撤退したトレーダーは市場に舞い戻り、米国株は9営業日続伸。企業の社債発行が相次ぎ信用スプレッドは縮小、3週間前に7万7053ドルまで下落していたビットコインは再び10万ドル台をうかがう勢いを見せている。
この背景にはトランプ氏の強硬な貿易措置のピークは過ぎたとの見方や、米経済が底堅さを維持していることがある。
それでも市場参加者の一部には根強い懐疑が残る。市場全体の不安心理はやや和らいだものの、高水準にとどまっている。バンク・オブ・アメリカ(BofA)の金融ストレス指数は、上乗せ関税発表前の8カ月間のどの水準よりも高くなっている。
トレーダーはFRBが近く利下げに踏み切ると期待してリスク資産に戻ってきているが、市場ベースのインフレ期待は鈍化の兆しこそあるものの、まだ確かなものではない。
ドイツ銀行のマクロストラテジスト、ヘンリー・アレン氏はパウエル議長の4月のタカ派的発言や、投資家がFRBのインフレ対応を見誤った2022年の経験を踏まえ、こうした期待は「失望につながる可能性がある」と指摘。「市場はFRBを実際よりもハト派と見なす過ちを繰り返す恐れがある」と述べた。
アレン氏はまた、ドルと債券の関係が崩れている事実にも注目する。理論上、米10年債利回りがドイツ国債利回りに対して相対的に上昇すればドルは対ユーロで上げるはずだが、この関係は4月初めから崩れている。
PRSPCTVキャピタルのファンドマネジャー、ローレンス・クリアチュラ氏は「ドルの弱さは米国が世界の貿易相手からの信頼を失いつつある兆候だ」とし、1930年に大恐慌の悪化の一因となった「スムート・ホーリー関税法」を想起させると語った。
ピクテ・リサーチ・インスティテュートの責任者マリア・バサロウ氏は、ウォール街に根強く残る一連の乖離はトランプ第2次政権という政策不確実性の時代を浮き彫りにすると説明。「冷戦終結以降、自由貿易とグローバル化、平和という環境が続いてきたが、それが一変しつつある」とし、「新たな均衡へと向かっているが、その形はまだ定まっていない」と語った。
原題:In Wall Street’s Epic Comeback, Unsolved Market Mysteries Abound(抜粋)