劣化せず、燃えず、ほぼ永久の液体バッテリー。世界最大の「レドックスフロー電池」建設中
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長谷川賢人 ( GIZMODO編集部 )2026年6月4日の記事を編集して再掲載しています。
「古くて新しい」技術が、電力の未来を変えていく。
太陽光や風力を使う再生可能エネルギー(再エネ)の最大の弱点は、天候に左右されること。いろいろな方法でこの弱点を補おうとする動きが進む中、あるバッテリー技術が注目を集めています。
その名は「レドックスフロー電池」。スイスでは現在、"世界最強クラス"とも呼ばれる巨大蓄電システムが建設中とのこと。
あまり聞き慣れない名前ですが、実は日本でも国産技術として着実に普及が進んでいる有望な技術なんです。
電池の「劣化問題」を、液体で解決する
スマートフォンを2年も使っていると、バッテリーの持ちが悪くなってきますよね。あれは中に入っているリチウムイオン電池が、充放電のたびに少しずつボロボロになっていくからです。固体の電極材料が変形・劣化していくのですね。
今回取り上げるレドックスフロー電池は、そもそも構造が根本的に違います。仕組みを大雑把に言うと、2種類の液体をポンプで循環させながら、中央の膜を通じてイオンをやり取りし、電気を出し入れします。
電気を「固体」に蓄えるのではなく、大きなタンクに入った液体(電解液)に蓄えるのが特徴です。
Image: 国立研究開発法人産業技術総合研究所電解液の75%は水でできており、燃えず爆発もしませんから安全な素材。ほぼ無制限に拡張でき、リサイクルも可能です。
電極や電解液の劣化がほとんどなく長寿命ということもあり、電力系統を担う蓄電池には適した特性を持っています。
もう少し細かく仕組みやメリットが知りたいよ、という方は以下の動画をご参考に。
Video: Sumitomo Electric Group / YouTube再エネの「作れる量が天候で変わる」という宿命に立ち向かうには、余った電気を貯めておき、必要なときに取り出せる「大型蓄電池」の存在が欠かせません。
そこでレドックスフロー電池の出番というわけです。
この技術への期待は、数字にも表れています。富士経済の調査によると、レドックスフロー電池の世界市場は2024年に前年比5.4倍の2460億円規模に達する見込みです。業務・産業用や電力系統、再エネ発電所での導入が急増しており、中国での普及が特に市場拡大を牽引しています。
さらに2040年には、2023年比で約36倍にあたる1兆6252億円規模まで成長すると予測されています。
今後は「短時間の電力調整にはリチウムイオン電池、計画的な長時間の充放電にはレドックスフロー電池」という形で使い分けが進むと見られており、北米やオーストラリア、そして日本でも導入が広がっています。
スイスで「世界最大級」が建設中
image: FlexBase最近のエポックメイキングなニュースとしては、2022年に創業したFlexBaseグループが、スイス北部のラウフェンブルクで建設を進めている“世界最強クラス”のレドックスフロー電池システムです。
施設面積は2万平方メートル超。総蓄電容量2.1GWh超・出力1.2GW超を誇り、これは「スイスのライプシュタット原子力発電所の出力に匹敵する」と言います。稼働すれば、21万世帯が24時間フルで使える電力量を蓄えられます。
プロジェクトは着実に進行中、2026年1月にはスイスの送電システム運営会社「Swissgrid」が800MWのフェーズ1系統接続を承認。さらに5月21日、世界規模の競合選定プロセスを経て、英国・カナダに拠点を置く電池メーカー「Invinity Energy Systems」が、バッテリーの設計・製造パートナーとして正式に決定しています。
現在はエンジニアリングフェーズとして、制御ソフトウェアや電力網との接続の詳細設計に進んでいます。
AIデータセンターとも相性良し
このプロジェクトが「単なる巨大な蓄電設備」ではない点も注目です。ここでも出てくるのは、やはりAI。
AIデータセンターが求める安定電力のためには、発電量に波のある再エネだけでは不向き。
FlexBaseは、蓄電システムとAIデータセンターを組み合わせることで、エネルギー安全保障・エネルギー管理・高度なAI向けデータセンターという新しい可能性を切り開こうとしています。
なお、現在の世界記録は中国の新華烏什蓄電所の700メガワット時(MWh)とされており、スイスのプロジェクトが完成すれば、その3倍超の規模で世界トップに躍り出ることになります。
ちなみに日本でも、この技術は着実に前進しています。
たとえば、住友電気工業は長年にわたりレドックスフロー電池の開発・製造を手がけており、2025年9月には最長30年間の運用を可能にした新型も発表。2026年2月には経済産業省の系統用蓄電池補助事業にレドックスフロー電池導入プロジェクト3件が採択されました。
実は「古くて新しい」技術
余談ですが、レドックスフロー電池のコンセプト自体は1879年に理論化され、NASAが1970年代の宇宙開発時代に技術を磨いたという歴史を持ちます。
長らくリチウムイオン電池の陰に隠れてきたこの「液体バッテリー」が、再エネ普及とAI電力需要という2つの大波に押されて、いよいよ本番の舞台に上がってきました。
Source: Interesting Engineering, FlexBase, 住友電工, メガソーラービジネス plus