米国株が急落、トランプ氏が「関税による景気後退」否定せず懸念広がる アジア市場にも波及
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米株式市場は10日、ダウ工業株平均が前週末比890.01ドル(2%)安となるなど急落し、アジア各地で株価が値下がりした。ドナルド・トランプ米大統領が、自身の関税措置によって、世界最大の経済大国であるアメリカが景気後退に陥る可能性を否定しなかったことで、投資家に懸念が広がった。
トランプ大統領は9日放送の米FOXニュースのインタビューで、アメリカの景気後退への懸念について問われた際、米経済は「過渡期」にあると述べた。
インタビューの中で、トランプ氏は経済をめぐる懸念があることを認めるような発言をした。「そのようなことは予測したくない」、「我々は非常に大きなことをやっているのだから、過渡期はある。我々はアメリカに富を取り戻そうとしている。それは大きな仕事だ」と、トランプ氏は語った。
トランプ政権の幹部や顧問らは、インタビューが放送されて以降、投資家たちの不安を和らげようとしている。
投資銀行サクソの主任投資ストラテジスト、チャル・チャナナ氏は、「トランプ氏が株式市場の大統領だという、これまでの考え方が再検討されつつある」と、BBCに話した。
10日のニューヨーク株式市場では、S&P500種株価指数が2.7%安、ダウ工業株平均が2%安で取引を終えた。ハイテク株比率が高いナスダック指数は特に打撃を受け、4%安となった。
テスラ株は15.4%、半導体大手エヌビディアは5%超下落した。メタ、アマゾン、アルファベットなどほかの主要ハイテク株も急落した。
アジアでは11日、東京株式市場の日経平均株価が1.7%安、韓国の総合株価指数(KOSPI)は1.5%安で取引を終えた。香港株式市場では、ハンセン指数が0.7%安となった。
金融サービス会社KCMトレードの主任市場アナリスト、ティム・ウォータラー氏は、「トランプ氏が関税について次にどう動くのか、政界幹部や各国首脳は憶測するしかない状態だが、問題は、投資家たちも同様に憶測するしかない状態が続いている。それが、悲惨な市場ムードに反映されている」と指摘した。
「景気後退をめぐる話は時期尚早かもしれないが、景気後退が現実のものになる可能性が示されるだけで、投資家たちは守りに入るものだ」とも、ウォータラー氏は話した。
10日の取引終了後、ホワイトハウス関係者の1人は記者団に対し、「株式市場の野心的意欲と、実際に企業やビジネスリーダーから示されるものの間に、かなりのギャップがある」と述べた。
「中長期的に経済がどうなっていくのかについては明らかに、前者よりも後者の方が意味がある」
ホワイトハウスのクシュ・デサイ副報道官はこの日の声明で、「業界のリーダーたち」が関税を含むトランプ氏の政策に、「数兆ドルの投資というコミットメント」で応じたと述べた。
米市場では先週、主要な株価指数が、トランプ氏が大統領選で勝利した昨年11月以前の水準まで下落した。同氏の当選は当初、減税や規制緩和への期待感から、投資家に歓迎されていた。
投資家たちは今では、トランプ氏の関税措置が物価上昇を招き、世界最大の経済大国の成長を鈍化させるのではないかと懸念している。
キリック・アンド・カンパニーの投資マネジャー、レイチェル・ウィンター氏は、BBCのラジオ番組「トゥデイ」に対し、「トランプ氏が課す関税の規模は、間違いなく、いずれインフレを引き起こすしかないと思う」と述べた。
トランプ氏は中国やメキシコ、カナダについて、アメリカへの違法薬物や移民の流入を終わらせるために十分な対策を講じていないと非難し、追加関税を課すと発表した。3カ国はトランプ氏の主張は事実でないとしている。
エコノミストのモハメド・エルエリアン氏は、投資家たちは当初、トランプ氏の規制緩和や減税の計画を楽観視する一方で、貿易戦争が起きる可能性を過小評価していたと指摘。企業や一般家庭が先行きの不透明感から支出を控え始めている兆候に、投資家たちが反応しており、経済成長に打撃を与えかねないとした。
一方で、トランプ氏の経済顧問ケヴィン・ハセット氏は、こうした暗い見通しを示す人々に反発している。
ハセット氏は米CNBCのインタビューで、米経済を楽観視する理由はたくさんあるとし、カナダ、メキシコ、中国に対する関税はすでに、製造業と雇用をアメリカにもたらしていると語った。
「今後の経済について極めて強気でいられる理由は、数多くある」
ハセット氏は、第1四半期(1~3月)の「データに一時的な下落」がみられたことを認めつつ、その原因はトランプ氏による関税発動のタイミングと、「バイデン(前政権)の遺産」にあると述べた。