「ドル・スマイル」生みの親、米通貨の苦境は始まったばかり

ドル安が加速する中、長年の弱気派であるスティーブン・ジェン氏は、ドルの苦境は始まったばかりだと確信している。

  米経済の勢いが失われつつあるのではないかという懸念が高まるとともに、他の国・地域の成長に対する楽観が強まり、ドルは今週一時3カ月ぶりの安値を付けた。

  資産運用会社ユリゾンSLJキャピタルの最高経営責任者(CEO)であるジェン氏の主張が、遅ればせながら裏付けられた。

  「過大評価されたドルは弱くなるだろうというのがわれわれの見方だった」と同氏は述べ、2年にわたってドル安を予想してきたことが「ある程度は正しかったことが証明された」と感じていると付け加えた。

  ブルームバーグ・ドル・スポット指数は5日までで昨年の米大統領選以後の上げのほとんど失った。

  ジェン氏は、最近の為替動向は、20年余り前にモルガン・スタンレーのストラテジストとして提唱した「ドル・スマイル」の枠組みにうまく当てはまると説明。

  市場参加者の一部で広まっているこの理論は、米経済が深刻な不況にあるか、力強い拡大を続けている場合にドル高が進むというものだ。成長が減速している時期は、ドルにとってはより厳しい環境になるという。

  ジェン氏の算出によれば、ドルは適正価値よりも約20%高い。米国で相対的に貧しい州の一つであるミシシッピ州の1人当たり所得が英国とフランス、イタリア、日本よりも高く、通貨の購買力が過剰な水準に達している兆候だという。

  「ドルが暴落するとは思わないが、数年にわたる調整は必要だろう」とジェン氏は語った。

  米経済は昨年、他の国・地域が低迷する中で力強く成長。ドルが大幅上昇し、ジェン氏の弱気なドル見通しは時期尚早だと見なされていた。

  しかし、ここ数週間、経済に軟化の兆候や貿易に関する懸念が台頭し、ドル安派の声が大きくなっている。ドル・スポット指数は1月にピークを付けてから約5%下落している。

  トランプ米大統領は今週相次いで関税を発動した。投資家はこうした措置がドル高につながると考えていたが、ドル下落にはほとんど歯止めがかかっていない。

  ドイツが防衛費とインフラ支出に数千億ユーロを投じる計画を発表し、ユーロが値上がりしたことで、ドル・スポット指数の下落が加速した。

  ジェン氏のドル安論の根幹は、米国が他の国々に対して享受している成長の優位性が、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)後の数年間で膨れ上がった政府支出をホワイトハウスが削減するにつれ、薄れていくという考えに基づいている。

  ドル・スマイル理論は、米経済がリセッション(景気後退)に陥ればドルが上昇するというものだが、ジェン氏は米国の成長は引き続き堅調に推移すると考えている。 

  ジェン氏によると、米国の財政赤字が対国内総生産(GDP)比で現在の約7%から5.5%に減れば、ドル安要因としては十分だが、経済に深刻な打撃を与えることはない見込み。

原題:‘Dollar Smile’ Creator Says More Weakness Ahead for US Currency(抜粋)

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