マスク氏、議会も牛耳るのか-下院共和党の多数派工作に絶大な影響力
- マスク氏は巨額の資産とPACの影響力を用いて議会の構成にも関与
- 議員は皆、共和党が多数派を維持できるようマスク氏に支援を求める
米共和党のジョンソン下院議長は辛うじて再選を果たし、1930年以来最も僅差の議会多数派を率いる。2024年の大統領選を制した共和党だが、世界一の富豪イーロン・マスク氏からの資金支援がなければ、少なくとも下院で少数派になるところだった。
連邦選挙委員会(FEC)に提出された公開報告書によると、マスク氏が管理する政治活動委員会(PAC)「アメリカPAC」は、昨年の選挙戦最後の6週間で1920万ドル(約30億円)を投じ、接戦となっていた全米各地の共和党候補を支えた。
同PACが選んだ18人の候補のうち10人が当選。コロラド州とアラスカ州では議席を奪い、ミシガン州では欠員を埋め、アイオワ州とネブラスカ州、ニューヨーク州では厳しい挑戦を退けた。
今月3日の下院議長選は、これら10人全員が共和党の同僚議員らと共に、トランプ次期大統領とマスク氏が支持するジョンソン氏に票を投じた。共和党内では超保守派が一時、ジョンソン氏再選に異議を唱えていた。
America PAC total weekly spending on behalf of 18 Republican House candidates
Source: FEC filings
昨年の選挙戦でトランプ氏を支援したマスク氏は、トランプ氏のために議員らに影響を行使したいと繰り返し表明。マスク氏は自身がオーナーとなっているX(旧ツイッター)を介し、時には誤った情報を流しながら問題を提起し、支持者を結集させ、反対派を攻撃した。
そして今、マスク氏は4370億ドルの個人資産とアメリカPACの影響力を利用して、連邦議会の構成にも直接関与し始めた。
交通や宇宙、人工知能(AI)、ソーシャルメディア、国防支出など、マスク氏の企業に影響を与える分野を担当する委員会には現在、同氏に支援された議員が名を連ねる。
26年の中間選挙はまだ先だが、マスク氏は新たなサポートも約束し、「通常、PACは大きな選挙の後にはある程度活動を休止する」が、アメリカPACは「それとは逆に活動を続け、中間選挙などに備え共和党の登録者を全国の主要選挙区で増やしていく」とXに投稿した。
Sources: FEC filings; Bloomberg
アメリカPACの報道担当はコメント要請に応じなかった。
連邦議員らはマスク氏の資金や影響力、トランプ氏との親密な関係にどう対応すべきか、まだ探っている。
トランプ氏は政府支出を減らすため新設する「政府効率化省(DOGE)」の共同トップにマスク氏を起用しているが、少なくとも2人の民主党議員を含む数十人がDOGE支持を誓う新しいグループに加わった。
パブリック・シチズンの行政担当ロビイスト、クレイグ・ホルマン氏は、マスク氏の資金が持つインパクト、そしてそれが今後に及ぼす影響について、その重要性をいくら強調してもし過ぎるということはないと指摘。
現職議員は誰もが、共和党が多数派を維持できるようマスク氏に支援を求めている。トランプ氏の立法アジェンダに反対する議員に対抗するため、予備選で対立候補を擁立し資金援助を行うと脅すことで、マスク氏は今後数年、候補者に影響を与える可能性がある。
「マスク氏の資金が立候補者を決める唯一の要因となり得る。恐らく議会を歩き回る最も説得力のある人物だ」とホルマン氏は話した。
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