【最新研究】まるでよく当たる“医学占い”…血液から「臓器年齢」を判定、将来の病気や寿命まで予測できる驚きの新技術(東洋経済オンライン)

 聞き慣れない言葉かもしれませんが、「トランスクリプトーム」と「プロテオーム」というものがあります。 「なんちゃらオームってなんやねん?」と思われるかもしれませんが、遠からずそれらの解析による「時計」が臨床検査として用いられるようになる可能性がありますから、すこし難しいかもしれませんが、この機会にぜひ知っておいてください。

 遺伝子(gene)の総体がgenome(ゲノム、ただし英語の発音はジーノム)であるように、なんとかオーム(〜ome)というのは、あるものの総体を示す用語である。

 なので、トランスクリプトの総体がトランスクリプトーム。でも、「なんやねん、そのトランスクリプトっちゅうのは」というのも当然の疑問ですわな。■DNA→RNAへの転写物の総体が「トランスクリプトーム」 我々の体において機能する分子はいろいろあるが、最も重要なのはタンパク質である。

 タンパク質の設計図が遺伝子で、その情報はDNAに蓄えられている。その遺伝情報は、DNAからRNAへと「転写」され、そこからタンパク質へと「翻訳」される。

 ヒトの場合、およそ2万個の遺伝子があるのだが、それぞれの細胞においてすべての遺伝子が使われているわけではない。いいかえると、一部の遺伝子が転写されているだけだ。 なので、その転写物(トランスクリプト)の総体=トランスクリプトームを調べると、細胞の状態を知ることができる。

 遺伝情報の流れは「DNA→RNA→タンパク質」となっている。だから、最終的に機能するタンパク質の総体も細胞の状態を知るための重要な手がかりとなる。

 タンパク質=proteinの総体なのでproteinome(プロテイノーム)といいたいところだが、字面がよろしくないせいか、プロテオーム(proteome)という言葉が使われている。■血液を用いた「臓器年齢」の研究に期待前回は、いろいろな臓器の組織切片による時計を紹介したが、トランスクリプトームとプロテオームも時計として利用することができる。

 これらの「時計」では、肝臓は40歳だけれど腎臓は48歳とかいうように、臓器によって異なった「年齢」になることがある。

 このことは、臓器ごとに老化度、いわば「傷み具合」が違うことを示している。 また、以前に説明したように、DNAメチル化時計は何を見ているかがよくわからないけれど、トランスクリプトームやプロテオームは、どのような遺伝子やどのような機能を持ったタンパク質が関与しているかを追跡することができるという利点がある。

 しかし、このような解析には臓器の一部を採取する必要があるので、研究としては面白いけれども、実際の臨床に用いるにはハードルが高い。なので、血液を用いたトランスクリプトーム解析とプロテオーム解析の研究に期待が持たれている。

 特に有用とされているのはプロテオーム時計である。 というのは、トランスクリプト=RNAというのは、細胞外に漏れ出ることがあるとはいえ、基本的には細胞内に存在するものだ。なので、血液を用いたトランスクリプトーム解析は、主として血液細胞だけを対象にせざるをえない。

 それに対し、タンパク質はいろいろな臓器から分泌されたり漏れ出たりして血液中を流れるので、血漿(血液の細胞以外の成分)のプロテオームには多くの臓器の豊富な情報が含まれている。

■血漿プロテオーム解析で作られた「臓器年齢」の時計 「Organ aging signatures in the plasma proteome track health and disease(血漿プロテオームにみられる臓器老化の特徴は、健康と疾患を反映する)」というランドマーク的な論文がある。

 2023年にネイチャー誌に発表されたもので、約5700人の解析から、脳、心臓、動脈、腎臓、肝臓、肺、筋肉、膵臓、腸、脂肪組織、免疫系という11系統の臓器あるいは組織の「時計」を作ったというのが内容だ。

 いいかえると、それぞれの臓器の「年齢」を血漿プロテオーム解析で明らかにできたというのである。 その結果、老化の進み具合は臓器ごとに異なっており、約20%の人では、少なくとも一つの臓器が著しく老化していることがわかった。

 また、腎臓の老化は糖尿病・肥満・高血圧などの代謝疾患と、心臓の老化は心房細動や心筋梗塞と、筋肉の老化は歩行障害と関連するなど、「老けている」と判定された臓器と病気がおおむね対応していた。

 同じ研究チームは、25年、ネイチャー・メディシン誌に「Plasma proteomics links brain and immune system aging with healthspan and longevity.(血漿プロテオーム解析から明らかになった脳および免疫系の老化は、健康寿命と長寿に関係する)」という論文を発表している。

 より大規模、約4万5000人の解析で、最長で17年の追跡調査をおこなったものだ。

■すごい研究成果のオンパレード その結果、脳が著しく老化している人はアルツハイマー病のリスクが3倍程度、逆に、非常に若い人は4分の1程度であったという。 う〜ん、かなりすごいぞ、これは。 さらに驚かされるのは、老化が進行した臓器の数と死亡リスクの関係である。

 老化の進みすぎた臓器が2〜4個、5〜7個、8個以上で、死亡リスクがそれぞれ2.3倍、4.5倍、8.3倍と、段階的に高かった。逆に、若い免疫系と脳を併せ持つ人の死亡リスクは半分以下だった。

 血液だけから将来の病気や寿命まで予測できるとは、まるでよく当たる医学占いではないか。 また、「臓器年齢」は遺伝だけで決まっているものではなさそうで、生活習慣や薬剤の使用歴との関連性があった。 喫煙、飲酒、加工肉、睡眠不足などは複数の臓器における老化に、逆に、活発な運動などは若さに関連があったという。因果関係があるとまでは断定されていないが、これもすごいぞ。

 現時点では研究ベースだけれど、いずれ人間ドックなどで検査できるようになっていくだろう。コストの問題はあるが、遠からず数万円程度でできるようになるのではないかと予想している。高いような気もするが、全身の健康度を包括的に知ることができるのだから、情報的には元をとれよう。

 しかし、知ったところでどうするんや問題というのが出来する。 臓器年齢が若ければいいけれど、逆だったら落ち込むだけではないか。 単にわたしが悲観的なだけかもしれないが、だいたいこういうのは、思いもよらない悪い知らせをもたらし気味である。結果によっては生活習慣を改善して臓器の老化を防ぐことができるかもしれないが、そんなことはプロテオームなど調べなくともわかりきったことである。

■血漿中のタンパク質が、老化の促進にも働いている? 

 因果関係と相関関係は違う、というのはよく言われることだ。血漿プロテオームが全身のさまざまな臓器の状態を反映していることは間違いない。しかし、血漿中のタンパク質が、もう一巡して老化の促進に働いている可能性はないだろうか。 直観的にはありえない。しかし、事実は直観より奇なり。なんと、若いマウスの血漿を投与すると老化マウスを若返らせることができるという実験結果が報告されている。

 はたして人間でも可能なのか?  次回はそういったお話をば。

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