「銅の3倍」の熱伝導率をもつ”常識を覆す金属材料”を発見(ナゾロジー)|dメニューニュース
熱伝導率の高い「銅」は、スマートフォンやパソコン、データセンターなど、さまざまな電子機器の放熱部材として欠かせない存在です。
電子回路が発する熱を素早く逃がすことで、性能低下や故障を防いできました。
ところが、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究チームは、その銅の3倍の熱伝導率を示す金属材料を発見しました。
この研究成果は、2026年1月15日付で『Science』に掲載されました。
- 銅の熱伝導率の限界をはるかに上回る金属材料を発見
- 「銅の3倍」を実現した新しい金属材料「θ-TaN」
銅の熱伝導率の限界をはるかに上回る金属材料を発見
「熱伝導率」はその数値が大きいほど、熱を速く運べる材料だということを示します。
銅は室温で約400 W/mKという高い熱伝導率を持ち、加工しやすく、価格も比較的安定しています。
そのため、ヒートシンク(電子部品から出る熱を受け取り、空気中へ逃がすための金属部品)や配線、基板材料として長年にわたって使われてきました。
実際、ヒートシンクなどに使われる熱マネジメント材料の市場では、銅が主役で、全体の約30%を占めています。
しかし、銅がいくら優秀でも「これ以上は伸びにくい」とされてきた理由があります。
それは、金属の中で熱が運ばれる仕組みにあります。
金属では、熱は主に「自由電子」と「フォノン(原子の振動)」によって運ばれます。
ところが、電子は原子の振動に邪魔され、フォノン同士も衝突を繰り返します。
こうした相互作用が、熱の流れにブレーキをかけてしまうのです。
このため、銅や銀のような金属では、熱伝導率はおよそ400 W/mK付近で頭打ちになると考えられてきました。
金属の熱伝導には、物理的な限界があると見なされていたのです。
ところが今回、その前提を覆す可能性のある新しい金属材料が見つかりました。
「銅の3倍」を実現した新しい金属材料「θ-TaN」
研究チームが実験的に実現したのは、「θ-TaN」と呼ばれる金属材料です。
これはθ相(シータ相)という特殊な結晶構造の窒化タンタルです。
このθ-TaNの熱伝導率を測定したところ、室温で約1,100 W/mKという値が得られました。
これは銅や銀のほぼ3倍にあたります。
金属としては、常識はずれの熱伝導率です。
では、なぜこれほど高い熱伝導率が実現したのでしょうか。
研究チームは、その理由を複数の実験手法で詳しく調べました。
まず、この材料では電子とフォノンの相互作用が極めて弱いことが確認されました。
つまり、電子が原子の振動とあまりぶつからないのです。
電子が原子の振動に邪魔されにくいため、熱を効率よく運べる状態になっています。
さらに、原子の振動のエネルギーの並び方に特徴があることも分かりました。
振動の種類どうしのあいだに大きな“段差”ができていて、そのおかげで振動どうしがぶつかりにくい構造になっていたのです。
これにより、振動が運ぶ熱も減速しにくくなります。
つまりθ-TaNでは、電子とフォノンのどちらも「足止めされにくい」状態が同時に成立していました。
この二重の効果が、金属としてこれほど高い熱伝導率を生み出していると考えられています。
研究チームは、この材料が将来、AI用のチップやデータセンターのサーバー、航空宇宙機器、量子コンピューターなど、特に発熱が大きい分野で役立つ可能性があるとしています。
この研究は、「金属の熱伝導には限界がある」という長年の常識を見直すきっかけとなる成果です。
放熱材料の設計思想そのものを変えるかもしれない大きな発見だと言えるでしょう。
参考文献
Newly discovered material conducts heat nearly 3x faster than any metalhttps://newatlas.com/materials/metallic-material-conducts-heat-3x-tantalum-nitride/
UCLA-led team discovers metallic material with record thermal conductivityhttps://newsroom.ucla.edu/dept/faculty/tantalum-nitride-record-thermal-conductivity-ucla-research
元論文
Metallic θ-phase tantalum nitride has a thermal conductivity triple that of copperhttps://doi.org/10.1126/science.aeb1142
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部