GCAP計画の行方、日英会談は国防投資計画を発表できる数少ない政治的機会

英国のスターマー首相は国防投資計画の主要な数字を12日に発表すると期待されていたが、ヒーリー国防相の辞任で阻止され、14日の日英首脳会談が国防投資計画を発表する「数少ない政治的説明のつく機会」となり、これを逃すとGCAP開発作業の継続が本当に怪しくなる。

参考:I have a duty to stay on, says PM as he justifies defence spending decisions 参考:Chris Mason: Starmer defiant after defence spending row 参考:UK military chief writes to PM amid worry over defence spending plan

英国のスターマー首相は国防費をGDP比3.0%まで増額する公約、特に2025年6月の国防戦略見直し結果の受け入れに基づく国防投資計画の公表について国内外から政治的決断が迫られており、ルーク・ポラード国防即応・産業担当相は6月1日「キア・スターマー首相は7月7日のNATO首脳会議までに国防投資計画を公表する強い決意である」と述べ、スターマー首相自身も5日「私たちが生きている時代はこれまでで最も危険で不安定な時代だと言っても過言ではない」と言及し、国防投資計画を政府と軍の緊密な協議を経て7月7日のNATO首脳会議前に公表することを確認した。

出典:UK Ministry of Defence

国防投資計画は「今後10年間にどれぐらいの資金をどの分野・能力に投資するのか」を定義するもので、これを公表するということは「今後10年間の国防投資に供給する資金に財政的裏付けが確保された」と政治的に約束することになり、この公表が8カ月近くも遅れているのは国防費増額と国防投資計画の財政的裏付け=財源確保を巡って財務省との調整がついていないためで、日本視点では単一プログラムのGCAPに対する資金供給が、英国やNATO視点では包括的な防衛プログラムに対する予算配分はどうなるのかが懸念事項で、国防戦略の見直し結果=英国の再軍備計画を実行に移すには最低でも280億ポンドの資金が足りない。

ヒーリー国防相は軍が受け入れられる国防費の増額範囲は最低は180億ポンドだと主張し、リーブス財務相は受け入れ可能な追加支出は120億ポンドだと譲らず、Financial Timesは「スターマー首相は間をとって150億ポンドを追加支出する妥協案を承認する見込みだ」と報じていたが、ヒーリー国防相は11日「スターマー首相は脅威が高まっているにも関わらず国防費を削減している」「首相には国防投資計画の合意案は受け入れられないと主張した上で残される選択肢は国防相の辞任だけだ」と批判して辞任し、アル・カーンズ国軍担当閣外相(国防副大臣相当)も辞任を表明した。

出典:UK Prime Minister

公共放送局のBBCも「ヒーリー国防相の辞任はスターマー政権に対する痛烈な批判だ」「首相は今後4年間で135億ポンドの国防費増額を提示したが、国防関係筋によれば135億ポンドの実際は『100億ポンドの増額』と『財務省の巧妙な手口』を組み合わせたものになるという」と、Sky Newsも「リチャード・ナイトン国防参謀総長が国防費増額について首相へ書簡を送った」「この極めて異例な動きは今後4年間の国防費増額が130億ポンドしかないと判明した直後に起きた」「これから密室で何が話し合われるにせよ、今週の金曜日=12日の演説で国防投資計画の主要な数字を発表するという期待は消え去った」と報じている。

現地時間の13日午後8時時点でも国防費増額の承認や国防投資計画の発表は行われておらず、ヒーリー国防相の辞任は12日発表を阻止するための手段であった可能性が高く、スターマー首相は批判された国防費増額に関して「私は資金を捻出するために全省庁に予算削減を求めるなど厳しい決断を下した」と自身の決定を正当化することに務めて「誰が首相になろうとも私と同じ逆風に直面することになるだろう」「(国防費増額問題において誰が首相になっても)それは何も変わらない」と言及し、労働党内の潜在的な党首候補者を牽制した。

Greater Manchester Mayor Andy Burnham confirmed for the first time his intention to challenge Keir Starmer to be Britain’s prime minister if he wins a parliamentary by-election in two weeks https://t.co/VKvpD8fDYH

— Bloomberg (@business) June 4, 2026

6月18日のメイカーフィールド補欠選挙で国政復帰を狙うマンチェスターのアンディ・バーナム市長は「福祉予算の削減にためらいはない」と、2026年5月の地方選挙大敗の責任を取ろうとしない首相に反発して政権を去ったウェス・ストリーティング元保健相も「国防費をめぐる論争や国防相の辞任は政権中枢の優柔不断だ」「首相は選択し、決断し、導いていかなければならないのに何もしていない」と言及し、複数の英メディアも「スターマー政権は末期状態だ」と報じており、恐らく「補欠選挙の結果=バーナム市長の当選」が党首選へのトリガーになるはずだ。

保守党のケミ・ベイドノック党首も「国防費増額の財源を確保するため福祉の削減をやるべきだ」と主張しているが、スターマー首相も社会保障費の大幅削減を試みたものの「労働党の魂(労働者や社会的弱者の保護)を売るのか」と所属議員の約1/4が反発して頓挫したため、バーナム市長が党首選に勝利しても同じ抵抗にあう可能性がある上、国債の新規発行は金融市場の支持=英国財政に対する信頼を著しく損ない国債金利の上昇を招いて資金調達コストの負担が跳ね上がるため事実上困難と言われている。

“The defence of our nation is the first duty of government.”

It is. Your predecessor resigned yesterday because Keir Starmer wouldn’t fund it properly.

We need to cut welfare to pay for defence. https://t.co/l0VIEnltjH

— Kemi Badenoch (@KemiBadenoch) June 12, 2026

国防投資計画をメイカーフィールド補欠選挙の投票日までに発表できなければ「7月7日のNATO首脳会議までに発表する」という話の実現はかなり難しくなり、バーナム氏が当選した場合には労働党は党首選モードに入り、7月から8月にかけて政治的な空白や停滞が生じる可能性を否定できない。

英国の政治慣習では「政府は選挙結果に影響を与えかねない発表、決定、文書公表を控える」というのが一般的で、選挙公示日から選挙当日まで重要な計画や予算関連文書の発表を凍結する期間=パーダが存在するものの補欠選挙には厳格に適用されないことが多い。それでも巨額の予算を伴う重要政策の発表を補欠選挙の投票週にぶつければ「政府が選挙結果に影響を与えようとしている」と見なされやすく、野党やメディアからも強く批判されるため、14日に予定されている高市首相との首脳会談が数少ない政治的説明(大義名分)のつく機会になるだろう。

これより、英国、イタリアを訪問し、続いてG7エビアン・サミットに出席するため、フランスを訪問いたします。… pic.twitter.com/8JUYP4Qyq8

— 高市早苗 (@takaichi_sanae) June 13, 2026

スターマー首相と高市首相が首脳会談後にGCAP計画へのコミットメントを表明するのはほぼ確実で、この中で6月末に資金供給が切れるGCAP開発作業に関連して「国防費増額の数字」を発表するかもしれないし、再び口先だけのコミットメントに終始すれば党首選の行方が決まるまで重要政策の発表を行う政治的余地はさらに狭まることになる。

スターマー政権は正直なところGCAPがどうとか言っている場合ではないが、ここで何らかの動きがなければGCAP開発作業は本当に止まってしまうかもしれないし、再び数ヶ月間のつなぎ契約で時間を稼いでも「国防費増額や国防投資計画の発表」という根本的な問題が解消されない限り「GCAP計画は資金供給にリスクがあるため複数年契約に移行できない=計画は順調ではなく予定通りに完成するのか?」と印象付けてしまうことになるだろう。

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※アイキャッチ画像の出典:GlobalCombatAir

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