「カイロス」ロケット3号機、打ち上げ失敗 発射68.8秒後に飛行中断
スペースワンは2026年3月5日、小型ロケット「カイロス」3号機を、和歌山県の自社射場「スペースポート紀伊」から打ち上げた。
しかし、発射から68.8秒後、1段目の燃焼中に、自律飛行安全システムによる飛行中断措置(自爆)が行われ、打ち上げは失敗した。
同社は、今回の打ち上げで貴重な経験やノウハウを得られたことを「前進だ」と位置づけ、原因の徹底究明と対策に全力を挙げて次につなげる考えを示した。
カイロスロケット3号機の飛翔カイロス3号機の打ち上げ
カイロス3号機は、3月5日11時10分00秒、スペースポート紀伊から離昇した。
ロケットは当初、順調に飛行していたものの、発射から68.8秒後、1段目の固体ロケットモーターの燃焼中に、自律飛行安全システムによる飛行中断措置が行われた。
このときロケットは、高度約29km、射点から南に約20kmの位置を飛行していた。ロケットや搭載していた衛星は破片となり、射点から南へ約150km離れた海上に落下したと推定されている。人的・物的被害は発生してないという。
打ち上げ後の記者会見で同社は、機体に搭載した自律飛行安全システムが異常を検知したため、飛行中断が行われたと発表した。
自律飛行安全システム(Autonomous Flight Safety System)は、ロケットが飛行中の状態をリアルタイムで監視し、異常が起きた際にソフトウェアとハードウェアが自動的に判断して、人の手を介さず飛行を中断させる仕組みである。
スペースワンの関野展弘副社長は、「飛行はきわめて順調で、(飛行中断の直前まで)ロケットはノミナル(計画どおり)の飛行経路を維持していた。機械環境や熱環境、搭載機器にも大きな異常は見られず、機体は正常に作動していた」と述べた。そのうえで、「受信データには、自律飛行安全システムに関連する問題を示唆するものがあった」とし、同システム自体に何らかの異常が発生した可能性があるとの見方を示した。
自律飛行安全システムは2系統で冗長化されており、それぞれの系統が常に自身の健全性(正常に作動できる状態かどうか)を監視している。万が一、片方の系統に異常が生じ、「将来的に機体を確実に破壊できなくなるおそれがある」と判断した場合には、まだ確実に飛行中断できるうちに、もう一方の系統が飛行中断を行う仕組みになっている。
今回、機体側に大きな異常が見られないまま飛行中断に至ったことから、同社は、自律飛行安全システムの内部で何らかの不具合が起き、片方の系統が健全ではないと判定された可能性があるとみている。
関野氏はまた、自律安全飛行システムの事前チェックについて、「飛ばす前にはハードウェア、ソフトウェアともに数々のチェックを行っているが、問題はなかった」とした。また、「機体全体では2号機と部分的に変えているところもある」としたうえで、同システムについては「何ら変えていない」とし、前回の飛行実績があるものと同じ設計・部品を使用していたことが明言されている。
自律飛行安全システムを実運用を前提に搭載して打ち上げたロケットは、日本ではカイロスが初めてである。H-IIAロケットなど従来の日本のロケットでは、地上から機体の状況を監視し、万が一の際には地上から飛行中断指令を送る「指令破壊」方式が一般的だった。これに対し、自律飛行安全システムでは、地上からの指令を待たずにロケットが自ら判断して飛行を中断する。地上との通信が不要で、人の判断を介さないため、省力化や低コスト化につながるほか、より確実で安全な手段とされている。
飛行中断措置が行われた瞬間と思われる画像「後退ではなく前進」
スペースワンは2018年、キヤノン電子やIHIエアロスペースなどの共同出資で発足した企業で、小型衛星の打ち上げ輸送サービスの事業化に取り組んでいる。自社射場と小型ロケットによる高頻度運用を目指し、2020年代後半に年間20機、2030年代には年間30機の打ち上げによる「宇宙宅配便」の実現を目標に開発を進めている。
同社が開発しているカイロスロケットは、全長約18m、全備質量約23tの小型ロケットで、1段目から3段目までは固体ロケット、第4段に液体推進系キックステージ(PBS)を搭載する。高度500km、軌道傾斜角97度の太陽同期軌道(SSO)に150kgの打ち上げ能力をもつ。
カイロスは2024年3月に1号機、同年12月に2号機の打ち上げに挑んだが、いずれも失敗に終わった。今回の3号機は、飛行を通じた各種技術データ取得のほか、複数の衛星の軌道投入を目指し、超小型衛星5機を搭載していた。打ち上げが成功すれば、日本の民間事業者が開発したロケットとして初の衛星軌道投入となることから、地元住民や宇宙ファンからも”三度目の正直”となるかが注目されていた。
スペースワンの豊田正和社長は、今回の打ち上げについて、「飛行データをしっかり分析し、何が起きたのか確認したい。その結果を踏まえて必要な改善を行い、次の飛行につなげ、打ち上げ輸送サービスの実現に向けて着実に前進したい」と述べた。
とくに2号機では、発射から約86.2秒後、フェアリングの開頭まで進んだのちに飛行中断した。一方、今回の3号機は、発射から68.8秒後、1段目の燃焼中に飛行中断しており、2号機よりも早い段階で失敗したことになる。
これについて、豊田氏は「あたかも後退してるように見えるかもしれないが、確実にノウハウ、経験を蓄積することができたので、前進ができたと考えている。前に進んでいる限りにおいて問題はない」と述べ、今回の打ち上げの意義を強調した。
また、2号機では第1段の姿勢制御系に問題が発生したことで飛行中断に至ったが、関野氏は「3号機ではまったく問題がなかったことがデータで確認されている」とし、改善が確認できたことが「自信になった」と述べた。また、打ち上げ延期を重ねる中で得た気象の読み方や運用判断の経験についても、「今後の運用に生かせるものになった」として、前向きな姿勢を示した。
スペースワンは、カイロス4号機と5号機について、すでに顧客との契約を終えているとした。今後は、まず3号機の原因究明に全力を挙げ、確実な対策を講じることを最優先としたうえで、契約中の顧客に対して調査結果や講じた対策の内容を丁寧に説明し、十分な理解を得ながら次の打ち上げに進んでいくとした。
豊田社長は、「お客さまからは『頑張ってくれ』、『次も早くやってほしい』といった非常に心強い言葉をいただいている」と述べ、顧客との信頼関係を維持しながら事業を継続していく考えを示した。
また、2020年代後半に年間20機、2030年代には年間30機を打ち上げるという目標についても、「この考えを変えるつもりはない」と明言し、スピード感を失わず、打ち上げ輸送サービスの実現に向けて着実に前進する姿勢を強調した。
カイロスロケット3号機の打ち上げ