元日の震災、火災…「いきのびてください」 院長はLINEに書いた [石川県] [能登半島地震]:朝日新聞

有料記事

上田真由美

連載「まるごとのケア、能登から」

 「リアル松潤」

 患者たちが親しみを込めて、そううわさする開業医が、石川県輪島市にいる。

 今夏、TBSのドラマ「19番目のカルテ」で松本潤さんが演じた主人公は「総合診療医」。

 患者の症状だけでなく、背景にある家庭環境や心の状態を丁寧に聞き取りながら診察し、専門医につなぐ姿を、患者たちが重ねてそう呼ぶ。

 「ごちゃまる先生」こと総合診療医の小浦友行さん(46)は、生まれ育った輪島市で、妻で小児科医の詩(うた)さん(44)と「ごちゃまるクリニック」を営んでいる。

外来診察をする小浦友行院長。診察室に入った患者に「表情が明るくなった」と声をかけた=2025年12月5日午前9時54分、石川県輪島市河井町、上田真由美撮影

 2024年1月1日、午後4時10分。

 友行さんは「輪島朝市」周辺の自宅2階にいた。

 とんでもない揺れで、とっさに机の下に入った。

 机の脚にしがみついていても、見えない力ではじき飛ばされそうだった。

 すぐ近くは海だ。防災行政無線から津波の危険を知らせるサイレンが鳴っている。

 1階に駆け下りると、84歳の祖母が倒れた桐(きり)だんすの下敷きになっていた。

 見えていた祖母の足を持って思いっきり引っ張った。ずるずると出てきた祖母の頭には傷があったけれど、それどころではなかった。祖母をおぶって両親と一緒に400メートルほど離れた河井小学校に向かった。

「いきのびてください」

 家々が倒壊し、周りには砂煙が舞っていた。道路は波打って亀裂が入り、車では走れそうになかった。

 たどり着いた小学校には人が集まっていたが、鍵がなくてすぐに入れなかった。防犯ベルの音が鳴り響いていた。

 歩いて行ける範囲に、脳梗塞(こうそく)の後遺症で寝たきりの在宅患者がいた。両親と祖母を小学校に残して向かうと、ちょうど親戚が軽トラックで駆けつけていた。最寄りの指定避難所「ふれあい健康センター(ふれ健)」に運び入れるのを手伝った。

 ふれ健のすぐ近くに、3階建てのごちゃまるクリニックがある。建物は壊れ、入り口も開かなかった。

 駐車場に止めてあった訪問診療用の車の窓ガラスをれんがで割り、中からなんとか診療バッグを取り出した。

 午後5時23分、クリニックの業務用のグループLINEに投稿した。

 《いきのびてください。クリニックは使えません》

発災から1時間余り後、小浦友行さんはクリニックのグループラインに「いきのびてください」と投稿した=小浦さん提供

 空に煙が立ちこめていた。

 輪島朝市で大規模な火災が起きていた。

人口減少が進む能登半島の被災地で、医療を超えた地域まるごとのケアを目指すクリニックの2年を追います。全5回の予定です。

避難所での「介護

 朝市に近いふれ健には、避難…

この記事を書いた人

上田真由美
金沢総局|能登駐在
専門・関心分野
民主主義、人口減少、日記など市井の記録を残す営み

2024年1月1日午後4時10分ごろ、石川県能登地方を震源とする強い地震があり、石川県志賀町で震度7を観測しました。地震をめぐる最新ニュースや、地震への備えなどの情報をお届けします。[もっと見る]

連載まるごとのケア、能登から(全5回)

この連載の一覧を見る

関連記事: