脳と体を改善する科学的呼吸法、呼吸はアルツハイマーの兆候にも
ストレスの軽減から睡眠の改善まで、呼吸法は日々の生活に対する体と脳の反応を変化させることができる。(PHOTOGRAPH BY MINISERIES, GETTY IMAGES)
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気持ちが張り詰めているときに「深呼吸して」と言われたことがある人は、このありふれた助言に科学的な裏付けがあることを知ってほしい。研究によれば、意識的な呼吸には、心臓の健康状態の改善、不安の軽減、気分の高揚、認知機能の向上、睡眠の質の改善など、すぐに表れる効果から長期的な効果まであるという。
「呼吸法は、神経系を落ち着かせ、心身の回復力を高める、最も単純で効果的なツールの1つです」と、英ブライトン&サセックス医科大学の呼吸法研究室のガイ・フィンチャム氏は言う。「けれどもごく身近なものであるがゆえに、その威力は過小評価されがちです」。氏は2023年に学術誌「Scientific Reports」に呼吸法とメンタルヘルスに関するレビュー論文を発表している。
以下では、意識的に息を吸ったり吐いたりすることが体に良い理由や、おすすめの呼吸法、安全かつ効果的に呼吸法を行うコツを紹介する。
最新の科学は、日々の呼吸の仕方が、心臓の健康や気分から記憶や睡眠まで、あらゆる面に影響を及ぼすことを示唆している。
最も明らかな例は心臓血管系への影響だ。横隔膜を動かす腹式呼吸は、迷走神経(脳幹から始まり、首を通って、大腸などの重要な臓器の多くに分布する神経)を刺激する。深い呼吸によってこの神経が活性化されると、全身に鎮静させる信号を送り出して、心拍数を調節したり、血圧を下げたり、循環を改善したりするのを助けることが知られている。(参考記事:「よい姿勢は慢性痛やうつも改善、全身と心の健康に大きな差がつく」)
また、「呼吸をゆっくりにし、空気を吸う量を少し減らすと、肺と血液中の二酸化炭素濃度がわずかに上昇します」と、アイルランド、ビューテイコ・クリニック・インターナショナルの創設者パトリック・マキューン氏は言う。「二酸化炭素は天然の血管拡張剤として働くので、これは良いことです。血管が広がれば、酸素を豊富に含む血液が脳や心臓により多く届くようになるからです」
迷走神経は、「休息と消化」反応を引き起こして体の「闘争・逃走反応(脅威と闘ったり逃げたりするのに体の準備を整える反応)」に対抗する副交感神経系の一部であるため、意識的にゆっくり呼吸することで、ストレスや不安や抑うつの症状を軽くすることができる。米ハンチントン記念病院の肺・睡眠医学の専門医ラジ・ダスグプタ氏は、「長くゆっくりと呼吸すればするほど副交感神経系の鎮静作用がより活性化します」と言う。
2017年には米スタンフォード大学の研究チームが、呼吸制御中枢と脳の覚醒系をつなぐ脳幹の神経細胞(ニューロン)群をマウスで特定した。「この神経経路は、コントロールされた遅い呼吸が、さらに落ち着いた状態に導くしくみを説明するものです」とマキューン氏は解説する。
落ち着いた感覚は、ピリピリと神経質になった状態を和らげるだけでなく、食べ物や依存性のある物質への渇望を抑えることも示されている。