コロナワクチン後遺症を診断するのに必要な検査とは

医療Hand poked on a row of wooden dominoes, with the words "COVID19" on the first piece and the words "LONG COVID" on subsequent pieces.

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わが国では、厚労省研究班(大曲班)から、「懸念を要するような特定の症状や疾病の集中は見られない」という総括が厚生科学審議会に報告され、その結果、国レベルでは、コロナワクチン後遺症は存在しないことになっている。

コロナワクチン後遺症は存在するのか?

厚労省のホームページに記載されているQ&A欄では、2025年5月2日においても、「コロナワクチン接種後に遷延する症状(いわゆる後遺症)が生じるのでしょうか」という質問に対して以下のように回答している。 現時点において、ワク...

コロナワクチン接種後の健康被害に悩む患者や家族からは、医療機関を受診しても、検査で異常は見られないという理由で、取り合ってもらえないという訴えを聞くことが多い。

日本小児科学会誌に、小児感染症専門医グループが実施したコロナワクチン接種後の遷延する症状に関する多施設共同研究が掲載されている。専門医グループによる診断は、慢性頭痛、心身症、解離性神経症状反応、特発性胸痛、起立性低血圧など、多くが心理的な反応とされ、器質的な病気と診断されることは少ない。

感染症専門医は考察で、「ワクチン接種後にみられる遷延症状の多くは、従来から思春期によく見られる症状が主で、一般小児科医でも対応が可能であるが、場合によって、児童精神科や不登校外来への紹介が望ましい」と述べている。

中・高校生にみられるコロナワクチン後遺症の実態

日本小児科学会誌掲載論文と新型コロナワクチン後遺症患者の会からの報告の比較 中・高校生にみられるコロナワクチン後遺症の対応には学業が絡んでおり、成人とは違った観点が必要である。 中・高校生に見られたコロナワクチン後遺症:慢性疲労...

コロナワクチン接種後の増加が憂慮される中・長期の後遺症には、1)心血管系疾患、2)自己免疫疾患、3)感染症、4)がん等が含まれる(図1)。これらの疾患を診断するには、保険診療で実施可能な検査のほか、研究的な意味合いのある検査も必要である。

図1 コロナワクチン接種後の増加が憂慮される中・長期の後遺症

わが国では、コロナワクチン接種後の後遺症に対して、このような検査はほとんど行なわれていないのが実情である。その結果、後遺症の診断がなされていない可能性がある。

最近、イエール大学の岩崎明子教授のグループは、コロナワクチン接種後の慢性疾患(後遺症)に対して、免疫学的検討を行った結果を報告している。その結果、後遺症患者には、種々の検査値異常がみられることが示された。

Immunological and Antigenic Signatures Associated with Chronic Illnesses after COVID-19 Vaccination

筆者も、これまで、コロナワクチン接種後の後遺症に罹患した中・高校生を対象に、倫理委員会の承認のもとに、免疫およびウイルス学的検討を行なってきた。イエール大学からの報告を交えて、その結果を紹介する。

表1には対象となった6人の臨床像を示す。全例が、1回目あるいは2回目ワクチン接種後3ヶ月以内に、倦怠感を主症状に医療機関を受診している。口腔内カンジダ症状や帯状疱疹など免疫能の低下を示唆する症状を示す患者もみられた。検査は、症状の発現から1年以上たった時点で行われた。

表1 中高校生に見られたコロナワクチン接種後の後遺症

免疫状態を把握するには、末梢血リンパ球分画の測定が必要である。リンパ球には多くの分画があるが、何種類かの抗体で染色し、フローサイトメトリーで解析することによって、リンパ球の分画を知ることができる。

図2には、3種類の抗体で染色することで、Tリンパ球の中でCD4、CD8分画を測定した結果を示す。エイズでは、CD4分画が減少する。

図2 フローサイメトリーによるリンパ球分画の解析例

表2には、4人の検討結果を示す。2人において制御性T細胞(Treg)が増加していた。Tregが増加すると免疫状態が抑制的に傾くことが知られている。筆者の検討でも、イエール大学からの報告でも、成人ではTregの増加は見られず、今回の結果は、年齢特有のものかもしれない。

今回の小児例ではCD4陽性リンパ球、CD8陽性リンパ球の明確な増減は見られなかったが、イエール大学の報告ではCD4陽性リンパ球の減少とTNFα陽性CD8リンパ球の増加が見られた

表2 コロナワクチン後遺症における末梢血リンパ球分画

帯状疱疹は、小児期に罹患してその後体内に潜んでいた水痘ウイルスが、高齢化や免疫能が低下することで、再び活性化して発症する。コロナワクチン接種後に帯状疱疹を発症する症例は多い。今回の対象となった6人の中にも、帯状疱疹を発症した中学生がいる。水痘ウイルスと同じように、ヘルペス属のウイルスには、免疫能が低下すると再活性化して病気の原因になることがある。

今回、EBウイルス(EBV)、サイトメガロウイルス(CMV)、ヒトヘルペス6型ウイルス(HHV6)、ヒトヘルペス7型ウイルス(HHV7)について、血液中と唾液中のウイルスDNA量を測定して活性化の有無を検討した。

血液中からウイルスDNAが検出されることはなかったが、唾液中では、2人からEBウイルスのDNA、5人からHHV6のDNA、2人からはHHV7のDNAが検出された(表3)。

表3 コロナワクチン後遺症における唾液中のヘルペスウイルス量(コピー/ml)

唾液中のHHV6は、うつ病や慢性疲労症候群の発症と関連していることを示す研究報告がある。

Human Herpesvirus 6B Greatly Increases Risk of Depression by Activating Hypothalamic-Pituitary -Adrenal Axis during Latent Phase of Infection

Human Herpesvirus 6 Infection and Risk of Chronic Fatigue Syndrome: A Systematic Review and Meta-Analysis

イエール大学では、直接、ウイルスDNAを測定するのではなく、血清抗体価を測定することで、CMV、EBV、単純ヘルペス1型、単純ヘルペス2型の再活性化を検討した。後遺症患者では、EBVの再活性化の頻度が健常人コントロールと比較して高いことが示された。HHV6、HHV7については検討されていない。

筆者は、さらに、250種類の自己免疫疾患と関連する自己抗体の検出が可能なタンパク質アレイを用いて、自己抗体の検出を行った。4人から、強皮症、シェーグレン症候群、原発性胆汁性肝硬変と関連する自己抗体が検出された(表4)。

表4 コロナワクチン後遺症における自己抗体の検出

イエール大学で、血中スパイクタンパク量を後遺症患者と健常人コントロールとで比較したところ、後遺症患者ではコントロールよりもスパイクタンパク量が有意に高いことが示された。ワクチン接種日から709日後の後遺症患者の血液からも検出されており、血中のスパイクタンパク濃度は漸減していないことから、体内での産生が持続している可能性もある(図3)。

図3 コロナワクチン後遺症における血中スパイクタンパクmedRxiv preprint doi:https://doi.org/10.1101/2025.02.18.25322379

通常の検査では異常がないとされても、免疫学的、ウイルス学的な検査を行うことで、高頻度に診断の手がかりになる異常所見が見つかった。このことは、ワクチン接種後後遺症の多くは何らかの器質的疾患であることを示している。

とりわけ、今回、臨床症状から慢性疲労症候群と診断された5人の唾液から高濃度のHHV6DNAが検出されていることは注目される。5人は通常の学校生活が送れずに、休学や退学を余儀なくされている。慢性疲労症候群の病因は不明とされているが、4人からは自己抗体も検出されており、慢性疲労症候群は自己免疫疾患の可能性も考えられる。

ウイルスの再活性化や自己抗体が検出されなかった症例は、血中コルチゾールや副腎皮質刺激ホルモンの値が低く、臨床症状と合わせて副腎皮質機能低下症と診断された。副腎皮質機能低下症の多くは自己免疫的機序で発症すると考えられている。

中・高校生におけるコロナワクチン後遺症:副腎機能低下症

中・高校生におけるコロナワクチン後遺症:副腎機能低下症
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現在、わが国では、コロナワクチン後遺症の存在は認められていないが、筆者らの検討やイエール大学の研究結果から、免疫学的異常を伴う一群の疾患が存在するのは明らかである。

このような検査が行われていない対象を検討して出された、「懸念を要するような特定の症状や疾病の集中は見られない」という大曲班の総括は、再検討が必要と思われる。

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