焦点：トランプ氏の関税戦略、初期合意に成果も長期課題は解決見えず

[ワシントン １３日 ロイター] - トランプ米大統領の関税戦略は、米中間の高関税の９０日間停止や英国との限定的な貿易協定など、初期の合意を生み出しているが、世界の商取引のバランスを取り戻すには程遠いと貿易専門家やアナリストは指摘している。

米中関税の休戦により世界的に株価が上昇、価格高騰や重要鉱物不足による損害を８月までは食い止められるかもしれないが、中国の国家主導の輸出主導型経済モデルに対する米国の長年の不満には全く対処していない。

その上、中国との複雑な交渉に新たな厳しい期限が設定されることになり、相互関税の適用停止が終了する７月上旬に向け、他の数十カ国との協議も並行して行わなければならない。トランプ政権の限られた交渉資源が圧迫されるのは必至だ。

今後数週間で初期の貿易協定が複数締結されると予想され、スイス、インド、日本が先頭に立つ可能性が高い。しかし、英国の合意と同様に、これらも原則合意にとどまり、最終決定にはさらなる作業が必要となる見込みだ。サプライチェーンと貿易フローの永続的な変化は、実現までに数年かかる可能性がある。

バイデン前大統領の下で通商担当の高官を務め、現在はワイリー・ライン法律事務所のパートナーであるグレタ・ペイシュ氏は「まだ結論は出ていない。振り返ってこれが成功した戦略だったと言えるまでには、しばらく時間がかかるだろう」とし、「これは第１ラウンドだ」と述べた。

第１次トランプ政権の高官で、現在はアキン・ガンプ法律事務所に所属するケリー・アン・ショー氏は、米国の貿易赤字に対する長年の懸念を経て中国、英国、その他の国々を交渉のテーブルに着かせたことはトランプ氏の功績と評価。

「この戦術に賛成か反対かは別として、少なくともトランプ氏は既成概念にとらわれない考え方をしている。いくつかの合意を記録的な速さで交渉しているが、これは前例のないことだ」と語った。

＜米中協議、詰めはこれから＞

トランプ氏の怒りを買っている主要貿易相手である欧州連合（ＥＵ）は、依然として詳細な交渉が始まるのを待っている。中国とも実質的な合意がどの程度早く達成できるかは不明だ。

米中交渉担当者はスイスで２日間にわたる協議の後、異例の共同声明を発表したが、次回協議の日程や会場は未定だった。

民主、共和両党は、中国が鉄鋼や太陽光パネルなどの製品を過剰に生産し、西側諸国の市場にダンピングしていると批判しているが、こうした政策は変わっていない。

ペイシュ氏は、中国は自国の経済を変え、より多くの米国企業が受注を争奪するのを容認することに長らく抵抗してきたと指摘。「中国の経済政策理論と、世界における中国の活動の仕方そのものに、われわれは直面しているのだ」と話す。

リベラル雑誌「アメリカン・プロスペクト」の共同創刊者ロバート・カットナー氏は、中国政府は国家主導の資本主義から利益を得て技術や製品の優位性を生み出したり獲得したりしてきた重商主義体制を放棄するつもりはなく、「ましてや９０日以内にそうするはずはない」と述べた。

ペイシュ氏は、たとえ最終的に中国が知的財産法の改革や米国企業の参入障壁の引き下げを約束したとしても、その順守状況を評価するのは極めて困難とみている。

トランプ政権とバイデン政権下で働き、現在はキング・アンド・スポルディング法律事務所のパートナーを務める貿易弁護士ライアン・マジェラス氏は、トランプ大統領１期目の「第１段階」合意で中国が米国製品や農産物、エネルギー、サービスの購入を大幅に増やすという約束を果たさなかったことも留意すべき点だと指摘。「前向きな展開だが、今後の交渉がどうなるかは詳細が鍵だ」とし、「中国との貿易問題には長年の懸念が数多く存在し、米政権は意味のあるコミットメントを求めるだろう」と語った。

＜ゴールはまだ＞

戦略国際問題研究所（ＣＳＩＳ）の非常勤研究員で、オバマ元大統領の下で通商代表部（ＵＳＴＲ）代表代行を務めたミリアム・サピロ氏は、米中貿易摩擦の根深い溝を解決するには長期的な解決策が必要だが、９０日という短い期間で非関税障壁に対処するのは「ほぼ不可能」だと述べた。

「本当に必要なのはより一貫性のある対応だ。米国企業は、サプライチェーンのルート変更に慌てて取り組むのではなく、事前に計画を立てることが可能である必要がある。そして米国の家庭は、関税が家計に与える影響に非常に不安を感じている」とした。

全米靴流通小売協会のマット・プリースト会長兼最高経営責任者（ＣＥＯ）は、今回の合意が緊張緩和に向けた良い一歩であることには同意するが、関税が９０％近くに達する靴など、一部の中国からの輸入品には依然として高い関税が課せられているとし、「まだゴールラインを越えてはいない」とコメントした。

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