コラム:第2次トランプ政権、「フレンドショアリング」に影 インドには暗雲か
[ムンバイ 19日 Breakingviews] - トランプ米次期大統領を巡っては、誰が味方かを探るより、敵を見つける方が簡単だ。350億ドル(5兆4000億円)の対米貿易黒字を抱えるインドにとって、これは悩みの種だ。トランプ氏の政権復帰で新たな貿易紛争の懸念が高まり、インド製造業の壮大な構想にとって脅威になりかねない。サプライチェーン再編をめざす世界的な動きも試練に直面している。
表面的には、中国からの輸入品に60%の輸入関税をかけるというトランプ氏の構想は、インドにとって有利に運ぶはずだ。だが確証はない。共和党が選挙期間中に主張した「相互貿易法」は、自国製品に対する米国の輸入関税よりも高い税率を米国製品に適用している国を標的としている。たとえば、インドが米国からの輸入品に適用する税率は、インドからの同等の輸入品に米国が課している税率よりも平均で10%近く高い。トランプ氏が選挙運動中にインドを「関税王」と呼んでいた点も気がかりだ。
インドの対米輸出と対米輸入、および貿易黒字を示す棒グラフ。さらに、先週のブルームバーグの報道によれば、インド準備銀行(中央銀行、RBI)は人民元の下落とそれに伴う中国製品の価格低下に対抗するために、ルピー安を容認する構えだという。これが米国の次期政権を喜ばせるとは考えにくい。第1次トランプ政権中の2018年、米財務省が最初に為替操作監視国リストに追加したのはインドだった。
これらはいずれも、サプライチェーンの脱中国シフトを進めているアップルなどの企業にとっては不確実性を高める要素だ。結果的にインド製品に対する関税が対中国製品よりも低くなったとしても、製造企業としては、高い輸入関税によってすでにメキシコやベトナムに比べて製造コストが高くなっている国で生産を拡大するコストを正当化するのは難しくなるのではないか。
結局のところ、トランプ氏がチラつかせている報復関税を実行に移した場合、中国以外のアジアの製造拠点の魅力もある程度は失われる可能性がある。トランプ次期大統領が生産拠点の米国回帰を求めていることを考えれば、こうした推測が的中するかもしれない。そうだとすれば、フレンドショアリング(中国以外の友好国への生産シフト)の構想も急速に輝きを失うだろう。
●背景となるニュース
*インドルピーは12日、トランプ氏の米大統領選挙での勝利を受けたドル高の影響で、人民元その他の地域通貨の下落に押され、過去最安値水準を記録した。
*ブルームバーグは11日、政策担当者の意向に通じた匿名の人物の談話として、インド準備銀行は人民元と歩調を合わせて自国通貨を切り下げる用意があると報じた。中国は、インド最大の貿易赤字の相手国となっている。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
(翻訳:エァクレーレン)
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Shritama Bose, India columnist, joined Breakingviews in November 2022. She covers the financial sector and related topics from Mumbai. She was earlier a reporter at Financial Express, a top business daily newspaper, tracking the Reserve Bank of India, lenders and fintech companies. She has a bachelor’s degree in English Literature and a postgraduate diploma in journalism.