長尺パターの始まりは笹生優花に喫した逆転負け ミンジー・リーがグランドスラム王手

◇女子メジャー第3戦◇KPMG全米女子プロゴルフ選手権 最終日(22日)◇フィールズランチ イースト (テキサス州)◇6604yd(パー72)

ウィニングパットを沈めると、手にした長尺パターが宙を舞った。ミンジー・リー(オーストラリア)にとってメジャー3勝目でも、この相棒とともにつかんだ初タイトル。苦渋の決断が報われた思いが、涙となってあふれた。「毎日がちょっとした苦行だった。きのうが3アンダーで、きょうが2オーバー。でも、トロフィーを手にするためにはどれも同じくらい重要だった気がする」。必死に積み重ねた一打一打の先に栄冠はあった。

2021年「エビアン選手権」、22年「全米女子オープン」を含めて順調にタイトルを積み重ねてきたアイアンの名手は、グリーン上が泣きどころだった。昨年の全米女子がひとつの分岐点になった。2年ぶりの大会2勝目へ2打のリードを持ってサンデーバックナインへ入ったが、10番で喫した3パットボギーから崩れて笹生優花に逆転を許した。コーチのリッチー・スミス氏とともに決断した今季からの長尺パター投入は、このショッキングな敗戦に端を発しているという。

「ここ数年、ロングゲームのことではなく、パッティングのことで、自分の中でも懐疑的な部分が少なくなかった。メディアやほかの人たちが私のパッティングについて、いろいろ言っているのを聞けば聞くほど、時間が経てば経つほど、それがどんどん大きくなっていったと思う。“ホウキ”に替えただけで、かなり自由になったと感じる」。長尺がもたらした“解放感”はスタッツ面からも明らか。昨季「-1.02」でツアー157位に沈んでいたパッティングのスコア貢献度は、今季「+0.97」で同8位と劇的に改善している。

そんな魔法のようなパッティングをもってしても、タフな最終日だった。2位のジーノ・ティティクル(タイ)に4打差、山下美夢有ら3位グループとは7打差と大量リードを持って出たが、吹きつける強風はコースからほど近いテキサス州ダラスに拠点を置く29歳にとっても悩ましい。「ずっと、リーダーボードを見ていた。鼓動が早くなっているのが暑さのせいなのかは分からなかったけど、みんなが思っているほど落ち着いてなんかなかったわ」と苦笑する。

実際に3ボギーが先行。数少ないチャンスホールとみていた後半14番(パー5)、15番まで必死に我慢を重ねた。待ち焦がれた14番は3m、15番も2m弱と絶対に逃したくない、しびれるバーディパットを決めきって優勝を引き寄せた。

大胆なスタイル変更でつかんだビッグタイトルは、これまで勝ち取った2つのメジャーとも明確に異なる。「もちろん全米オープンは絶対的なお気に入りだけど、最も価値のあるという意味では、この大会が一番だと思う」

オーストラリア勢としてはジャン・スティーブンソン、カリー・ウェブに続く3人目のメジャー3冠。異なる5つのメジャータイトルを持つウェブに続き、4つで達成となるキャリアグランドスラムに王手をかけた。「それが究極的な目標。殿堂入りしたくて、ゴルフを始めたんだから」。もがき苦しんだ先の勝利が、栄光への道しるべになる。(テキサス州フリスコ/亀山泰宏)

関連記事: