10億円超の戦車が数十万円の武器に負ける…ロシア軍相手に"不敗神話"を破った「ウクライナの新兵器」の正体

プレジデントオンライン

ロシアによる隣国ウクライナへの侵略戦争が長期化している。いま、戦場では何が起きているのか。元陸上自衛隊戦車連隊長で軍事史研究家の木元寛明さんは「ウクライナが繰り出した一人称視点ドローンが、戦場の力学を書き換えた」という--。

※本稿は、木元寛明『AIドローン戦争 現代戦を一変させる恐怖の兵器』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。

■侵攻から4年半、終わりが見えない戦争

2022年2月、ロシア軍はウクライナに軍事侵攻したが、5年目に突入した今日(2026年9月の本書執筆時)に至るまで、戦争が終結する気配は一向に見えない。

戦場の実態は、初期には動きのある機動戦の様相を呈したが、時間の経過とともに陣地戦に移行し、長大な戦線は膠着(こうちゃく)状態となっている。

ウクライナ戦線が機動戦から陣地戦線へと変化した要因は、戦争が長期化するにしたがって、ロシア軍もウクライナ軍も、機動戦の主体である機甲戦力と火力戦の骨幹となる砲兵戦力が消耗し、枯渇したからだ。

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Diy13

■コストをかけられない長期戦の「主役」

戦線が膠着状態に陥ると、最前線の部隊はお互いに近距離で対峙(たいじ)する。このような状況では、敵情を収集するために斥候を派遣する。斥候は敵の監視下・火制(火力で敵を制圧すること)下にある地域に潜入するため、人的被害も漸増せざるを得ない。

戦車、野砲、ミサイル、弾薬などは、無限に存在するわけではない。短期決戦であれば、高額で高性能な装備に頼ることが可能だが、想定外の長期戦になると、戦いのコストを下げざるを得なくなる。廉価で使い捨てできるものが望ましく、その答えの一つがドローンだった。

■「一人称視点ドローン」で敵情偵察

戦場環境が変わる中で、ウクライナ軍の最前線部隊は、市販ドローンを斥候の代替品として利用し始めた。戦場はウクライナの領土内におおむね限定される。ドローン本体やドローンを制御するためのソフトウェア、誘導装置、パソコンなどは、民生品として国内に出回っているので、入手は容易だ。

現代はスマートフォンの進歩が著しく、スマートフォンで高精細な動画--宇宙船内での活動状況、災害現場からの中継など--を誰でも見ることができる。データ通信技術の発展により、ドローン操縦に不可欠なリアルタイムの映像通信が可能になった。一人称視点ドローンの出現にはこのような背景がある。

徴集される兵士、あるいは志願兵の中には、ITやドローンに関する知識・技術を持っている兵士も存在し、「ドローンを利用して敵情を偵察したらどうか」といった提案がなされ、「おもしろそうだ、やってみろ」と、部隊もこれを受け入れるだけの度量と柔軟性があったにちがいない。

写真=iStock.com/Tomas Ragina
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tomas Ragina

■「やってみよう精神」が生んだ新戦法

もともと民生ホビー用途に開発されたFPV機体に爆薬を搭載し、兵士が映像を見ながら操縦することで、歩兵レベルで高精度の自爆攻撃が可能になった。この戦術によって、数百ドルの機体が数百万ドル規模の装甲車両や野戦陣地を破壊する例が相次ぎ、火力投射の概念そのものに変化が生じている。

(永井宏樹著『ドローン戦入門』─第3章 FPVドローンが戦場にもたらす変革と課題/イカロス出版)

ウクライナ人の国民性として、わが国では考えられないような、何でもやってみようという自由闊達(かったつ)な発想、それを許容する文化が感得される。彼らは国土防衛戦という過酷な環境の中で、好奇心、知識、技術を最大限発揮して、国内の民生資源をとことん活用して、強靱(きょうじん)な抵抗を続けている。無人システム軍の創設はこのことを象徴する具体的な例だ。

試行錯誤を重ねる中で、斥候の代替品が一人称視点ドローンへと進化した。一人称視点ドローンとはFPV(First-Person View)ドローンのことであり、一般的にはFPVドローンと略称される。

■コストは数十万円程度、1人で操作可能

ドローン(drone)は、巣の周りを飛び回り、ブンブンという音を立てる昆虫の一種の「雄蜂(おすばち)」を意味した。今日では人工的な雄蜂をドローンと称している。広義では無人機(航空・水上・水中・車両)のすべてをドローンと呼ぶ傾向だが、本書では無人航空機のことをドローンと称する。

戦場の様相を一変させた根源的な原因は、FPVドローンの登場であり、進歩であり、大量使用だった。ウクライナ戦争で急速に普及したのは、小型で安価なクアッドコプター型--ローター(回転翼)が4カ所あるタイプ--で、これが自爆攻撃に多用された。

FPVドローンとは、ドローンを操縦する者(前線の兵士など)が、専用のゴーグルを装着し、ドローンに搭載されているカメラから得られる情報資料(インフォメーション)をリアルタイムで受信し、コクピットに座っているパイロット感覚で機体を操縦するシステムのことだ。

クアッドコプター型であれば、費用も数十万円程度で調達でき、整備の必要がない「使い捨て」感覚で利用できる。操作も歩兵一人がノートPCで可能だ。つまり、最前線の小さな歩兵分隊でも、敵戦車を撃破できるだけの独立戦力としての機能を発揮できる。戦場の常識がくつがえったのだ。

費用対効果に圧倒的に有利な、FPVドローンが戦場の力学を決定的に書き換え、彼我ともに動けない状況=膠着状態を作り出した。

■「戦車不敗」の神話が崩れた

では、FPVドローンがなぜ戦場の力学を書き換えたのか、いくつかの視点から見てみよう。

従来、「最適な対戦車手段は戦車である」という戦車不敗の神話があった。

第2次世界大戦当時の戦車は、約700メートルの最大射程で敵戦車を撃破するために平均17発の弾薬が必要だった。第4次中東戦争(1973年10月)当時、1800メートルで敵戦車を撃破するためには、わずか2発の弾薬しか必要なくなっていた。

戦車の射撃には射距離の測定が決定的な影響を与える。第2次世界大戦当時の戦車は、戦車長が目測で射撃距離を判定した。第4次中東戦争当時の戦車は、測距儀、アナログ計算機、主砲弾薬技術が急速に向上し、戦車砲の精確な長距離射撃に画期的な優位性をもたらした。

■10億円を超える戦車をドローンが撃破

湾岸戦争(1991年)当時のM1エイブラムス戦車は、コンピューター、電子技術、暗視技術の進歩によるFCS(射撃統制システム)--照準システム、測距メカニズム、弾道データ・センサー、射撃統制コンピューター、砲制御システム、砲安定装置(スタビライザー)--により、初弾必中に限りなく近づいた。

120ミリAPFSDS弾の値段は、1発50万円前後(わが国では約100万円程度)で、仮に2発で敵戦車を撃破すれば、100万~200万円で、10億円を超える戦車を撃破することが可能だ。

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/rusm

戦車砲の命中精度が劇的に向上し、陸戦における戦車の地位は不動であるかのように見えた。これに待ったをかけたのが、ウクライナ戦争で華々しく登場したFPVドローンだった。

FPVドローンの製造費用は、市販の部品を使用すれば、数十万円で可能といわれる。戦車砲弾1発の値段と大差ない。だが、戦車砲弾の発射には10億円を超える戦車本体が不可欠だ。FPVドローンは兵士個人が操作し、戦車を撃破できるので、費用対効果の差は無限といえるほど大きい。

数十万円のFPVドローンが、10億円を超える戦車を撃破できる、戦車兵にとってこれほど不条理で受け入れ難いことはない。

■戦車内に飛び込み、自爆する衝撃映像

ここで「戦車不要論」を口走るつもりはまったくない。

ウクライナ戦線のような陣地戦では戦争に決着がつかない。戦争に決をつけるためには、膠着状態を脱して、機動戦に回帰することだ。その主役は機動戦力(有人・無人戦車を含む)以外にはあり得ない。要は、FPVドローンの特性・強みを生かして、いかにして機動戦の状況に持ち込むか……だ。

私は、テレビのニュース番組で見た衝撃的な状況に、心臓をえぐられる思いを抱いた。それは、ウクライナ軍のFPVドローンが、開放されていたロシア軍戦車のハッチから戦闘室に侵入して自爆した情景だった。

なぜ、このようことが起きたのか?

FPVドローンだから、というのがその答えだ。

ドローンの操縦者は、専用のゴーグルで、搭載カメラが捉える映像を常時受信し、あたかも自分がドローンに乗っている感覚で機体を操縦し、狙った点目標--例えば戦車上部の開放されているハッチ--に突入できるのだ。

■ドローンから逃れることは至難の業

戦車射撃は、戦車から目標が視認できることが大前提だ。戦車砲弾は高性能FCS(射撃統制システム)により、弾道に影響する諸要素をコンピューター処理して、戦車砲から発射されて弾道に沿って目標に向かう。

砲弾自体には弾道を修正する機能はない。発射位置と目標位置は相当な距離--状況により1500メートル前後--があり、発射時のデータとの差が生じるのは避け難く、必ずしも初弾が目標に命中するわけではない。

木元 寛明『AIドローン戦争 現代戦を一変させる恐怖の兵器』(宝島社新書)

一方、FPVドローンには決まった弾道がなく、いわば操縦者の自由意思で、自由な経路で、障害があればこれを迂回(うかい)し、目標を捜索し、発見し、操縦者が望ましいと思う位置を精密攻撃できる。

敵が存在しそうな場所で、発射時には目標が見えなくても、誘導中に発見すれば、即攻撃が可能だ。端的にいえば、FPVドローンは、いかなる目標であれ、発見すれば攻撃し、しかもほとんど100パーセント命中させる。

逆にいえば、戦場で敵ドローンに見つかると、回避することは至難の業で、撃破される運命にあるということ。ウクライナの戦場では、戦車であれ、装甲車であれ、一般車両であれ、見つかり次第FPVドローンの餌食(えじき)になる。

----------木元 寛明(きもと・ひろあき)軍事史研究家1945年、広島県生まれ。1968年、防衛大学校(12期)卒業後、陸上自衛隊入隊。以降、陸上幕僚監部・方面総監部幕僚、第2戦車大隊長、第71戦車連隊長、富士学校機甲科部副部長、幹部学校主任研究開発官などを歴任して2000年退官(陸将補)。退官後はセコム株式会社研修部に勤務。2008年以降、軍事史研究に専念。主な著書に『機動の理論』『戦術の本質』(ともにサイエンス・アイ新書)、『ナポレオンの軍隊』『戦術学入門』『指揮官の顔』(すべて光人社NF文庫)、『戦術の名著を読む』(祥伝社新書)など。

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(軍事史研究家 木元 寛明)

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