ついに登場したAMDの新ハイエンド「Ryzen 9 9950X3D2 Dual Edition」は誰のためのCPUなのか?

 2026年4月24日、AMDはSocket AM5用CPU「Ryzen 9 9950X3D2 Dual Edition」の国内販売を解禁する(以降Dual Editionは省略)。国内予想価格は税込み17万8000円である。ただ関係者筋の情報によると初期出荷は極少量とのことなので、争奪戦になることは必至だろう。

 Ryzen 9 9950X3D2はZen 5世代Ryzenの最終進化系とも言えるCPUである。Ryzen 9 9950X3Dでは2基あるCCD(Core Complex Die)のうち片方にしか搭載されていなかった3D V-Cacheを、Ryzen 9 9950X3D2では両方に搭載する。

Ryzen 9 9950X3D2では2基のCCDの両方に3D V-Cacheを持つ。Ryzen 9000シリーズより3D V-Cacheは第2世代となったため、3D V-CacheはCCDと基板の間にサンドされるように設置される

 Ryzenにおける3D V-CacheはゲーミングPCにおける究極の装備の1つに数えることができる。3D V-CacheによってCPUの3次キャッシュ容量が増大し、不要なメモリアクセスを抑制することでフレームレートが向上する。高性能GPUの性能を十全に引き出すためには、3D V-Cache搭載のRyzenは今や「メタ」な装備なのだ。

 だがAMDはRyzen 9 9950X3D2をゲーマー用にアピールしていない。約18万円と高額なせいもあるが、Ryzen 9 9950X3D2は「開発者&クリエイター」が新たなターゲットだ。そもそも、AMDは以前、海外メディアのインタビューに対し「2基CCDのそれぞれに3D V-Cacheを搭載した特別版を発売することを検討したが、単に高価になりすぎる上、多くの人が期待するような性能上のメリットをもたらさない」と説明していた。経済的に非効率的と分かっているのに、あえて出したのがRyzen 9 9950X3D2というわけだ。これが本製品を開発者&クリエイター向けとした理由である。ゲームでは効かないが、多量のデータをメインメモリよりもさらにCPUコアの近くに置いておくと効果がある処理においては、デュアルで搭載する意味がある、とAMDは言っているのだ。

AMDのプレス向け資料より引用。ゲームの性能はRyzen 9 9950X3DとSame(Leading) Gaming Performanceとある。つまりRyzen 9 9950X3Dから変わっていないことを正直に打ち明けているのだ。代わりにAIやシミュレーション、CGレンダリングなどで7%程度性能が伸びることをアピールしている

 今回筆者は幸運にもAMDよりRyzen 9 9950X3D2の希少なサンプルをお借りすることができた。簡単ではあるが、3D V-Cacheの非対称性を排し完全体となったRyzen 9 9950X3D2のパフォーマンスを検証してみたい。

Ryzen 9 9950X3D2の外見は既存のSocket AM5版Ryzenと共通である
Ryzen 9 9950X3D2のパッケージ(レンダリングイメージ)。オレンジの差し色を濃いグレーに変えプレミアム感を演出している

 Ryzen 9 9950X3D2のスペックは以下のとおりだ。コア数はRyzen 9 9950X3Dと同じく16コア32スレッド。3D V-Cacheが2基のCCDにそれぞれ配置されるため、CCDあたりの3次キャッシュは96MBとなる。一方最大ブーストクロックは5.6GHzであり、Ryzen 9 9950X3Dより100MHz低く設定されている。

 さらにRyzen 9 9950X3D2では電力制限を大幅緩和し、より多くの電力で高クロックを維持できるよう調整されている。TDPは170Wから200Wへ、PPTは200Wから270Wへ上限が引き上げられている。ただしTjmax、つまりダイの許容温度の上限は95℃と変わっていないため、性能を十全に引き出すには高性能なCPUクーラーが必須である。

【Ryzen 9 9950X3D2と、その近傍の製品とのスペック比較】 Ryzen 9 9950X3D2 Ryzen 9 9950X3D Ryzen 7 9850X3D アーキテクチャー Zen 5 Zen 5 Zen 5 コア/スレッド 16/32 16/32 8/16 ベースクロック 4.3GHz 4.3GHz 4.7GHz ブーストクロック 5.6GHz 5.7GHz 5.6GHz 2次キャッシュ 16MB 16MB 8MB 3次キャッシュ 192MB (32MB×2+64MB×2) 128MB (32MB×2+64MB) 96MB (32MB+64MB) 対応メモリ DDR5-5600 DDR5-5600 DDR5-5600 TDP 200W 170W 120W PPT 270W 200W 162W EDC 250A 225A 180A TDC 180A 160A 120A 内蔵GPU Radeon Graphics Radeon Graphics Radeon Graphics 対応ソケット AM5 AM5 AM5 CPUクーラー なし なし なし 初出時税込価格 178,000円 132,800円 86,800円
CPUの情報:「CPU-Z」で取得。右下にある3次キャッシュの表記が「2 x 96MB」である点に注目。Ryzen 9 9950X3Dでは「96MB + 32MB」となっている
キャッシュとコアの関係:「coreinfo」にてRyzen 9 9950X3D2のコアとキャッシュの接続および階層関係を表示させたもの。2基あるUnified Cache, Level 3、すなわち3次キャッシュは両方とも96MBである

 Ryzen 9 9950X3D2の3次キャッシュは合計192MBとコンシューマー向けCPUとしては最大容量を誇る。しかしすべてのコアが192MBを自由に使えるわけではないことが、上の図に示されている。つまりあるコアから利用できる3次キャッシュは同じCCDに接続された96MBに限定される。隣のCCDに接続された3次キャッシュのデータに直接リーチすることはできないのだ。

 3D V-Cacheを2基追加したことで、コア間レイテンシーは変わったのだろうか? ここでは「core-to-core-latency-plus」を用いコア間レイテンシーを計測、その結果からヒートマップを作成した。コアのペアにつき5,000回計測、それを全ペアについて300回サンプルした平均をとる作業を1セットとし、30セット繰り返した後に平均値を算出したのが以下の図である。緑が濃くなるほど低レイテンシー、赤が濃くなるほど高レイテンシーである。

Ryzen 7 9850X3Dのコア間レイテンシー: 30回の平均値、とりわけ色の濃いペアはSMTによって誕生したSMTシブリングであることを示している
Ryzen 9 9950X3Dのコア間レイテンシー: 30回の平均値。赤い部分はCCD境界を越境するコア間のレイテンシーであり、非常に大きくなっている
Ryzen 9 9950X3D2のコア間レイテンシー: 30回の平均値。Ryzen 9 9950X3Dとまったく同じである。3D V-Cache増量はレイテンシーに全く影響がないのだ

 これらのヒートマップから分かるとおり、Ryzen 9 9950X3D2の構造は従来と変わっておらず、3D V-Cacheをデュアルにしたところで構造的な弱点(CCDをまたぐとレイテンシーが激増する)は克服できていない。これを解決するには3D V-Cache技術自体がCCD間をブリッジするように進化せねばならないが、現状のキャッシュ制御技術ではそこまでの実装は難しいのかもしれない(し、AMDならこの程度のアイデアは既に試しているだろう)。

 まずは今回の検証環境を紹介しよう。Ryzen 9 9950X3D2の性能と比較するために3種類のCPUを用意した。コア数が同じだが非対称な3D V-Cache構成を持つRyzen 9 9950X3D、コア数は半分だが対称的な3D V-Cache構成のRyzen 7 9850X3D、そして最近ようやくリテールBOX版流通が始まったCore Ultra 7 270K Plusである。Core Ultra 7 270K PlusはサポートするメモリクロックがDDR5-7200までと非常に高く、これがCore Ultra 200S Plusシリーズの性能を大きく引き上げたことで隙の少ない(ないとは言っていない)CPUに仕上がった。勝つのは3D V-Cacheの量か、それとも高クロックメモリなのかに注目である。

 GPUはRadeon RX 9070 XTを準備し、Adrenalin 26.3.1を導入。メモリは同一モジュールを使用しているが、クロックはそれぞれのCPUの定格最大としている。Resizable BARやSecure Boot、メモリ整合性やカーネルモードハードウェア強制スタック保護、HDRなどは一通り有効化、ディスプレイのリフレッシュレートは144Hzに設定した。

【検証環境】 CPU AMD Ryzen 9 9950X3D2(16コア/32スレッド、最大5.6GHz)、 AMD Ryzen 9 9950X3D(16コア/32スレッド、最大5.7GHz)、 AMD Ryzen 7 9850X3D(8コア/16スレッド、最大5.6GHz)、

Intel Core Ultra 7 270K Plus(P8+E16/ 24スレッド、最大5.6GHz)

マザーボード ASRock X870E Taichi(AMD X870E、BIOS 4.10)、 ASRock Z890 Taichi(Intel Z890、BIOS 3.24) CPUクーラー EKWB EK-Nucleus AIO CR360 Lux D-RGB (簡易水冷、360mmラジエーター) メモリ G.Skill F5-7200J3445G16GX2-TZ5RK (16GB×2、AMD環境はDDR5-5600、Intel環境はDDR5-7200で使用) ビデオカード ASRock Radeon RX 9070 XT 16GB OC(RX 9070 XT、16GB GDDR6) ストレージ Micron Crucial T700 CT2000T700SSD3(2TB M.2 SSD、PCIe Gen 5)、 Silicon Power SP04KGBP44US7505(4TB M.2 SSD、PCIe Gen 4) 電源ユニット ASRock TC-1300T(1,300W、80PLUS TITANIUM) OS Microsoft Windows 11 Pro(25H2)

 では検証を始めよう。「Cinebench 2026」におけるマルチスレッド(nT)、シングルスレッド(1T)性能を比較する。Cinebench 2026で追加された特定の1コアにだけ負荷をかけるSMTテスト(1c)については、Ryzen環境のみ実施した(Core Ultra 7 270K PlusはSMT非対応であるため実施不可である)。

Cinebench 2026: スコア

 Ryzen 9 9950X3D2のスコアはどのテストにおいても9950X3Dよりもやや高いが、3D V-Cache増量というよりもTDP増加のほうが効いているように思える。理由はどちらにせよ、劇的に向上している印象はない。また、ここではCore Ultra 7 270K Plusがマルチスレッド性能でトップを飾っている点に注目したい。これはIntelのP/ Eコアの性能云々というよりも、Core Ultra 7 270K Plusがより高クロックメモリ(DDR5-7200)をサポートしているためと考えられる。

 同じくCGレンダリング系のベンチである「V-Ray Benchmark」も試してみたい。CPUの検証であるためCPUで処理する「CPU V-Ray」を使用した。テストは10分連続で動かし、その後にスコアを算出するモードを使用している。

V-Ray Benchmark: スコア

 Ryzen 7 9850X3Dがコア数倍のRyzen 9 9950X3D2や9950X3Dに大きく引き離されているが、9950X3D2と9950X3Dの差はそれほど大きくないのはCinebench 2026と同じ。一方Core Ultra 7 270K PlusはCinebench 2026での奮闘から一転、Ryzen 9 9950X3D2よりも約20%低いスコアで終了した。Core Ultra 200S Plusシリーズの頼みの綱である高クロックメモリがここでは通用しなかったようだ。

 続いては動画エンコーダー「HandBrake」を用い、約3分の4K動画(60fps)をプリセットの「Super HQ 1080p30 Surround」ならびに「Super HQ 2160p60 4K HEVC Surround」を利用してエンコードする時間を計測した。

HandBrake: エンコード時間

 ここでもRyzen 9 9950X3D2は最短時間で処理を終了しているが、2番手の9950X3DやCore Ultra 7 270K Plusと比較して劇的に高速というわけではない。Ryzen 7 9850X3Dはゲームでは確かに強いが、このテストのようなCPUパワーでエンコードするような作業は弱い。それを補うために通常のZen 5 CCDを追加したのがRyzen 9 9950X3Dであるが、それに3D V-Cacheを増量したRyzen 9 9950X3D2は価格のわりにリターンが弱い印象を受ける。

 さて、上記のHandBrakeにおけるエンコード処理(Super HQ 1080p30 Surround)中にCPUがどの程度電力を消費したかを、HWBusters「Powenetics v2」を用いて実測した。このデバイスは電源ユニットとマザーボードとビデオカード間に挿入するタイプの電力計であり、ケーブルを流れる電力を直接計測できる。

CPUの消費電力:主にEPS12V×2の実測値。アイドル時とは文字どおり3分間アイドル状態にした際の平均値を示す

 Ryzen 9 9950X3D2の消費電力は9950X3Dに比べ約60W、割合にすれば約15%増加しているが、これは言うまでもなくTDP200W仕様の結果である。CPU単体でのトップはCore Ultra 7 270K Plusだが、Ryzen 9 9950X3D2になってあまりIntel製CPUを笑えなくなってきた。ただ重要なのは、Ryzen 9 9950X3D2は性能を極めるためにTDPを盛った結果であり、Core Ultra 7 270K PlusはBIOSである程度電力制限をかけた結果(Intel Default Mode:PL1/ PL2 250W)であるため、やや意味合いが異なる。

 続いてはAdobe製アプリにおける写真編集や動画エンコードのパフォーマンスを検証しよう。まず「UL Procyon」を利用し、「Photoshop」と「Lightroom Classic」を動かす「Photo Editing Benchmark」で検証する。

UL Procyon:Photo Editing Benchmarkのスコア

 総合スコア(青いバー)でトップに立ったのはRyzen 9 9950X3D2だが、Image Retouching(オレンジ)では僅差でRyzen 7 9850X3Dに負けている。そもそもPhotoshopはシングルスレッド志向が強く、コアが増えてもほとんど恩恵を受けないからだ。だがBatch ProcessingではRyzen 9 9950X3D2がスコアを大きく伸ばしている。Lightroom Classicではコア数が効きやすい傾向があるが、スコアの伸び方から3D V-Cache増量というよりもTDP増のほうが効いているように感じられる。

 続いては「Premiere」でエンコードを実施するUL Procyon「Video Editing Benchmark」の結果を見てみよう。ここでは4本の動画を「GPUで」エンコードするが、スコアではなくエンコード時間を直接比較するとしよう。

UL Procyon: Video Editing Benchmarkにおけるエンコード時間

 Ryzen 7 9850X3DとRyzen 9 9950X3D2がどのテストでもほぼ同着、Ryzen 9 9950X3Dはそれよりやや遅い位置にいるという点に注目したい。これはRyzen 9 9950X3Dでは、Premiereの処理は3D V-CacheのないほうのCCDで処理されるが、9950X3D2はどちらのCCDが使われても3D V-Cacheの効果が得られるため、と考えられる。Ryzen 7 9850X3Dはどのようなアプリでも3D V-Cacheが常に利用できることは言うまでもない。

 このケースではRyzen 9 9950X3D2は3D V-Cacheを2基搭載することで、今まで3D V-Cacheの効果が得られなかったゲーム以外の用途でも「遅くならない」と評価すべきだろう。

 続いて「SPECWorkstation 4」を利用し、さまざまなプロ向けユースにおけるパフォーマンスを検証する。SPECWorkstationはテスト数がやたらと多いため、いくつか興味深い結果をご覧いただくことにしよう。

SPECWorkstation 4: 7-Zipのテスト結果

 7-Zipの展開・圧縮テストは今回実施したSPECWorkstation 4テストの中でRyzen 9 9950X3D2のパワーが実感しにくかったテストだ。圧縮(オレンジ)に関しては微妙にRyzen 9 9950X3D2が9950X3Dより高速だが、Ryzen 7 9850X3Dと大差ないことを考えるとCPUのコア数をうまく活かせていないと思われる。

 展開(青)はさらに悪く、1CCD構成のRyzen 7 9850X3Dがトップ、Ryzen 9 9950X3D2や9950X3Dは3番手・4番手に終わっている。

SPECWorkstation 4: Viewport Graphicsのフレームレートその1
SPECWorkstation 4: Viewport Graphicsのフレームレートその2

 Viewport Graphicsとは、プロ向けのCG/ CADなどにおけるクイックレンダーのフレームレートを比較するテストである。テストに際してはデスクトップ解像度を3,840x2,160ドットで検証している。OpenGLを使いシングルスレッド志向の強い処理が多用されているため、コア数がフレームレートに影響しにくい。どのテストがどのCPUで強いかはアプリにより異なるが、Ryzen 9 9950X3D2とRyzen 7 9850X3Dであまり差がないもの(3dsmax/ energy)、Core Ultra 7 270K Plusが強いもの(catia/ creo)、そしてRyzen 7 9850X3Dが強いもの(maya/ medical / solidworks)に分けられる。

 そしてRyzen 9 9950X3D2が明確にほかのCPUより強いことを示す結果はどこにもない。特にmayaやsolidworksでは、3D V-Cacheが少なく不利なはずのRyzen 9 9950X3Dのフレームレートが高いまである。差としては僅差だが、TDPが高くなっても回りきらないケースがあると考えるべきだろう。

SPECWorkstation 4: MFEM/ Dynamic AMRのテスト結果

 上のグラフは有限要素法ライブラリMFEMを用い、Dynamic AMR(メッシュ密度を動的に変更しながら偏微分方程式を解くワークロード)を実行した際の処理時間比較である。すべてのテストにおいて、スレッド数=物理コア数としている。これはSPECWorkstation側の設定だが、メモリアクセス競合を減らし計算効率を上げるための設定と考えることができる。

 まず注目したいのはRyzen 7 9850X3DとRyzen 9 9950X3Dの差。これは単純にコア数の違いと判断することができる。そしてRyzen 9 9950X3Dよりも9950X3D2のほうの処理時間が短い。TDP上昇分と考えることもできるが、偏微分方程式を解くプロセスを考えると行列アクセス時に3次キャッシュにデータが入っているか否かのほうが重要だろう。つまり非対称な3D V-Cache構成を持つRyzen 9 9950X3Dよりも対称的な3D V-Cache構成を持つRyzen 9 9950X3D2のほうがメモリアクセスを抑えられ、より効率よく計算できるようになったから、と考えられる。

SPECWorkstation 4: Poissonの結果

 ポアソン方程式のヤコビ法による計算をテストした結果が上の図だ。Rectangular GridとSquare Gridは計算に利用するグリッドのサイズに関係するが、Rectangular GridよりSquare Gridのサイズが大きく、Square Gridだと3次キャッシュが96MB+96MB構成のRyzen 9 9950X3D2でも3次キャッシュに収まらない(=メモリアクセス頻度が高くなる)処理であると推測できる。Square GridにおいてRyzenの差が小さく、むしろCore Ultra 7 270K Plusのほうがよい結果を出しているのはCore Ultra 7 270K PlusがDDR5-7200を使用しメモリ帯域が有利であるためと説明することができる。

 しかしRectangular Gridでは3次キャッシュに収まるケースが多くなり、3次キャッシュ96MB+96MB構成のRyzen 9 9950X3D2だとかなり効率よく処理を実行できる。Ryzen 9 9950X3Dは3D V-CacheのないCCDに処理が振られると3次キャッシュにグリッドデータが収まらず、メモリアクセスが頻発。結果としてコア数半分のRyzen 7 9850X3Dに近い結果になった、と考えることができる。

SPECWorkstation 4: Data Scienceのテスト結果

 Data ScienceテストはAIや機械学習のワークロードを模したテストである。Pythonライブラリである「Pandas」、「Scikit-learn」、「XGBoost」を利用している。

 ここで注目したいのはPandasやXGBoostではCPU間の差がほとんどないのに対し、Scikit-learnでは強烈な差が出ている点だ。コア数が効いているのはRyzen 7 9850X3DとRyzen 9 9950X3Dの結果からほぼ明らかだが、Ryzen 9 9950X3Dに比して9950X3D2はさらに処理時間を短縮できている点から、3次キャッシュの搭載量や対称性が強く影響していることが分かる。

 以上のように、SPECWorkstation 4では多量のデータを扱う処理の中でも、3次キャッシュに必要なデータがすっぽりと入ってしまうようなケースでRyzen 9 9950X3D2が輝く。非対称な3D V-Cache構成を持つRyzen 9 9950X3DではCPUパワーを活かせないシーンでは、Ryzen 9 9950X3D2は強力な友となるだろう。

 AMDはプログラムのコンパイル作業でもRyzen 9 9950X3D2は効くと謳っていたので、試してみることにしよう。テストはChromiumを使用し、ビルドガイドどおりにVisual Studio環境を構築し「autoninja -C outDefault chrome」でビルドした。

Chromiumのビルド時間

 Ryzen 9 9950X3D2は9950X3Dよりもおおよそ6%短縮している。本稿の冒頭で掲げたAMDの資料によれば、AIやシミュレーション、CGレンダリング系処理では平均7%高速化としている。ChromiumのビルドはAIやシミュレーションではないが、ここでの6%という結果はAMDの想定している結果に割と近いと言えるだろう。

 ここからはゲームのパフォーマンスを検証する。今回のレギュレーションを以下にまとめてみた。画質や解像度を上げるとGPU側が律速になり、CPUの足を引っ張りやすくなるため、画質は低設定で検証する。

  • 解像度はフルHD(1,920×1,080ドット)に統一
  • ゲームの画質は低設定(またはそれに準ずるもの)
  • FSRが利用できる場合はFSRクオリティを利用(グラフではFSR Qと表記)
  • FSRはドライバーの設定でFSR 4にオーバーライド
  • フレーム生成はOFF
  • レイトレーシング(RT)やパストレーシング(PT)は使用しない
  • Intel APO/ Intel BOTは対応ゲームにおいてすべて有効(Core Ultra 7 270K Plusのみ)

 また、フレームレートの計測は例外なく「CapFrameX」を使用し、フレームレートの計算はmsBetweenDisplayChange基準としている。

ARC Raiders: 1,920×1,080ドット時のフレームレート。画質:低、アップスケーラー:FSR4クオリティ、検証シーン:練習場で一定のコースを移動した時

 Arc Raidersにおいては、Ryzenの3製品にはほぼ差がない結果となった。ゲーム用CPUとしてはRyzen 7 9850X3Dが(現在の)究極ではある。しかし、AMDが「ゲームには効果はない」とまで言っていた2つ目の3D V-Cacheが追加されても、Ryzen 7 9850X3Dよりも“性能が落ちる”ということがなかったという点は評価すべきだろう(ただし、追加によって上がるということもない)。

Battlefield 6: 1,920×1,080ドット時のフレームレート。画質:低、アップスケーラー:FSRクオリティ、検証シーン:Bot15人+プレイヤーで「エンパイア・ステート」のマッチをローカルでホストし、所定のコースを移動中

 経験上CPU負荷が高いと判明しているBattlefield 6では、Ryzen 7 9850X3Dのフレームレートが飛び抜けており、その後にRyzen 9 9950X3D2、そしてCore Ultra 7 270K PlusとRyzen 9 9950X3Dがほぼ同着という結果になった。Ryzen 9 9950X3Dは非対称な3D V-Cache実装のおかげでメモリアクセスが足枷になっているとすれば、3D V-Cacheを増量したRyzen 9 9950X3D2がフレームレートを大幅に伸ばしたのも納得がいく。

BIOHAZARD requiem: 1,920×1,080ドット時のフレームレート。画質:低+光と影「低」、RT OFF、アップスケーラー:FSRクオリティ、検証シーン:レンウッドの歩道を歩行中(グレースのシーンを使用)

 3D V-Cache搭載Ryzenの差が見えにくい結果となった。Ryzen 9 9950X3D2のフレームレートがわずかに高く出ているが、これは3D V-Cache増量効果というよりはTDP200W設定のおかげではないだろうか。

F1 25: 1,920×1,080ドット時のフレームレート。画質:低+異方性 16x、アップスケーラー:FSRクオリティ、検証シーン:ゲーム内ベンチマーク「ラスベガス(ウエット)」再生中

 今回の検証で一番予想が外れたのがこのゲーム。Ryzen 9 9950X3D2はRyzen 7 9850X3Dに対し約4%高いフレームレートを記録した。ただRyzen 9 9950X3Dが9950X3D2のすぐ後ろにいる事実を考慮すると、3D V-Cache増量効果ではなくTDP引き上げの効果ではないかと考えられる。

 最後にRyzen 9 9950X3D2の発熱やクロックの推移などのデータを見ておこう。前掲のHandBrakeによるエンコードテスト(Super HQ 1080p30 Surround)時におけるCPUクロックやCPU温度(Tctl/ Tdie)などを「HWiNFO Pro」を用いて追跡した。Core Ultra 7 270K Plusは得られる情報が異なるため、ここでは除外している。

エンコードテスト時(テスト開始から終了まで)におけるCPUクロッの推移(全コアの平均)

 まずCPUのクロックだが、最も高かったのはRyzen 7 9850X3D。TDP 120Wの枠を1基のCCD(とIOD)で独占できるため、高クロックの維持がしやすい。これに対しRyzen 9 9950X3DはTDP 170Wを2基のCCDで分け合うため、クロックはどうしても下がらざるを得ない。そこで登場するのがRyzen 9 9950X3D2。理屈の上では200Wに増えたTDPを100Wずつ使える(IODの取り分はこの際忘れよう)ため、Ryzen 9 9950X3Dよりクロックが高くなるのは当然である。

エンコードテスト時(テスト開始から終了まで)におけるCPU温度の推移(Tctl/ Tdie)

 CPU温度はRyzen 9 9950X3D2が最も高く最大93℃に到達。Tjmaxが95℃なのでかなりギリギリを攻めていると言える。Ryzen 9 9950X3DのCPU温度が低い理由は先に述べたとおり。TDPが低い分温度もそれなりに抑えられるというわけだ。

エンコードテスト時(テスト開始から終了まで)におけるCPU Package Powerの推移
エンコードテスト時(テスト開始から終了まで)におけるEDC(Electrical Design Current)の推移
エンコードテスト時(テスト開始から終了まで)におけるTDC(Thermal Design Current)の推移

 CPU Package Power/EDC/TDCもチェックしてみよう。どのパラメーターに関してもRyzen 9 9950X3D2の値が最も高く、Ryzen 7 9850X3Dが安定して低い。注目したいのはTDCで、Ryzen 9 9950X3D2はほぼ定格(180A)一杯のまま推移している。つまり熱設計上の電流制限一杯を使って動作した上で、あの温度(最大93℃)になっているのだ。

 以上でRyzen 9 9950X3D2のレビューは終了である。Ryzen 9 9950X3Dの3D V-Cacheを2基にしたところでゲーム性能は劇的に変わるものではなかったし、値段もしっかりと上乗せされている。AMDが言っていたことは本当だったのだ。

我々はついCPUコアは多ければよいと勘違いしてしまいがちだが、ゲームそのものが8コア以上使うシーンは(一部のシミュレーション/ 箱庭系ゲームを除けば)そう多くない。8コアに収まる程度の処理であれば、むしろ余計なコアのないRyzen 7 9850X3Dが強くなるのは当然である。

先日配信が始まった「PRAGMATA」をRyzen 9 9950X3D2で動かしたときのCPUの様子。16基ある物理コアのうち、コア1〜8までに処理が集中しており、コア9以降の負荷はほぼゼロに等しい。クロック表記からもコア9〜16はパーキング状態に近いと考えられる。つまり16コアすべてに3D V-Cacheがあっても、実際に使うのは半分だけだったりするのだ

 ただ数値計算やシミュレーション系ではRyzen 9 9950X3D2のパワーを確認することができた。CPU近傍に多量のデータを置き、メインメモリに極力アクセスさせたくない状況下では、3D V-Cacheをデュアルで搭載することの意味が出てくる。非対称な3D V-Cacheを搭載するRyzen 9 9950X3Dでは3D V-CacheのないCCDに処理が振られ、結果的にメモリアクセスで足をとられてしまう。だがRyzen 9 9950X3D2ならどのようなプログラムであっても、常に3D V-Cacheが活用できる。

 この違いを理解することが、Ryzen 9 9950X3D2を評価するカギだろう。

【「Ryzen 9 9950X3D2」実力測定 !待望のデュアル3D V-Cache化で最強の開発&クリエイター向けCPUに】
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