【中国ウオッチ】習政権要人、欠席相次ぐ◇「反腐敗闘争」拡大か:時事ドットコム

 中国の習近平政権要人が重要行事を欠席したり、しばらく動静が不明になったりするケースが目立つ。共産党最高幹部である政治局常務委員や政治局員の動きに異変があり、軍内の習派有力者を一掃した「反腐敗闘争」やその影響が政権上層部で拡大している可能性がある。(時事通信解説委員 西村哲也)

 中国共産党の指導部である政治局は11月28日、定例会議を開いたほか、インターネット管理に関する集団学習を行った。政治局会議の出欠は不明だが、国営中央テレビが流した集団学習のニュース映像には、党中央規律検査委員会の李希書記(政治局常務委員)と前新疆ウイグル自治区党委書記の馬興瑞氏(政治局員)の姿がなかった。

 党総書記(習近平国家主席)が主宰する会合で複数の政治局メンバーが欠席するのは珍しい。政治局員は現在23人で、うち習氏ら7人が常務委員として最高レベルの指導者とされている。

 12月10~11日には、経済政策の基本方針を決める中央経済工作会議が開かれ、李氏は出席したが、馬氏の姿はなかった。

 馬氏は7月に突然、新疆自治区書記解任が発表された。「別のポストで任用する」とされたのに、新ポストは不明。失脚説が流れる中、11月の政治局集団学習までは重要行事に参加していた。

 馬氏は、習氏が重用してきた兵器メーカー出身者の代表格。理系の名門校・ハルビン工業大学で航空関係の力学を学び、30代で副学長、40代でミサイルやロケットを製造する国有大企業、中国航天(宇宙)科技の総経理(社長)となった。

 その後、工業情報化次官や広東省の深圳市党委書記などを経て、省長(閣僚級)に就任。同省で地元幹部以外からの省長起用は異例の人事だった。2021年、新疆自治区書記へ転じ、翌22年の第20回党大会で政治局入りした。広東省長経験者の政治局員は、習近平氏の父である習仲勲氏(故人)以後初めてで、約40年ぶり。習近平政権で馬氏がいかに重視されていたかが分かる。

習派の政治局員、また失脚?

 しかし、23年以後、反腐敗を口実とする軍内の大粛清に関連して、中国航天科技の関係者が相次いで失脚。ミサイル調達を巡る汚職が摘発されたとみられ、同社出身の馬氏も影響を受けるのではないかとの説が流れていた。

 また、新疆自治区では11月初め、政治諮問機関である人民政治協商会議(政協)副主席に対する不正調査が発表され、新疆生産建設兵団の党規律検査委書記が「急病」で死亡。同兵団は、馬氏が新疆時代に第1政治委員を務めていた。さらに、中央規律検査委は同月30日、新疆自治区政府の陳偉俊常務副主席(次官級)を規律・法律違反の疑いで調べていると発表した。陳氏は、馬氏が新疆自治区書記だった頃の主な部下の一人だ。

 馬氏が失脚したとすれば、先に中央軍事委副主席を解任されて党籍・軍籍も剥奪された何衛東氏に続いて、今期の政治局員粛清としては2人目となる。何氏も習氏の側近で、軍内福建閥の有力者だった。

 12月8日にも政治局会議が開かれたが、過去数年の12月の同会議と異なり、その公式報道には(1)事前に政治局常務委の会議が開かれ、中央規律検査委から過去1年間の状況報告を受けた(2)翌年1月に中央規律検査委の総会を開くことが決まった─という反腐敗関係の記述が全くなかった。また、習氏に対する個人崇拝スローガン「二つの確立」「二つの擁護」も消えた。

 中央規律検査委の報告や総会日程の決定はあったが、公表しなかったのか、それとも、反腐敗は別の会議で取り上げることになったのか。中央規律検査委が報告を行えず、総会日程も決められなかったとすれば、通常の活動に支障が生じるほど忙しいということなのだろう。

 中央規律検査委を率いる李氏は11月の政治局集団学習を欠席したが、その後の中央経済工作会議には出ており、集団学習欠席は多忙のためだったと思われる。

 李氏は習近平氏の西北地方人脈の代表格。前職は広東省党委書記(省指導部トップ)で、その時の省長(同ナンバー2)が馬氏だった。

習氏最側近の存在感薄く

 党内福建閥の筆頭である党中央書記局の蔡奇筆頭書記(幹事長に相当、政治局常務委員)も行事欠席が多くなっている。習氏の最側近といわれる蔡氏は、総書記の首席秘書官のような役割を担う党中央弁公庁主任も兼ねているので、習氏の活動には常に同行するはずだが、11月9日から18日にかけて、全国運動会開幕式、スペイン国王との会談、タイ国王との会談、中央全面依法治国(法による国家統治)工作会議をすべて欠席した。同会議は、習氏も参加せず、指示を伝えただけだった。

 党中央の筆頭書記と弁公庁主任という二つの要職兼務は前例がない。仕事量があまりに多くなったことから、行事参加を減らした可能性もあるが、マクロン仏大統領という極めて重要な外国首脳との会談(12月4日)も欠席しており、蔡氏の存在感が薄くなっていることは否定できない。

 蔡氏と同じ福建閥に属する王小洪公安相も11月に約1週間、公の場に現れなかった。警察を管轄する公安相は首相や外相のように頻繁に表に出てくるわけではないので、不自然と言うほどのことではないが、その間にかつて王氏の秘書役だった北京市公安局副局長が「急病のため不幸にも亡くなった」と発表された。死去から1カ月近くたっていた。このような形で明らかにされる「不幸な急死」は、反腐敗の調査で追い詰められて自殺したケースが多い。

 また、12月3日には党中央が党外人士座談会を開いて、経済政策に関する意見を聴取。習氏ら政治局常務委員4人が出席したが、翼賛政党指導者ら党外人士関連の政策を担う政協全国委の王滬寧主席(政治局常務委員)はなぜか参加しなかった。政治局常務委員が自分の担当分野の重要会議を欠席するのは非常に珍しい。

軍人トップへの影響が焦点

 反腐敗を巡っては、中央軍事委が12月1日、機関紙の解放軍報を通じて、「中国共産党規律処分条例を軍隊が貫徹執行することに関する補充規定」を公表した。新規定は2026年1月1日から施行される。

 この規定は「政治規律」の重要性を強調した上で、(1)中央軍事委主席責任制の貫徹が不十分(2)誤った政治的観点や不適切な言論を発表する(3)中央軍事委による決定の貫徹が不十分─といった問題を指摘した。(1)は、中央軍事委主席である習氏の権威が揺らいでいることを認めたかのような表現で、この種の公式文書としては極めて異例だ。

 軍関係では、国防省が11月20日、中央軍事委の張又侠筆頭副主席(制服組トップ)がロシアを訪れ、ベロウソフ国防相と会談したと発表したが、中国公式メディアはほとんど報道しなかった。張氏のこれまでの外遊は普通に報じられていた。また、12月1~2日の王毅外相(政治局員)訪ロは党機関紙・人民日報などが詳報している。

 張氏は現在、軍人で唯一の政治局員。軍内の習派粛清を主導し、影響力を拡大したといわれるが、党の宣伝部門からは冷遇されているようだ。

 また、前述のミサイル調達絡みの反腐敗闘争では、武器調達を担う軍装備発展部長を経て国防相に就任した李尚福氏が既に失脚。同部長の前任者である張氏には波及しないとの見方が多かったが、馬氏のような兵器メーカー出身の大物が粛清された場合でも、武器調達に深く関わってきた張氏は何の影響も受けないのか。反腐敗闘争の今後の展開はこれまで以上に政局を左右することになりそうだ。

(2025年12月15日)

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