中東緊迫でもディフェンシブな動きは限定的、不意を突かれるリスクも
米国株の投資家は地政学的緊張の高まりの中でも安全を求めるのをためらっている。イスラエルとイランの紛争が予想外の展開を見せた場合、不意を突かれるリスクが高まっている。
本来であれば、こうした不安感があり、特にトランプ米大統領がイスラエルとイランの紛争においてイスラエルに軍事支援を行うかどうかを検討している段階では、資産運用会社が資金を安全な銘柄に移してもおかしくない。そのような措置が取られれば、原油価格が混乱し、インフレ懸念をあおり、安全資産への投資を再び引き起こす可能性がある。
しかし、先週以降の出来事は、公益事業や生活必需品、ヘルスケアなどのいわゆるディフェンシブセクターへのわずかなシフトしか引き起こしていない。S&P500種株価指数が過去最高値をわずか2.7%下回る水準で、荒い動きをしている状況であるにもかかわらずだ。
ミラー・タバクのチーフ市場ストラテジスト、マット・メイリー氏は、事態が流動的な中で、投資家を脆弱(ぜいじゃく)な立場に置く不吉な状況だと指摘。「戦況がさらに悪化する可能性もあれば、そうならない可能性もある。だが、バリュエーションが高止まりする中で、株式の上値余地が限定的なため、投資家はより慎重であるべきだ」と述べた。
ストラテガスのトッド・ソーン氏はディフェンシブ株の市場全体に占めるウエートが現在、35年ぶりの低水準にあると指摘し、市場で目立った動きをしていないことを強調した。
景気敏感株のロングとディフェンシブ株のショートを組み合わせた、ゴールドマン・サックス・グループのペアトレード・バスケットは、イスラエルが先週にイランの核施設と軍事施設に対する空爆を開始して以来、わずかに上昇している。経済への懸念から資金が安全資産に殺到していれば、このバスケットは低下していたはずだ。実際、4月初旬には関税の影響が成長に及ぶとの懸念から低下していた。トランプ大統領はイランを攻撃するかどうか2週間以内に決定を下すと、ホワイトハウスのレビット報道官が19日、記者会見で述べた。
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地政学的な混乱を背景にしたディフェンシブ株買いに対し、慎重になる根拠を指摘する声もある。UBSのデータによると、このような出来事が株式市場に与える影響は通常、短期間で終わる傾向がある。過去11回の主要事象では、S&P500種は発生から1週間で平均0.3%下落したものの、12カ月後には平均7.7%上昇している。
サスケハナ・インターナショナル・グループのデリバティブ(金融派生商品)戦略共同責任者クリス・マーフィー氏によると、ヘッジファンドのポジションは引き続き軽めだった。つまり、多くの機関投資家は最近の株価上昇を積極的に追いかけることはせず、地政学的ショックによる無理な方針転換を避けている。攻撃の当日でさえも、ボラティリティーの急上昇はほとんどなく、エクスポージャーの調整にとどまり、市場から撤退することはなかった。
「投資家は依然として正確なヘッジを施しており、パニックではなくリスク調整型の投資姿勢が主流だ」と、マーフィー氏は続けた。
ただ、例外もある。原油供給が不安定な時期にディフェンシブな動きを示す傾向のあるエネルギー株に資金が集まっている。イランとイスラエルの紛争が激化すれば、原油価格はさらに上昇する可能性がある。
一方、ディフェンシブな動きを強めるよう助言し始めている専門家もいる。ウェルズ・ファーゴ・インベストメント・インスティテュートは、関税を巡る不確実性が年末まで続く可能性を受け、ディフェンシブ株の比率を拡大するよう推奨している。
ウェルズ・ファーゴのストラテジストは公益事業セクターに注目している。同セクターは、市場変動や経済リスクに対するヘッジ機能を果たすことができ、事業が主に国内向けであるため、関税の影響を比較的受けにくいとリポートで指摘。人工知能(AI)のインフラ整備から恩恵を受けるとの見通しも示した。バリュエーション面でも、相対的に優位だと付け加えた。
S&P500種の公益事業指数の予想株価収益率(PER)は17倍。S&P500種全体は22倍となっている。
22Vリサーチのデニス・デブシェール氏はイスラエルがイランの石油輸出施設を攻撃しないとの見方から、金利やインフレ期待への影響が限定的だと判断し、ディフェンシブ株には投資しない方針を示した。
原題:Traders Resist Defensive Havens Amid Mideast Risk: Taking Stock(抜粋)