物価高に薬価引き下げ…経営厳しさ増す中小薬局 薬剤師が服薬指導、「予防医療」に活路

地域医療を支える中小薬局の経営が厳しさを増している。物価高や賃上げで経営コストがふくらみ、度重なる薬価引き下げで収入が減少、赤字に陥っている薬局も少なくない。さらに大手ドラッグストアが店舗数を拡大し、競争が激化。国は医療費抑制の一環で薬剤師への調剤報酬の在り方を見直している。薬剤師が薬の販売にとどまらず、適切な薬の飲み方を利用者に積極的に提案する「予防医療」の役割を担うことで、より高い報酬を得ることが期待されている。

日本薬剤師会が11月に自民党の会議で示した調査資料などによると、薬局では物価高で薬の仕入れ価格や光熱費などが上がり、従業員の賃上げも重なる。マイナンバーカード対応システムなどのデジタル化投資も負担としてのしかかる。

その結果、約3割の薬局が赤字となり、同会の調査に回答した約540薬局のうち約80%が「経営状況が悪い」、1年後の見込みについては約90%が「悪い」と答えた。

物価高だけではなく、国による薬価引き下げも薬局の経営を苦しくしている。同会は「薬価改定が行われる都度、医薬品の資産価値は大きく減少し、経営に大きな支障をきたす」と訴える。

大阪府薬剤師会専務理事で、東大阪市で薬局を経営する山岡信也氏は「仕入れ価格よりも薬価が低くなり、出せば出すほど赤字になるものもある」と指摘。堺市で薬局を運営する同会常務理事、佐野智氏は「赤字になる薬はつくられなくなる。必要な薬剤が手に入らない事態につながりかねない」と一律的な薬価引き下げに疑念を示す。

大手ドラッグストアが都市部を中心にインバウンド(訪日客)を含む幅広い需要を吸収して店舗を拡大する一方、地域に根差した小規模薬局は後継者が見つからず、譲渡も難しいまま店じまいするケースが珍しくない。

ただ、高齢化とともに在宅医療や慢性疾患の患者を支える「かかりつけ薬局」の役割は一段と増している。国は薬の販売中心から患者向けの服薬指導という「対人業務」に薬局の役割の重点をシフトさせる方針だ。

財政制度等審議会(財政審)は今年5月、来年の調剤報酬改定に向けて「かかりつけ薬剤師指導料や服用薬剤調整支援料など、真に対人業務を評価する項目への評価の重点化」を求めた。

また、6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2025」(骨太の方針)は、健康を自己管理した上で、軽度の体調不良については自らの判断で市販薬を服用する「セルフメディケーション」の推進を明記した。

薬局業務支援サービスを手掛けるホッペオンライン薬局システム(東京)の新関一成代表取締役(薬剤師)は「国民皆保険が整備された日本では米国などに比べ、自分の健康に責任を持つ意識が低い。薬剤師こそ、その人に合った薬を選ぶための知識を提供し、予防医療の役割を担える。服薬指導にかかわる薬剤師の報酬を充実させ、薬局経営を安定させる制度整備が求められている」と話す。

専門性生かし、役割担える若手育成急務

薬の販売から「予防医療」へと薬局の役割転換が模索される中、そうした役割を担うべき薬剤師の数自体は不足していない。しかし、服薬指導という専門的な業務をこなせる薬剤師は決して多くなく、育成が今後の課題となっている。

日本の薬剤師数は1970年の8万人から2020年には32万人まで増加。このうち約6割は薬局の薬剤師が占める。国の医薬分業促進政策により、医療機関が処方箋を発行し薬局の薬剤師が調剤する院外処方が増加したためだ。

さらに2000年代半ばに大学の薬学部の定員が拡充されたこともあり、人口当たりの薬剤師の数は先進国でも高いレベルになっている。特に医療機関に勤務する薬剤師に比べ薬局勤務の薬剤師の伸びが大きく、10年の約15万人から22年の約19万人まで増えている。

その半面、「薬学的専門知識が必要なく調剤補助員でもできる薬の取りそろえなどを、専門職の薬剤師が行っている」と指摘されている。特に人手が少ない小規模薬局でその傾向がある。

国は軽度の疾患に対し、医師の処方箋なく薬局などで購入できる市販薬(OTC医薬品)を予約医療に活用する方針。大阪府薬剤師会常務理事の佐野智氏は「薬局にはOTC販売の知識や説明力が求められるが、若い薬剤師の多くは経験が乏しい」と指摘する。

府薬剤師会では、OTCの知識や対応を学ぶ研修の充実を進めている。オンライン研修の普及で参加のハードルも下がり、若手育成の機会が広がっているという。

地域密着型の薬局には、在宅の患者に薬を届けたり、服薬管理を手助けしたりするなど大手には難しいきめ細かな業務が可能だ。同会専務理事の山岡信也氏は「薬剤師をうまく(地方の薬局に)取り込めていないなどの課題を前にまだまだできることはある。行政などとも連携し、地域の医療体制を維持しなければならない」と訴える。(清水更沙、牛島要平)

大阪医科薬科大・恩田光子教授(社会薬学)「かかりつけ薬局、持続可能な仕組み作りを」

薬局の経営環境は、薬価の引き下げや資材、人件費の高騰などで厳しさを増している。小さい薬局は価格交渉力が比較的弱くなりやすく、ICT(情報通信技術)整備などへの投資余力も限られ、経営負担は大きい。

大手薬局によるM&A(企業の合併・買収)が進み、薬剤師の教育や組織の体制強化などのメリットが生まれる一方で、経営基盤が弱い小規模薬局は事業を継続しがたい状況に陥る懸念がある。

患者や地域に根ざして信頼を得ている中小規模の薬局も存在する。特に家族背景などを踏まえて継続的に寄り添う「かかりつけ薬局」は、健康相談や地域活動などを広げ、評価を得ている例がある。ただ現状では、調剤業務に追われ、健康相談に十分な時間を割けない薬局が多い。また、医薬品の管理業務が増え、現場の負担がさらに拡大している。

薬局は、健康な人が日常的に立ち寄れるという点で、予防医療やセルフメディケーションを含むプライマリーケア(1次医療)の拠点として大きな可能性を持つ。薬局が最も身近な医療リソース(資源)であるという認識を踏まえ、地域住民の健康維持に寄与できる体制づくりを進めることが肝要だ。(聞き手 清水更沙)

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