小中の不登校は過去最多34万人…学校に行かなくなった子供を「ひきこもりの中高年」にする親、させない親 わが子を放置すれば「自分の老後」は必ず行き詰まる

子どもが不登校・ひきこもりになったら、どうすればいいか。不登校・ひきこもり予防協会の杉浦孝宣さんは「39年間の支援経験の中で、どんな年代の人も正しい手順を踏めば、社会復帰できることがわかってきた。それは『規則正しい生活を送る』『自律して自信をつける』『社会貢献をする』の3つのステップだ」という――。

※本稿は、高濱正伸、杉浦孝宣『もう悩まない!不登校・ひきこもりの9割は解決できる』(実務教育出版)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/kuppa_rock

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不登校になった時の公的支援が乏しい日本

文部科学省は10月31日、全国の小中学校の不登校児童生徒数が34万6482人になったと発表しました。昨年度より約5万人増加しており、11年連続で最多記録を更新したことになります。

私はこれまで39年にわたって、不登校・ひきこもりに悩む親子の相談に乗ってきました。新型コロナウイルス感染症が流行してすぐ、全国一斉休校があったときに、このままでは不登校・ひきもこりが急増すると確信して、『不登校・ひきもこり急増 コロナショックの支援の現場から』(光文社新書)を緊急出版しましたが、まさにそのとおりになってしまいました。

いまでもコロナの影響は続いています。じわじわとその余波が続いているのです。

2020年に生まれた子供は今、4歳になりましたが、幼いころに外に出ちゃいけないと育てられたので、芝生の上に足をのせただけで泣き出します。

小学生のときにコロナで修学旅行に行けなかった世代の子たちは、コロナが終わって中学生になっても、経験がないので修学旅行に行くのを渋る子が増えているのです。コロナ世代の子どもはひきこもりになる可能性が高いと懸念しています。

現在日本で行われている不登校対策としては、各自治体の教育センター(適応指導教室)がありますが、実際に利用しているのは約10%です。約90%はどこにも通えていません(※1)。学校に行けないのに、箱だけ用意しても子どもが行けるわけがありません。

つまり、不登校・ひきこもりになっても、日本では誰も救ってくれない状況になっているのです。それを放置していたら、8050はちまるごうまる問題、9060きゅうまるろくまる問題(※2)に発展してしまいます。

でも悲観することはありません。やり方次第で、いくらでも立ち直りはできます。大切なのは正しい支援方法を知ることです。

※1「令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」より算出。不登校児童生徒数(小中学生)は29万9048人。そのうち、教育支援センターに通った人数は2万5292人で、8.45%(小数点3位以下切捨て)。 ※2 それぞれ80代、90代の親が、50代、60代のひきこもりの子の面倒を見なければならない状態のこと。


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まずは、規則正しい生活と清潔な生活環境を整えることを目指します。強行に親が部屋に入って部屋を片付けるのではなく、自分でやるように根気強く声をかけます。

「部屋を片付けてゴミを出してね。部屋がゴミ屋敷のようになったら不衛生であなたの健康にも影響が出てしまうよ」 「夜は消灯して寝るようにしようね。夜ふかしを続けるとあなたの体調が悪くなるのではないかと心配だよ。それに、朝から活動できると気持ちがいいよ」 「食事はお父さんお母さんと一緒に食べよう。あなたと一緒にご飯を食べられると、お父さんもお母さんもうれしいのよ」

「お風呂に入ったり、シャワーを浴びたりして、清潔にしようね。さっぱりして気持ちいいよ」

などと部屋の外からていねいに声をかけます。メモを書いて食卓のテーブルや冷蔵庫、部屋の前など、子どもの目のつくところに置いたり貼ったりするといいでしょう。

あとで立ち直った子どもたちに話を聞くと、「あのころ、家族全員が自分を見捨てていたので、人生をあきらめていた」と言う子が多いのです。

親から声をかけてもらうことは、心に届きます。すぐに変化が現れるわけではありませんが、根気強く声をかけ続けることが大事です。

両親不在の時間をつくる

子どもが部屋を自由に片付ける時間を与えることも大事です。

お父さんとお母さんが出かけて1日か半日くらい家をあけることを、子どもにわかるようにメモや声かけをして伝えます。

なぜ親が不在の時間が必要かというと、ひきこもりの場合、親が起きている時間にトイレに行くのをためらうため、ペットボトルに尿をためていることがあるからです。

それを親に知られずに自分で処分するには、親が不在の時間が必要なのです。こうした細かいアドバイスも39年の経験があるからわかることなのです。

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不登校・ひきこもりの子どもを立ち直らせるためには、次の3つのステップで支援をすることが有効です(参考記事「見守るだけでは子どもの“社会復帰”はムリ…『学校に行かない子』『自宅に引きこもる子』が日本中に増えたワケ」)。

ステップ1 規則正しい生活を送る ステップ2 自律して自信をつける

ステップ3 社会貢献をする

私が設立した高卒支援会、不登校・引きこもり予防協会では、上記の3ステップで、中高生から20代前半くらいまでを対象に指導してきました。

ただ、ここにきて、この方法がもっと上の世代でも有効であることがわかってきました。30代や40代のひきこもりの子どもを持つ親から相談があり、何件か指導したところ、ひきこもりが解決できたのです。

詳細はお伝えできないので残念ですが、30代、40代ともに、ひきこもりは男性でした。ご両親は60代と70代です。

私は27歳までしか指導した経験がありませんでしたから、効果があるか保証はできないと伝えました。ただ、私の本を読んで、どうしても相談に乗ってほしいという切羽詰まった願いを受け、相談にのることになりました。

「アルバイトでもいい」親の切実な願い

いずれのケースも、自室にとじこもり、昼夜逆転し、家族とのコミュニケーションがほとんどとれていない状況でした。

ご両親たちの願いは、

「子どもがアルバイトでもいいので、ごく普通に働いて、自立した社会生活ができるようになってほしい。普通に親子として理解し合い、助け合い、お互いにコミュニケーションがとれる状態になりたい」

ということでした。

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私には39年の経験があるので、ひきこもっている人の性格や態度、成育歴なども考慮したうえで、どのくらいのタイミングでどんな行動に出たらよいか、わかります。3つのステップの順番は同じですが、一人一人によって細部の対応は違ってきます。

それでも、基本は同じです。


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ただ、声かけするだけでは、なかなかできません。ポイントになるのは、本人の好きなことやこだわっていることです。

たとえば、マンガ好きなら、新しい欲しいマンガがあるはずです。ゲーム好きなら新しいゲーム機や新しいソフトなど欲しいものがあるはずです。そういったものを買いに行くことが、部屋を出るきっかけになります。

「部屋のゴミを出して片付けができたら、あなたが欲しかった△△を一緒に買いに行こう」 「部屋が片付いたら、あなたが欲しい△△を買うお金をあげます」

と、約束しましょう。

そのかわり、部屋の片付けなどができなかったら、あげません。要求されても断りましょう。約束はきちんと守ることです。

また、ひきこもりになっていると、男性の場合たいていは髪とひげが伸びっぱなしです。アルバイトや就職をするためには、散髪に行き、新しい服を買うことも必要です。そのための資金も必要でしょう。

「お父さんお母さんは、あなたがアルバイトや就職をして、自立してほしいと思っているよ。いずれお父さんお母さんは先に死んでしまうから、あなたがきちんと生活していけるような基盤を作ってほしいと思っています。就職するには面接もあるだろうから、そのために散髪代や服代もあげます。就職活動費として、これから毎月××円あげます。ただ、部屋を片付けること、就職にむけて昼夜逆転を直して規則正しい生活をするようにしてください。それがちゃんとできない場合は、お金をあげられません」

というように、約束しましょう。

そして、ゴミ出しや部屋の片付けなどがちゃんとできたら、ほめてあげましょう。大人であっても、精神的にはまだ子どもなのです。少し大げさにほめるくらいがいいでしょう。それが本人にとって大きな自信になり、外に出てみようという気持ちになっていきます。

1カ月で中年男性に変化が出る

こういったアドバイスをきちんと実行したご家庭は、1カ月くらいすると、変化が出てきます。

親の声かけに返事をしたり、掃除を始めたり、一緒にご飯を食べるようになったりします。

あるご両親は、「1カ月で子どもが大きなゴミ袋10袋も出して、部屋を片付けました。『よくがんばったから、ごほうびにお寿司を食べよう』といったら、数年ぶりに子どもと一緒に夕食を食べることができました」と、感激していました。

別のご両親は、「3週間でペットボトルや缶のゴミを大量に出して、少しずつ親子で会話するようになりました。2カ月で夕飯を一緒に食べるようになりました。先日はこの数年で初めて外食に行き、息子の好きな焼肉を食べて、ビールで乾杯できました」と涙ながらに報告してくれました。

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もちろん、一方向に順調によくなっていくわけではありません。反発も必ずあります。それでも、揺り戻しがあるのは当然のこと、と冷静に構えることです。部屋の片付けなど約束を守らなければ、お金をあげないなど、約束をきちんと守ることです。片付けをしないのにお金をあげてしまうなど、譲歩してしまっては、部屋から出てくるチャンスなくしてしまうことになります。

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