イカは腕を振って仲間とコミュニケーションをとっている可能性、しかも何パターンもある

この画像を大きなサイズで見るImage credit: Sophie Cohen-Bodenes and Peter Neri

 イカ、タコといった頭足類はとても知能が高いことで知られている。特にコウイカは社会性もあることで知られているが、なんと腕を振って、仲間に合図を送っている可能性が、新たな研究で明らかとなった。

 フランス、PSL大学の神経科学者らは、コウイカが仲間と出会ったとき、まず腕を振ってからコミュニケーションを始める姿を観察したという。

 腕の振り方も複雑で4種を組み合わせて行っているのが確認された。

 また、人間なら手を振る姿を直接目で見なければ気づけないが、コウイカは視覚的なサインのほか、水を伝わる振動まで感じて、相手の姿が見えなくても合図に気がづいている可能性があるという。

コウイカ類は、ツツイカ類と並び、イカ類を二分するグループだ。

 ツツイカ類(スルメイカやヤリイカなど)が海中を泳いで暮らし、石灰質の甲がないのに対し、コウイカ類は主に海底で暮らし、その外套膜の内側に貝殻のような「甲(こう)」があることから、コウイカと名付けられた。

 コウイカが社会性を持つ生物で、複雑なコミュニケーションを交わすことは、以前から知られていた。

 さらにカモフラージュの達人であり、皮膚の色や模様を瞬時に変化させる能力を持っている。

 皮膚の色や模様と体の姿勢の変化を組み合わせて仲間とやりとりしたり、産卵の時期になればスミで相手にメッセージを伝えたり、あるいは、またオス同士が出会えば、腕を膨らませたり伸ばしたりと、威嚇しあうこともある。

 そして当然のことながら非常に賢い。2022年に英ケンブリッジ大学が行ったマシュマロ実験では、目先の欲をグッと我慢できる自制心があることが明らかになった。

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 今回の研究では、コウイカの新たな社会性が観察されている。仲間と出会ったコウイカは、まずお互いに腕を振ってから、コミュニケーションを開始するというのだ。

 PSL大学のソフィー・コーエン=ボデネス氏らが人間の挨拶のような行動を観察したのは、「ヨーロッパコウイカ(Sepia officinalis)」と「バンダコウイカ(Sepia bandensis)」の2種だ。

 腕の振りには「上向き(アップ)」「横向き(サイド)」「ロール(回転)」「クラウン(王冠)」の4種類があることが確認された。

 これらを組み合わせて特定のパターンを作ることもできるという。

この画像を大きなサイズで見るアップ:腕を上方向に持ち上げる動き Image credit: Sophie Cohen-Bodenes and Peter Neri この画像を大きなサイズで見るサイド:腕を横に振る動き Image credit: Sophie Cohen-Bodenes and Peter Neri この画像を大きなサイズで見るロール;腕を内側に丸める動き Image credit: Sophie Cohen-Bodenes and Peter Neri この画像を大きなサイズで見るクラウン:腕を王冠のように丸める動き Image credit: Sophie Cohen-Bodenes and Peter Neri

 またコウイカをカメラで撮影し、その姿を本人に見せた実験では、コウイカはよく映像の前で自分自身に対して腕を振っていたという。

 しかも映像を上下逆さまにした場合に比べ、正しく映した場合の方が腕を振り返す頻度がずっと多かったことから、このジェスチャーには正しい向きがあることが推測されている。

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 まるで人間が手を振って挨拶をするかのような、コウイカが仲間に対して腕を振る仕草は、ただ単に視覚に訴えるだけのものではない。

 彼らは、腕振りによって水を伝わる振動も感知してるようなのだ。

 コーエン=ボデネス氏は、「水槽に大きな岩があるなど、お互いが目で見えない状況でもこのサインを出します」に語っている。

 水中の振動もメッセージであるらしいことは、「水中マイク(ハイドロフォン)」による実験で裏付けられている。

 腕振りで発生した振動を水中マイクで録音し、それをそのまま再生したケースと、編集したものや逆再生したものを流したケースを比較すると、コウイカはそのままの振動にしか反応しないことがわかったのだ。

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 またこのことは、振動の順序にも意味があるだろうことを示唆している。

 「コウイカが水中マイクのそばへやって来て、そのすぐ前で腕を振り返したのはとても印象的でした」(コーエン=ボデネス氏)

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ただし、この行動が本当に仲間との合図なのかは、慎重に判断する必要がある。

 ミネソタ大学の生物学者トレバー・ワーディル博士は、イカが映像に反応する行動は、鏡に映る自分に反応しているのと似た行動である可能性を指摘している。

 とはいえ、コウイカは社会的な性質を持っており、飼育下でも飼育員に向かって腕を振ることがある。

 そのため「注意を引こうとしている=意図的なコミュニケーション行動」だという仮説も成り立つという。

この画像を大きなサイズで見るコウイカは変幻自在に皮膚の色を変えられるカモフラージュの達人でもある。 Image credit: Sophie Cohen-Bodenes and Peter Neri

 研究チームは今後、AIを使って腕の合図の意味を解析する予定だ。すでにタコやイカの皮膚模様解析に使われている機械学習技術を応用し、動きのパターンと言語的意味の対応関係を探るという。

 さらに、コウイカのような見た目と動作を再現する水中ロボットを開発し、それを使ってリアルなサインを再現し、コウイカの反応を観察する試みも計画されている。

 この研究の未査読版は、現在『bioRxiv』(2025年4月16日投稿)で公開されている。

References: Cuttlefish interact with multimodal “arm wave sign” displays / Watch cuttlefish 'waving' at each other in what scientists think might be communication / "We were amazed to observe a cuttlefish waving back" – video experiment stuns scientists

本記事は、海外の情報をもとに、日本の読者向けにわかりやすく再構成し、独自の視点で編集したものです。

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