【死刑囚の弁護士たち】寝屋川中1男女殺害事件「山田浩二死刑囚」からの手紙に渦巻く“拘置所への怒り” 「国際基準では到底許されない」

逮捕され、大阪府警本部に連行される山田浩二死刑囚(中央)

 内閣府世論調査によれば、日本国民の8割以上が死刑制度を容認している。ネット上では凶悪犯に対し「早く死刑にしろ」といった攻撃的な声も飛び交う。そんななか、死刑囚の人権を守ろうと、拘置所内の処遇改善に力を尽くす弁護士がいる。連載企画「死刑囚の弁護士たち〜なぜ“殺人犯”を守るのか〜」第4回は、2015年に寝屋川中1男女殺害事件を起こした山田浩二死刑囚(55)の国家賠償請求訴訟を担当する大野鉄平弁護士(45)に話を聞く。罪を犯した人の人権に光を当て、国と闘い続ける理由とは。

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 大野弁護士のもとには、毎週のように山田死刑囚からの手紙が届く。

〈僕ももう長くはありません。命を惜しむ歳ではありませんけど一応死刑確定者という法的身分なので、夜眠れない時や朝早く目覚めた時、何もせずに考えごとをしていると、ストレスやイライラすることばかりが浮かんできてたまらなくなります〉(以下すべて原文ママ)

 山田死刑囚は15年に大阪府寝屋川市の中学1年の男女2人を車に連れ込んで誘拐し、首を絞めるなどして殺害。殺人罪で21年に死刑判決が確定している。2人の遺体は顔に粘着テープが何重にも巻かれ、竹林に数日間放置された男子生徒の遺体は一部が白骨化し、女子生徒の左半身には30カ所以上の切り傷が残されており、その残虐性で世間を震撼させた。山田死刑囚は本事件の前にも、男子中高生7人に対するわいせつ目的の監禁事件を起こして懲役12年の刑に処されるなど、多くの前科があったという。

■手紙に込められた怒り、鬱屈

 山田死刑囚は現在、大阪拘置所に収容されている。確定死刑囚は親族や弁護士など限られた数人としか外部とのやりとりが許されない。大野弁護士に宛てた手紙には、死刑囚としての処遇への怒りや、鬱屈とした内心が小さな字でびっしりと書き込まれている。

〈たとえば昨日夢で見た内容がすごく印象深かったり、食事がおいしく感じなくなったり…そんな何げない、ど〜でもいいような話題でも聞いてもらいたくなるものです。(中略)面会があったり外部交通を完全に遮断されていなければそんな日常的な出来事を伝えることが出来るし無駄なストレスを抱えたり心情の安定を保つことが出来るんですけどね〉

大野弁護士に宛てた山田死刑囚の手紙。追い詰められた精神状態が切々とつづられている

 大野弁護士は山田死刑囚の心中をこう察する。

「人間誰しも、世間話をしたり愚痴をこぼしたりしないと、孤独のなかで精神的におかしくなるでしょう。コミュニケーションをとるのが好きな性格の山田さんなら、なおさら苦痛が大きいと思います」

 とりわけ、「これはかなり追い詰められているな……」と感じた手紙は、こんな内容だ。

〈本当に恥ずかしいのですが、すごくイライラしていてDVDなんて楽しめる気分でない時にたまたま視聴していた音楽番組で「マツケンサンバⅡ」が流れた時、全く意味が判らないのですがすごく泣いてしまって…。「マツケンサンバⅡ」なんか、どう考えても泣ける曲ではないですよね?(中略)これってやっぱりどこか病んでいるのですかね?〉

■“こま切れ”と化した山田死刑囚の手紙

 山田死刑囚から初めて手紙が届いたのは、約3年前。大野弁護士はNPO法人監獄人権センターの事務局長を務めており、刑務所や拘置所内の人権侵害にまつわる相談を受け、国に損害賠償を求める訴訟を起こしてきた。

 山田死刑囚はそんな大野弁護士を頼り、「処遇の件で国賠訴訟の準備を進めているので力になってほしい」「再審請求弁護人になってほしい」などと記した手紙を送ってきた。だが、それらの内容は大阪拘置所によって大部分が黒塗りにされ、便箋はところどころ切り取られて“こま切れ”と化していた。

大阪拘置所によって、黒塗り、切り取りが施された山田死刑囚の手紙

「死刑囚が発信できる手紙の内容は刑事収容施設法によって制限されていますが、山田さんの手紙は国賠訴訟や再審に向けた法律相談であり、本来なら認められる内容です。拘置所による切り取りや黒塗りは許されません。山田さんには国賠訴訟を勧め、提訴へ踏み切りました」

 25年に開かれた一審・二審ともに大阪拘置所の対応は「違法」と認められた。二審判決は国に8万8千円の賠償を命じ、現在は最高裁で争っている。

大野鉄平弁護士(大谷百合絵撮影)

 もともと人権問題に関心があったという大野弁護士。だがなぜ、あえて、罪を犯した人の人権を守ろうと思ったのか。

「塀の中の訴えが外に届くことはまれで、刑務所や拘置所内の違法行為は放置されがちです。それは訴えに耳を貸す人がほとんどいないから。でもすべての人に司法アクセスは保障されるべきです。“犯罪者”と呼ばれる人たちのSOSに対応できる弁護士がいないなら、僕がその役目を果たそうと思いました」

■山田死刑囚からの“気遣い”

 山田死刑囚と大野弁護士は引き続き手紙のやりとりを続けている。

〈国賠を提訴して明らかに違法だと裁判所に判断されているにもかかわらず今だに馬鹿書信係職員による嫌がらせ恣意的抹消が続いています〉

 文面から浮かび上がるのは、置かれた環境への憤りにとらわれた山田死刑囚の姿だ。大野弁護士は「気持ちは分かるんですよ」と理解を示す。

「一生懸命書いた手紙を黒塗りにされば、ストレスがたまるのは当然です。それでも、僕に対してあれこれ過度な依頼をしてくることはない。交流できる人がほとんどいないからこそ、見捨てられたら困ると思って気を遣っているのでしょう。」

 大野弁護士は「関係がこじれた時にしんどいから、依頼人には私的な感情を持たないようにしている」というスタンスを崩さない。山田死刑囚からの手紙に毎回返信することはないが、これまで届いた膨大な数の手紙は一通ごとにラベリングし、丁寧にファイルに保管していた。

 これまでの手紙で、山田死刑囚が2人の子どもを殺(あや)めた自らの罪をどう考えているのかは一切言及がない。内省や反省を促さないのかと大野弁護士にたずねると、「ご遺族ならともかく、僕が言うべきことじゃない」と返ってきた。

「そもそも、誰かに言われたから反省するというのは本当の反省ではない。弁護士の僕にできることは、法律に従った拘置所内の処遇を実現し、山田さんが余計なことに心を乱されずに自分の罪と向き合える時間をつくってあげることです」

山田死刑囚が手にかけた中1男子生徒の行方を捜すチラシ。事件直後、山田死刑囚が住んでいるとみられるマンション1階のロビーに貼られていた

■日本の拘置所事情に「なんじゃそりゃ!」

 山田死刑囚は手紙の件以外にも、監視カメラ付きの居室に収容され続けていることがプライバシー権の侵害にあたると訴え、国賠訴訟を起こしている。大野弁護士によると、山田死刑囚は自殺未遂などの深刻なトラブルは起こしていないが、処遇への不満などから精神的に不安定であることが自殺リスクとみなされ、厳重な監視下に置かれているという。

 国連人権委員会は死刑囚に対する24時間のビデオ監視を問題視しており、24年9月、日本政府宛てに注意喚起の書簡を送った。国内の裁判の判例を見ても、刑事施設収容者へのプライバシー侵害は一定の限度を超えれば違法とみなされてきた。だが、「国は施設内の秩序のために厳格な監視が必要という姿勢を崩さない」と大野弁護士は言う。

「人権がテーマの国際会議で、真っ黒に塗りつぶされた山田さんの手紙など日本の拘置所事情を紹介すると、参加者たちに『なんじゃそりゃ!』と驚かれますよ。国際基準では到底許されないことが日本では平気で行われている。おかしいことにはおかしいと声をあげて、人権後進国と言われても仕方ない現状をなんとかしたいと思っています」

 一方で、人を傷つけ殺めた人の人権も守るべきだという主張は、世間から納得や共感を得ることが難しい面もある。ネット上では凶悪犯に対し、「拘置所でのうのうと生きているのは許せない」「被害者や遺族の痛みと同等の苦痛を与えるべきだ」といった過激な声も飛び交うが、大野弁護士はこう反論する。

「犯罪者はどんな目に遭わせてもいいという論理が行き着く先はリンチです。法治国家では許されない。国が定めた法を国自身が守らない事態が放置され、不当な目に遭い苦しむ人がいるのは看過できません。死刑囚からの訴えであっても、きちんと耳を傾ける弁護士がいなきゃいけない」

大野弁護士に宛てた山田死刑囚の手紙。25年末に自らの死刑が執行されるのではないかという不安がにじむ

■「次は僕の番なんじゃないかと…」

 大野弁護士と山田死刑囚は現在、3件の国賠訴訟を争っている。しかし、山田死刑囚はいつ刑に処されてもおかしくない。25年10月に大野弁護士に宛てた手紙には、執行への恐れが正直につづられている。

〈死刑判決が確定した現在も再審で死刑判決を回避してやる気持ちは100%変わっていませんが、今年保守的な首相になり、法相も変わりました。面識がなかったとはいえ2年連続で同じ居室フロアの死刑囚が年末に執行されているのでなんていうのか…すごく身近に感じ、次は僕の番なんじゃないかと…。大丈夫と信じている反面、不安や心配もある今日この頃です〉

 もし今、山田死刑囚が処刑されたら? 大野弁護士にたずねると、「想像するとやっぱりドキッとしますね」と言葉を詰まらせたが、すぐに冷静な声色でこう続けた。

「でも山田さんの死を前に私的な感情が巻き起こるというよりは、係争中の裁判を抱えている中での死刑執行に違法性はないのか、何らかの形で問題提起をしなければいけないという発想に切り替わるような気がします」

 たとえ死刑囚であろうと、すべての人は法によって守られるべき――そう信じ、闘い続ける弁護士の姿がそこにあった。

(AERA編集部・大谷百合絵)

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