感染予防の強い味方。ナノサイズの手がウイルスをつかまえて離さない

Image: Xing Wang

医療用の超極小UFOキャッチャー。

テニスボールやオレンジを手に取るように、ウイルスをつかまえて細胞への感染を防げるとしたら? イリノイ州の科学者たちは、正にそれを実現させるために超絶極小な4本指の手を開発しました。

ウイルスをつかまえるナノグリッパー

イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のシン・ウォン氏が率いる研究チームは、折りたたみDNAからナノサイズの手を開発しました。「ナノグリッパー(NanoGripper)」と名付けられたその手は、新型コロナウイルス粒子をガッチリつかむことができます。

11月27日発行の科学誌「Science Robotics」に掲載された研究結果では、ナノグリッパーがウイルスを特定するための迅速な検査を行なうとともに、健康な細胞への感染を防ぐ効果があることを示しました。この研究は新型コロナウイルスを対象にしていますが、数多くの病状に対して重要な示唆を与えています。

ウォン氏は声明で次のように述べています。

「私たちは、細胞やウイルス、その他の分子と相互作用してつかむという、これまでにない機能を持つナノスケールのロボットを生物医学に応用する目的で開発したいと考えました。私たちは、強度があり、柔軟でプログラム可能なDNAの構造特性を生かしました。しかし、DNAオリガミの分野においても、この設計原理は斬新です。長いDNAの一本鎖を折りたたむことで、静止部分と可動部分の全要素をワンステップで作ります」

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ナノグリッパーは、3つの関節を持つ4本の指と手のひらを備えています。指は特定の分子標的(コロナウイルスの場合は悪名高いスパイクタンパク質)の外側をつかむ形で結合するようにプログラムされています。

研究によれば、ナノグリッパーと細胞を新型コロナウイルスにさらしたところ、ナノグリッパーのつかむ機能が働いて、スパイクタンパク質が細胞に感染するのを防いだそうです。

フレキシブルな応用が可能

ウォン氏はナノグリッパーの応用方法について、こう述べました。

「感染後にナノグリッパーを適用するのは非常に難しいですが、予防医療に使用する方法があります。抗ウイルス作用を持つ点鼻薬を開発できるでしょう。鼻は新型コロナウイルスやインフルエンザのような呼吸器系ウイルスのホットスポットです。ナノグリッパーを配合した点鼻薬は、ウイルスと鼻の細胞の相互作用を防ぐことができます」

ナノグリッパーには独自のセンサーが組み込まれており、病院で使用されているqPCR分子検査と同等の精度で、30分以内に新型コロナウイルスを検出できるといいます。

研究に参加したイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の同僚、ブライアン・カニンガム氏は次のように述べています。

「ナノグリッパーがウイルスをつかんだ状態でLEDやレーザーを照射すると、蛍光分子が活性化して光を発します。多数の蛍光分子が1個のウイルスに集中すれば、検出システム内で十分な明るさになるため、個々のウイルスを数えられるようになります」

研究論文で詳細が報告されていますが、ナノグリッパーを改良すれば、HIV、インフルエンザ、B型肝炎ウイルスなど、他のウイルスにも応用できる可能性があるそうです。

また、ナノグリッパーの「手首」を別の医療用ツールに取り付ければ、標的化ドラッグデリバリー(治療薬を体内の特定の患部に送り込む技術)などの機能を持たせることも可能といいます。

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がん細胞にロックオン

ウォン氏にはウイルスよりも大きなターゲットがあります。それはがんです。新型コロナウイルスと同じ方法でがん細胞を標的にするようプログラムし、その後抗がん剤を集中的に送り込むことができるそうです。

「もちろん多くのテストが必要ですが、がん治療への応用の可能性と、診断的適用で達成された感度の高さは、ソフトナノロボティクスの能力を示しています」

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