住民8割死亡の村も 北海道、日本海沿岸の地震・津波被害想定を公表
北海道は3日、日本海沿岸でマグニチュード(M)7以上の巨大地震が発生した場合に、沿岸の33市町村で最大約7500人が死亡するとの想定を公表した。震源となる断層が陸地に近く、避難が難しくなるとしている。各自治体は被害軽減に向けた対策を迫られている。
道は2022年、国が前年に公表した太平洋沿岸の被害想定を基に同地域で最大約14万9000人が死亡するとした推計を公表した。日本海沿岸の被害想定は道防災会議のワーキンググループ(WG)で23年9月から独自に検討を進めた。
Advertisement想定では、日本海沿岸の15断層を検証。避難などの条件が大きく異なる昼、夕、深夜と夏、冬で計90パターンに分類した。20年の住民基本台帳のデータを活用し、津波高は道が17年に公表した数値を用いた。さらに、すぐに避難する割合を20%と70%に分け、人的被害を割り出した。
その結果、北海道南西沖から青森西方沖にかけての断層で冬・深夜に起こった場合の死者数を、約7500人と推計。ほとんどが津波による被害となる。建物被害は、内陸部まで延びる北海道北西沖の断層で、積雪による影響を受ける冬の夕、深夜に発生した場合の、約1万6000棟が最大となった。
市町村別の想定死者数は、稚内市の約4070人(北海道北西沖断層、夏・昼)が最大。島牧村は約1200人(北海道南西沖断層、冬・深夜)で、総人口の8割超に上った。このほか、礼文町、神恵内村、奥尻町でも死者が人口の5割を超えた。
WG座長の岡田成幸・北海道大広域複合災害研究センター客員教授(地震防災計画学)は日本海沿岸について、国道が海岸線沿いに延びる▽集落が国道沿いに形成▽険しい崖が海岸近くまで迫る▽津波が数分で到達する――といった特徴を挙げ、「短時間での移動はかなり厳しい。地理的に非常に不利な環境」と指摘する。
想定では津波避難タワーや細かい避難路を考慮に入れておらず、想定よりも早く避難できる可能性があるという。近くに高台などの逃げ場を確保したり、住民個人の避難計画を作ったりすることが有効だ。
それでも子どもや高齢者といった要配慮者の避難は難しく、岡田座長は長期的対策として集落の高台移転の必要性を訴える。
日本海沿岸での地震の発生確率は国の長期評価で0~0・1%だが、岡田座長は「いつか起きると考えて備えて」と呼びかけている。
道は今後、今回の想定を基に減災計画を策定。残るオホーツク海沿岸の被害想定も検討を進める。【片野裕之】
「壊滅的な打撃」の可能性
日本海沿岸で想定される死者数は太平洋沿岸に比べると14万人以上少ないが、WGの岡田座長は「決して小さい数字ではない」と強調する。日本海沿岸は人口規模の小さな自治体が多く、7町村で人口に占める死者数の割合が3割を超える「壊滅的な打撃」になる可能性がある。
「大変厳しい数字と受け止めている」。最大で人口の83%に当たる約1200人が死亡すると推計された島牧村の川原尚郁防災対策室長は、被害想定に声をこわ張らせた。
村は国道229号が海沿いを走り、全ての集落が国道沿いに点在する。内陸に逃げる主要道路は道道1本のみ。早期避難が70%に増えた場合も想定される死者数は変わらない。
川原さんは村が1隻保有する救命艇(定員25人)や避難タワーをさらに整備する必要性に触れつつ、「安全な場所への集落移転も検討しないといけない」と話した。
一方、冷静に受け止める自治体もある。最大で52%が死亡するとされた礼文町の担当者は、「特に驚きはなかった」と淡々と語る。
道が17年に公表した津波浸水想定では、最大22メートルの津波が1~4分で町に到達する。それを踏まえ、「今回は当然の結果」と指摘。被害想定を受け、「改めて早期避難の重要性を住民に伝えたい」とした。【片野裕之】