対米絡む中印接近に異変、インドが削ったキーワード 習氏は晩餐欠席
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中国とインドは協力するパートナーであり、ライバルではない――。中国国営通信の新華社など中国の主要メディアは12日のインド・ニューデリーでの中印首脳会談後、一斉に中印の「パートナー」関係を強調する記事や論評を掲げた。7年ぶりにインドを訪問した中国国家主席の習近平(シー・ジンピン)の積極的で前向きな発言を取り上げたのだ。
だが、インド側の様子が何かおかしい。インド外交当局による公式発表では、中印関係に関して習が主張した「パートナーであり、ライバルではない」という大事なキーワードが見当たらない。
1年前、インド首相のモディが7年ぶりに訪中して習と会談した後、インド側も公式発表で強調していた肝となるフレーズを今回はあえて削った。習の主張を事実上、無視して素通りした以上、ホスト役のモディ側にもそれなりの覚悟があったはずだ。
今回、インド側は関係発展には国境の安定が不可欠とくぎを刺し、対中貿易赤字の拡大を念頭に構造的な貿易不均衡という問題にもしっかり触れている。中国側の姿勢とは微妙なズレがある。国境問題で鋭く対立してきた中印だけに、溝が残っているのは理解できる。
ところが、さらなる臆測を世界に広げたのは習の行動だった。現地時間12日午後の中印首脳会談後、開かれたBRICS首脳会議の格式の高い公式晩餐(ばんさん)会を欠席したのだ。モディが主催し、ロシア大統領のプーチンらも出席した首脳会議を彩る「ガラディナー」だ。
中国側から欠席理由に関する公式説明はない。習は最近、外国訪問が続いており、疲労や体調不良があったため宿舎のホテルに戻って休息をとったのか。それとも中印首脳会談でのモディの姿勢や、インド側がパートナー関係を強調しなかった点に強い不満があったのか。真相はやぶの中である。
中印両国は2020年、国境地帯の係争地ラダック地方のガルワン渓谷で両軍が衝突して多数の死者を出した後、関係が極度に悪化した。BRICS首脳会議を利用する7年ぶりの習訪印に至る動きには、見えにくい裏事情がある。米大統領のトランプを抜きに最近の中印の緊張緩和を語ることはできない。
そもそもトランプとモディは「真の友」と呼び合うほど個人的に関係が良かった。だが、それはもろくも崩れ去る。きっかけはインドとパキスタンが武力衝突した後、停戦で合意した経緯を巡る問題だ。ここにはトランプ独特のノーベル平和賞に対する強いこだわりが関わっている。
25年4月、インドとパキスタンが領有権を争うカシミール地方のインド側支配地で発生したテロ事件では多くの観光客が死亡する大惨事になった。インドはその後、パキスタン領内・支配地域内のテロリスト訓練施設、指揮拠点をミサイル攻撃した。パキスタンも反撃し、戦闘機による空中戦を含む危険な戦争状態に陥る。
トランプは、両国を交渉の席につかせ、翌月の停戦合意に導いたのは自分であると主張した。実際、パキスタン側はトランプの仲介に感謝の意を表明し、ノーベル平和賞への推薦までしている。
だが、インド側はトランプが仲介したという認識を示さず、モディがトランプをノーベル平和賞に推薦することもなかった。トランプは面目をつぶされた形で、その後のインドへの報復的な関税措置につながったとされる。米印関係は一気に緊張する。
ギクシャクする米印関係。その「好機」を逃さなかったのが中国だ。外相の王毅(ワン・イー)がインドを訪問してモディと面会し、7年ぶりとなるモディ訪中に道筋を付けた。25年8月末、中国・天津での上海協力機構(SCO)首脳会議を利用した中印首脳会談が実現する。
その前年だった24年には、BRICS首脳会議が開かれたロシアのカザンで習とモディが5年ぶりの公式会談に踏み切っていた。次の課題は中印両首脳が相手国を相互訪問する緊密な外交だったが、ハードルはそれなりに高い。
モディが先に訪中すれば、習の顔も立つ。インドにとっては米印関係が厳しい時期だからこそ、潜在的な脅威である中国を訪れ、対外関係の安定を図る意味があった。SCO首脳会議への参加を利用すれば、米中両国と独自の距離感を保ちつつ、自国の利益も重視するインドの「全方位外交」という説明もできる。
25年のモディ訪中から1年がたち事態は微妙に変わった。今回の7年ぶりとなる習の訪印では、中国側がやや前のめりだった。その理由は今月下旬、習の公式訪米を控えているからだ。公式発表はまだない。だが、24日にはワシントンのホワイトハウスでトランプと会談する方向が固まっている。
インド、ロシアなどBRICSの力ある新興国との緊密な関係は、習の「対トランプ」交渉力を高める。とりわけインドは米国、日本、オーストラリアと安全保障協力の枠組み「Quad」(クアッド)を持つ。そのインドを少しでも中国側に引き込む雰囲気を醸し出せれば、習にとって大きな得点になる。
とはいえ、その微妙な力学はインド側も十分、理解している。行動が読めないトランプが仕切る米国との関係を考えれば、一方的に中国側に取り込まれる危険は冒せない。だからこそ、今回は中国との「パートナー」関係を大々的にアピールするのを控えた。
モディとトランプの関係も一時に比べれば、かなり安定している。2月の電話協議で関税引き下げで暫定合意。6月には主要7カ国首脳会議(G7サミット)を開催したフランス・エビアンで対面会談した。
トランプは両国の貿易交渉が進展しているとし、モディとの関係についても「長年の友人で、私たちは素晴らしい関係を築いている」と語った。悪化した個人関係の修復である。27年初めにもトランプが訪印するとの見方も出ている。
昨年以来、中印関係を緊張緩和に導いた推進力のひとつは、中印両国それぞれの「対トランプ戦略」だった側面は見逃せない。それなら米印、米中関係のどちらかが変化すれば、中印緊張緩和のスピードや方向感にも影響が出てくる。
それが今回、習が訪印しての中印首脳会談で明らかになった「異変」の正体だった。アジアの大国である中国とインドは核保有国でもある。「対トランプ」が絡む中印関係の今後は日本の外交戦略にも大きくかかわってくる。今後を注視したい。(敬称略)
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