首相の台湾有事答弁1年、日中対立招いた不用意発言 外交は米国頼みに

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高市早苗首相が台湾有事に関し「日本の存立危機事態になり得る」と国会で答弁して7日で1年になる。中国側の猛反発を背景に、この間、日中の対話は停滞した。日本は東アジアで中国、ロシア、北朝鮮の三正面への対峙を余儀なくされている。首相の答弁後の外交に死角はなかったか。

2025年11月7日の衆院予算委員会での答弁だった。政府の存立危機事態の認定は日本が集団的自衛権を行使する前提になる。歴代の首相があえてあいまいにしてきた同事態について認定され得る具体例に踏み込んだ。事務方が準備した想定問答を超えた。

その1週間前、就任後、初めて韓国で習近平(シー・ジンピン)国家主席と会談し、従来の日本の方針に沿い「戦略的互恵関係」の推進を確認した。「かなり中身の濃い充実した議論ができた」と語った直後だった。

台湾を「核心的利益」と位置づける中国にとり、台湾を侵攻した場合、日本が武力を使う可能性を示唆した首相の発言は容認できない。一方、首相からすれば台湾有事が日本に及ぼす影響の甚大さを率直に語った「正論」だ。互いに引けなくなった。

日本は米国を頼った。外務省幹部が首相の答弁直後に訪米し、台湾問題の平和的解決を求める従来の政府見解に沿うと説明した。

首相は25年11月25日、トランプ大統領との電話協議で前日の米中首脳による電話での習氏の発言を尋ねる。「習氏はあなたを悪く言っていた」。トランプ氏は首相に注意を促したという。

中国は経済、外交、安全保障の多方面で日本への圧力を強めていく。

26年1月、軍民両用(デュアルユース)品目の対日輸出管理を強化した。5月には大連で富士電機グループの邦人社員2人を拘束。第三国向けには日本の防衛力強化の方針に絡めて「新型軍国主義」と対日批判を展開した。

それでも首相は中国との関係改善へ積極的に動かなかった。2月の衆院選で大勝、支持率は高水準を維持する。世論をみると対中姿勢を変える必要性は乏しかった。

首相は5月のトランプ氏が訪中した直後の電話協議でも、引き続き習氏の対日発言を尋ねた。「日本から発信しないので、詳細に教えてほしい」と求めたという。

米国頼みの対中外交には限界がみえる。トランプ氏自身が得点稼ぎのため日本の頭越しに習氏とのディール(取引)を成立させる機会をうかがっている。

米国だけでなく欧州も中国への警戒を残しつつ、実利を求めて対話を続けている。フランス、英国、ドイツの各首脳は25年末から26年2月にかけて相次ぎ訪中した。英国はスコッチウイスキーの関税引き下げを取り付けた。

11月18日から中国・深圳でアジア太平洋経済協力会議(APEC)がある。政府高官はそれに合わせて日中首脳会談を設定するのは難しいと話す。首相と習氏の会談が実現しなければ、22年以降、APECの機会に毎年続いた首脳同士の対面会談が途切れる。

東アジアを見渡せば、日本はいま中国だけでなく、ロシア、北朝鮮とも首脳間の対話がない。その状況で軍事的脅威に直面せざるを得ない。安全保障で同盟国の米国との関係を揺るがすことはできず、経済でも米国に追従するリスクが増す。

中国を動かすには米国に加え、欧州やアジアの同志国との連携が欠かせない。国際会議はその好機だが、首相は機会を逃し続けている。

7月の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議を欠席した。9月の国連総会も米国での滞在約30時間で帰国した。10月には主要7カ国(G7)首脳のオンライン会合の参加を見送った。「米欧間の議題だった」というのが理由の一つだ。

首相は日本のパイプもいかせていない。岩屋毅前外相は9月末に訪中し、王毅(ワン・イー)共産党政治局員兼外相らと会った。首相と岩屋氏は距離があり、中国との対話につなげられていない。事務方も首相が関係改善の意思を見せなければ動きにくい。

同志社大の三牧聖子教授は「安保や経済の『米国全乗り』はリアリズムでない」と指摘する。「日本はミドルパワーとして中国を含めた全方位外交をやるしか選択肢はない。国内世論より国益を優先するのが首相の仕事だ」と強調した。

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