欧州への米国製兵器供給が大幅遅延する要因の1つ、米国が台湾を優先か
Financial Timesは2日「米国は英国、ポーランド、リトアニア、エストニアを含む欧州同盟国に米国製兵器の納入が大幅に遅れる可能性があると通告した」と報じ、ポーランドのディフェンスメディアも「台湾への武器供給を優先するため欧州諸国への納入が影響を与えるかもしれない」と危惧した。
参考:Media: opóźnienia w dostawach rakiet do Polski
Reutersは4月16日「米国当局はイランとの戦争が武器備蓄を消費し続けているため、一部の欧州当局に対して契約した武器納入が遅れる可能性が高いと伝えた」「今回の決定によりバルト海地域やスカンジナビア諸国を含む複数の欧州諸国が影響を受ける」「Reutersの取材にエストニアとリトアニアは『イラン戦争の影響で米国製装備品の納入に遅れが生じる可能性がある』と通知されたと回答した」「今回の影響を受ける国の中にはロシアと国境を接している国もあり、攻撃と防御の両方に使用できる弾薬を含む様々な種類の弾薬が納入遅延の影響を受ける」と報じた。
出典:Lockheed Martin
これまでにエストニア、リトアニア、ノルウェーが「米国から通知を受けた」と明かし、エストニアのアラル・カリス大統領は「HIMARSに関連する遅延について通知を受けた」と具体的に述べ、フィンランドのアレクサンデル・ストゥブ大統領は4月28日「イラン戦争の影響で一部の米国製武器が(発注国ではなく)他国に納入されている」と、EUのカヤ・カラス外交安全保障上級代表は4月30日の会見中「ホルムズ海峡での対立が短期間に解消する見通しは立っていない。北欧およびバルト諸国への米国製武器は納入遅延に直面している」と言及。
ポーランドのディフェンスメディア=Defence24も「米国のスイスへの対応」と「米国が非公式にポーランド軍のパトリオット部隊を中東に配備し、納入済みのPAC-3 MSEを移転できないか打診してきたこと」を受けて「ポーランドへの要請はパトリオットシステムと迎撃ミサイルの不足を示唆している」「米国は十分なパトリオットシステムや迎撃ミサイルを確保するまでポーランド納入を遅らせるかもしれない」と懸念していたが、Financial Timesは2日「米国は英国、ポーランド、リトアニア、エストニアを含む欧州の同盟国に米国製兵器の納入が大幅に遅れる可能性があると通告した」と報じた。
出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Caleb Schellenberg
これを受けてDefence24も2日「マルコ・ルビオ国務長官は3月末、NATO諸国がウクライナ向けに購入した兵器を米国自身のニーズに転用する可能性を否定しなかった」と指摘して以下のように懸念している。
“2027年からは2023年秋に発注したパトリオットシステム×6セットの納入が予定されており、これには360度を警戒できる最新レーダーのLTAMDSや数百発のPAC-3 MSEが含まれ、特に米国はクウェート向けのLTAMDS緊急売却を最近承認している。さらにF-16C/DとF-35A向けにAMRAAMなど複数のミサイルを購入しているが、これらのミサイルはNASAMSでも使用される。台湾がパトリオットシステムとNASAMS用のミサイル購入に関心を示し、この動きは欧州諸国への納入に影響を与えるかもしれない”
出典:RTX
ポーランドは2019年に完成品のHIMARS×20両をLockheed Martinに発注、2023年9月「HIMARSランチャー×486両分調達に関する枠組み協定」を締結し、これを国産シャーシに搭載してポーランド製の射撃管制システム(Topaz)と統合したHomar-Aを調達予定だが、米政府がGMLRS(HIMARSで使用するロケット弾)国産化に必要な技術移転に同意しないため「HIMARSランチャー調達」のための正式契約が締結出来ず、オリジナルのHIMARSは20両しか保有していない。
そのためDefence24はHIMARS向け弾薬の納入遅延には触れておらず、LTAMDSを含むパトリオットシステム、PAC-3 MSE、AIM-120D-3、AIM-120D-8、AIM-9X Block II、JASSM-ER、AARGM-ERが影響を受けるかもしれないと危惧している。
出典:RTX
米国の同盟国やパートナー国は米国製兵器を対外有償軍事援助(FMS)経由で購入しても、米国は購入国に引き渡しが完了するまで「自国の安全保障に影響を及ぼす事情があれば合意された武器取引の条件から逸脱する権利」を行使することができ、単純に言えば「米国は同盟国やパートナー国が発注したFMS経由の調達品は『引き渡し』が完了するまで米国都合でどうにでもできる」「仮に同盟国やパートナー国が発注した調達品の納入を自国や特定国に振り替えて遅延が発生しても補償しない」「逆に納入遅延によって生産コストが上昇すると不足分を請求される」「調達キャンセルは可能でも返金額は米大統領の善意頼み」だ。
つまり同盟国やパートナー国が発注したFMS経由の調達品は引き渡しが完了するまで「米軍に転用できる巨大な兵器備蓄」とも言え、多くの国で「契約関係における購入国の立場が圧倒的に不利過ぎる」と批判されており、武器主権やデータ主権の問題と合わせて米国製兵器離れの強い要因となっている。
出典:U.S. Department of Defense
ちなみに欧州を犠牲にしてでも台湾納入を優先する要因の1つは、トランプ大統領が今年2月に発表した「米国第一主義の武器移転戦略」の中で事実上「新たな世界基準まで国防支出引き上げに応じた国には武器売却を優先する」と宣言したことで、つまり「GDP比で総額5.0%達成を政治的に約束しなければ米国製装備の購入で冷遇される」という意味になり、台湾の国営メディア=中央通信社は「新たに発表された米国の武器移転戦略は台湾にとって有利だ」と報じ、台湾の防衛問題を研究するジョージ・メイソン大学のマイケル・ハンゼカー准教授は米国第一主義の武器移転戦略について以下のように説明した。
“この政策は米国の武器売却における長年の非効率性に対処するもので、これまで複数の同盟国が同じ兵器システムを購入した際、請負業者は必ずしもワシントンの(政治的)優先順位に沿って生産・納入してこなかった。昨年12月に発表された台湾向けの110億ドルもの武器売却パッケージは(6日に発表された米国第一主義の武器移転戦略)を念頭に置いて交渉された可能性が高く、立法院が武器売却パッケージを購入する予算を承認すれば納入はおそらく加速されるだろう”
出典:總統府/CC BY 2.0
“米国の戦略計画における台湾の重要性、さらに頼政権は国防支出を増額すると約束(2026年までに3.5%、2030年までに5.0%達成)しているため、台湾はワシントンの「優先パートナー」としての基準を満たしているように見える。トランプ政権は防衛負担の分担を強く重視しており、同盟国やパートナーに「自らの責任を果たすこと=pull their own weight」を期待しているため、武器売却をカバーするのに十分な予算が承認されなければ、台湾も武器を供給する優先リストから除外されるかもしれない”
中央通信社は米国第一主義の武器移転戦略について「長年続いてきた先着順の納入アプローチの代わりに『国防支出が多く、戦略的重要性の高いパートナーへの武器売却および移転を優先する方向への政策転換』を示すもので、全体として米国の新戦略は台湾にとって前向きな進展だ」と報じ、分かりやすく言うと「複数の同盟国が納入待ちの長い列を作っている需要の高い米国製装備」について『契約を締結した順』ではなく『国防支出と戦略的重要性の両方を満たしている国への納入を優先する』となる。
出典:The White House
ハンゼカー准教授が指摘した「米国の武器売却における長年の非効率性」とは頻発している納入遅延の改善ではなく、米国を最優先した上で「余剰となる生産枠」の配分方法を契約締結順から政治的な優先順位に変更することで、米国にとって日本がどれだけ戦略的に重要でも「総額5.0%達成への約束」と「それに伴う予算承認の実行」が伴わない限り、発注したF-35、トマホーク、SM-6、AMRAAMなどの納入順位で不利益を被るという意味だ。
日本の石破首相が「防衛費は日本が決めるものだ」「他国に言われて決めるものではない」と述べたが、高市首相は所信表明演説の中で「防衛費をGDP比2.0%への引き上げを2年前倒して今年度中に実現する」と表明し、2025年度に当初予算と補正予算を合わせて約11兆円を支出して2.0%を達成したが、2.0%以上への引き上げについては議論が始まったばかりで、インド太平洋地域の同盟国やパートナーの中で「国防費増額への取り組み」が最も遅れている。
小泉進次郎防衛相は4月17日「2026年度予算の防衛関連費がGDP比で1.9%になった」と発表したが、これは2022年度のGDP(560兆円)で計算した数字であり、NATO基準=支出を行う当該年の名目GDP(690兆円)で計算すると「2026年度は1.5%」「補正予算込みでも2.0%に届かないかもしれない」となり、オーストラリアは4月16日に発表した国家防衛戦略の中で明確に「NATO基準の計算方法で測ると2033年までにオーストラリアのGDPに占める国防支出の割合は3.0%に到達する」と説明。
国防支出の5.0%増額を約束している台湾、国防予算を3.5%まで段階的に引き上げると約束している韓国がNATO基準で計算しているのかどうかは不明だが、仮にNATO基準で日本の国防支出を評価すると「補正予算込みでも2.0%にすら届かないかもしれない」となるため「日本はインド太平洋地域で重要な同盟国だから国防費増額への取り組みが最も遅れていても大丈夫だ」と思っていると足元をすくわれるかもしれないし、国防費増額に反対ではないにしても「まずは何に使うのかの議論すべきだ」という正論も恐らくトランプ政権には通用しない。
出典:首相官邸
自主国防の追求や安全保障の多様化ではなく「米国へのオールイン」を決め込んでいる以上、正論を振り回すよりもさっさと「防衛費を段階的に3.5%まで引き上げる」と政治的コミットを表明した方が賢いと思う。どうせ梯子を外されれば選択肢がない日本にとって防衛費の増額は避けて通れないのだから。
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※アイキャッチ画像の出典:Lockheed Martin