「量子もつれ」を既設の光回線に“相乗り”、世界初の遠隔伝送に成功

量子コンピューターや量子暗号通信の実用化には、離れたノード同士を結ぶ「量子ネットワーク」が欠かせない。今日のインターネットが情報を0と1のビットで表すのに対し、量子ネットワークは量子ビットという単位で情報を扱い、それを量子状態として運ぶ。だが、量子専用の光ファイバーを新たに敷設するにはコストがかかりすぎるという課題がある。

こうしたなか、都市間に敷設された既存の光ファイバーを使って、大容量の商用通信と量子もつれ光子を同時に伝送することに、このほどノースウェスタン大学の研究チームが成功した。商用通信トラフィックと共存させながら、離れたノード間で量子もつれ光子を伝送した世界初の実証実験だという。

「量子信号は、古典信号(従来型の通信の信号)と比べると本当にごく小さなものです」と、ノースウェスタン大学教授で量子通信が専門のプレム・クマールは説明する。「それはまるで、アリがゾウだらけの道を進んでいくようなものなのです」

クマールらの研究チームは、量子もつれ光子の対をノースウェスタン大学エバンストン・キャンパスにある研究室で生成し、片方を大容量の商用通信が流れる光ファイバーに“相乗り”させるかたちで、24.4km離れたシカゴにある別のキャンパス内の国際通信交換施設「StarLight(スターライト)」へと送信した。

つまり、毎秒800ギガビットのデータチャネル2本(合計毎秒1.6テラビット)を含む大容量通信と、遠隔地点の時刻を同期させるための信号、そして量子もつれ光子という3種類の信号が、1本の光ファイバーの中を一緒に伝わっていったことになる。

量子もつれとは、複数の粒子の量子状態が、距離にかかわらず強く結びついている性質を指す。これを通常の通信と組み合わせることで、物理的に情報を運ぶことなく、遠く離れた場所との間で量子情報をやり取りする「量子テレポーテーション」が可能になると考えられている。

この通信手法は原理的に盗聴が極めて困難で、安全性が高いとされている。一方で、外部の環境変化に極めて敏感で、わずかな光ノイズでも情報を運ぶ光子が埋もれてしまうという弱点もある。

古典通信の強力な信号が光ファイバーの中を伝わる際には、「自発ラマン散乱」と呼ばれる現象によって光ノイズが発生して検出器に余分な光子が入り込み、本物の量子信号を見分けづらくなってしまう。これまでの実験の多くは、この影響を避けるために古典信号のパワーを抑えたり、同期用の信号だけを一緒に伝達したりする条件下で実施されてきた。

今回の実験では、あえて商用システムが出せる最大出力(21.4dBm)まで増幅した広帯域の古典通信と、量子もつれ光子を同じ光ファイバーで同時に伝送し、量子ネットワークが成立するかを検証している。ただし、実際に流したデータは合計毎秒1.6テラビットで、残る帯域はデータを載せない光で埋められていた。この光ファイバーが運んでいたパワーは、その光をすべてデータに置き換えれば最大で毎秒36.8テラビットの古典データを伝送できる水準に相当し、約2,000万本のYouTube動画を同時にストリーミングできる規模だったという。

こうした激しい通信トラフィックから量子もつれ光子を守るために、研究チームは光スペクトルのなかでも比較的空いている波長帯である「O帯(1260〜1360nm)」のうち1290nmに光子を割り当てた。これは1310nmと比べてノイズを約6分の1に抑えられるからだ。

一方、従来型の商用通信は「C帯」と呼ばれる帯域にとどめられた。あわせて、古典通信によるノイズを減らすための特殊なフィルターも追加している。

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