死に至る虐待は「にいに、嫌い」から始まった 草むらで発見の6歳児、共有されぬ危機感
神戸市の草むらで令和5年、スーツケースに入った6歳の男児の遺体が見つかった事件で、傷害致死罪などで起訴された母親(37)ら3姉妹の裁判員裁判が神戸地裁で行われている。事件を巡っては、母親を含む親族が関与する異常性に加え、虐待の可能性を把握しながら一時保護の対応を見送るなどした行政の対応も問題視された。危機感が共有されていれば―。再発防止に向け、自治体や児童相談所は対応を強化した。
3日間連絡せず
「育児を頑張っている母親という印象だった」
19日の初公判。検察側が、穂坂修(なお)ちゃんが通っていた保育園の保育士の陳述書を読み上げると、母親の沙喜被告は時折涙を浮かべていた。
最初に保育士が修ちゃんの異変に気づいたのは5年4月20日。約3週間ぶりに登園した修ちゃんの尻などにあざがあるのを見つけた。翌21日、あざについて尋ねられた修ちゃんは「祖父にたたかれた」などと答えた。だが、保育園が西区役所に通報したのは3日後の同24日だった。
異変はその後も続く。「おなか空いた。家に誰もいない」。5月1日、自宅2階の窓から泣いている修ちゃんを保育士が見かけた。保育士から連絡を受けた区は、児童相談所に「一時保護の可能性がある」との趣旨の連絡を入れた。
翌日以降も、区や児相が家庭に断続的にアプローチしたが、今度は祖母に「母(沙喜被告)と相談中だ」「また電話する」などと告げられた。同18日、児相は対応を終結。その後も区職員が祖母と面会する機会はあったが、修ちゃんや沙喜被告とは連絡が取れなかった。
コミュニケーション不足
6月22日、スーツケースに入れられた修ちゃんが、変わり果てた状態で見つかった。背中一面には打撲痕があった。
神戸地検は6年4月、修ちゃんの背中を鉄パイプで殴ったり踏みつけたりしたなどとする傷害致死と死体遺棄の罪で、同居で叔父の大地被告(34)や沙喜被告ら、きょうだい4人を起訴した。
市設置の第三者委員会が問題視したのは初動対応の甘さだ。報告書によると保育園があざを確認後、区に通告したのは3日後で、「迅速な通告ルールが順守されていなかった」(第三者委)。
一時保護が望まれる期間は4回あった。しかし、関係職員が懸念を抱いても部署内外で議論されることがなかった。区と児相の組織間のコミュニケーションが円滑であれば「生命が失われるという重大事態が防げた可能性がある」とした。
また大地被告が、児童福祉司や区職員を修ちゃんから遠ざけようとする言動や行為がみられた点については「児相が警察連携を具体化し、一時保護に向けて具体的に動くべきであった」などと指弾した。
「俺は神になる」
報告書はこんな言葉で結ばれていた。「危機感が共有され、生かされれば、死を防ぐことができたかもしれない」。事件を教訓に、兵庫県所管の児相は、受理した虐待相談を兵庫県警と即時共有するシステムを導入するなどした。
公判を巡っては、犯行を主導したとみられる大地被告の審理は分離して進められている。大地被告に逆らえない環境下で犯行を回避できる「期待可能性」が3姉妹にあったかなどが争点だ。
検察側の冒頭陳述によると、令和4年12月に姉妹と同居を始めた大地被告が修ちゃんから「にいに、嫌い」と言われたことで、虐待が始まった。手段は次第にエスカレートし、同時に知的障害などがあった3姉妹に「俺は神になる」「警察のトップだ」などと暗示をかけて、修ちゃんへの暴行を指示するようになったとされる。(宮崎秀太)