東京都の税収を地方へ再分配? 「高市課税」は取れるところから取る“狙い撃ち”か 都は「改悪」と猛反発
「東京都の偏在是正措置」や「超富裕層への課税強化」。高市政権で加速しそうな「取れるところから取る」課税方針。背景を専門家に聞いた。
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「都市と地方もお互いに支え合うという基本的考えに立ち、偏在性の小さい地方税体系の構築に向けた具体的な取り組みについて検討を行っていく」
与党が取りまとめ、2025年末に発表された税制改正大綱。この中で明示されたのが、東京都の税収を全国に再分配する「偏在是正措置」だ。具体的には、地方税収が東京都に過度に偏っているとの認識に基づき、特別法人事業税・譲与税や道府県民税の利子割の見直しに加え、東京23区の土地にかかる固定資産税の再配分の仕組みを新たに検討することなどが盛り込まれている。
背景には、東京都に法人税や固定資産税の税源が集中する構造的要因のため、地方自治体間の財源や行政サービスの格差の拡大が挙げられる。とりわけ近年は、都心の地価上昇や企業本社の集中により都の税収が突出し、これを好ましく思わない他道府県が是正を求めてきた経緯もある。
これに、激しく反発しているのが東京都だ。大綱が発表された当日に「都の見解」を発表。根拠とされているデータの実態との乖離などを指摘したうえで、「東京の財源を狙い撃ちにした地方税制度の改悪方針」などと批判し、「断固として反対」を表明した。
今回打ち出された大綱の方針や都の反応をどう受け止めればいいのか。
「東京都は『稼ぎ方』というよりは、『使い方』を問題視されていることに留意したほうがいい」
こう話すのは、一橋大学の佐藤主光教授(財政学・公共経済学)だ。
企業の多くが東京に本社を置き、もともと経済活動が都内に集中していたことに加え、インターネット取引の浸透に伴い地方に支店がなくても成立する新しいビジネスモデルが広がった。東京都の税収が他道府県よりも増加する流れは今後も止まりそうにない。若年層を中心に転入超過が続いていることも相まって、都の税収は25年度予算ベースで6.9兆円と過去最高額に上る。自由に使える財源の超過額は4年連続で増加し、25年度は過去最高の約2兆円に膨らんだ。
ただ、全国の道府県の不満や怒りの矛先が東京都に向かうのは、税収が膨らんでいることではなく、その使い方にあるのではないか、というのだ。
東京都は23年度から18歳以下の子ども1人当たり月額5千円を支給する事業をスタート。24年4月からは全国に先駆け、私立も含むすべての高校での授業料無償化も実施。昨年夏には水道の基本料金を無償にした。こうした潤沢な財源に裏打ちされた独自の施策は都民にとっては「恩恵」だが、とりわけ東京に越境通勤や通学をしている首都圏各県の住民には「格差」に対する鬱屈や不満を誘発する要因にもなっている。
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「都民のために使う」という、まさに「都民ファースト」の小池都政の税収還元策によって起きている、さまざまなハレーションを念頭に置く必要がある、というわけだ。この構図は、超富裕層のキャピタルゲイン(資産売却益)などの課税強化の動きと重なる面がある、と佐藤教授は指摘する。
「超富裕層が株や不動産の資産売却によって得た利益についても、これを私的なレジャーや飲み食いに費やすものであれば、公平の観点からも高い税金をかけたくなるのは当然です。ただこれも、再投資に回す分については日本経済全体にとっての利益とみなすことができます。同様に、東京都の税収も自分たち(都民)の“飲み食い”だけに使うのではなく、日本経済全体の成長に帰する形で使ってもらいたい、という意識が働いているのだと思います」
佐藤教授が東京都に求めるのは、「首都圏」の広域行政の観点からの経済活動へのサポートだ。
「例えば、都が掲げる『国際金融都市・東京』に向けた経済活動は都内だけで完結するわけではありません。埼玉・千葉・神奈川などの隣接県を含む首都圏を一つの経済単位と捉え、このエリアの発展のためのインターネット環境なども含めたインフラ整備を東京都が率先して行う。こうした『投資的』な予算の使い方は、東京都の経済を活性化させるだけでなく、首都圏全体、ひいては日本の成長につながるものとして全国の理解が得られるのではないでしょうか」
同じ首都圏の中でお金を回し、東京の経済を支えている周辺地域にも恩恵を及ぼすのは、東京都や都民にとっても税金の使途として抵抗が少ないはずだ、と佐藤教授は言う。
ただ、日本には地方自治体の財源の不均衡を調整する「地方交付税制度」という再分配機能がある。しかしこれについても、東京都は「見解」の中で問題点を指摘している。
「そもそも、現行の地方交付税制度の下では、各々の自治体の税収が増えたとしても、地方交付税が減少し相殺されることで、自由に使える財源がほとんど増えず、自治体の努力は報われない」
これに対し佐藤教授は、東京都が47都道府県では唯一、国から地方交付税を受け取っていない「不交付団体」である点を踏まえ、地方交付税制度の欠陥をこう指摘する。
「地方交付税制度による財政調整は交付団体の間でのみ行われるため、財政力のある自治体は交付税が少なくなり、財政力の乏しいところは交付税が多く配分されます。この制度の致命的欠陥は、交付団体と不交付団体の間では財政調整が行われないため、東京都との間で再分配機能が働かないことです」
つまり、東京都が自治体間の競争原理を阻害している面を問題視しているのに対し、佐藤教授は「東京都に対する地方の不満」の緩和策として十分機能しない地方交付税制度の欠陥を説いているのだ。
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一方、今回の与党大綱に盛り込まれた「偏在是正措置」の中で、佐藤教授が疑問視するのが、税収をどう再分配するのかという点だ。
「東京都から召し上げた税収を残りの全国の自治体にばらまくのであれば、高市政権が掲げる『強い経済』の実現と矛盾しないか、ということです。仮に、大阪・名古屋・福岡といった成長センターとしての期待が見込める都市に重点配分するのであれば、『日本経済の成長のため』という論理は成り立ちます。しかし、地方創生の枠組みで人口減少が進む地方にも均等にばらまくのであれば、“飲み食いのため”に税金を使う対象が東京都民から地方の住民に変わるだけで再投資とは言えません」
今回、年間所得額が1億円を超えると税負担率が下がる「1億円の壁」の是正に向け、27年から超富裕層への課税を強化する方針も盛り込まれた。追加の税負担を課す年間所得の基準を現行の30億円超から6億円超に引き下げ、対象者への適用税率も22.5%から30%に引き上げる。
東京都にしろ、超富裕層にしろ、高市政権は「取れるところから取る」課税スタンスを貫く方針に見えるが、それは現政権に始まったことではない、と佐藤教授は言う。
「国民の反発が強い消費税に代わって、政府が目を付けたのは社会保険料でした。今回も住民から直接徴税する所得税については『年収の壁』を引き下げる一方で、東京都や法人・企業をターゲットにしています。こうした狙い撃ちは民主主義の中においては起こりやすい現象です」
一方で佐藤教授は、高市政権のこうしたスタンスの背景には、政権基盤の弱さと「霞が関(官僚)と官邸の利害の一致」があるとも指摘する。
「高市政権は少数与党のため、早急に目に見える成果を出さなければいけないと考えています。東京都の偏在是正措置に関しては、連立を組む日本維新の会の影響もあるのかもしれません。維新の地盤は大阪ですから、東京が一人勝ちしている状況は是正したいはずです」
さらにこう続ける。
「東京都の偏在是正措置は総務省が唱えてきたことであり、超富裕層への課税強化は財務省の持論です。いずれも霞が関の官僚が推進したかった政策課題で、官邸との利害は一致しています。格差社会への反発を追い風に、今なら実現可能と考えているはずです」
(AERA編集部・渡辺豪)
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