日本でインドカレー店が激減する?それだけではない深刻な影響。「経営・管理」ビザの要件厳格化、日本で育った子どもへの余波も

日本で事業を営む外国人のための在留資格「経営・管理」の要件厳格化により、様々な影響が予想されている。

要件厳格化では、用意すべき資本金が500万円から3000万円の6倍に大幅に引き上げられ、日本語能力試験(JLPT)で上から2番目の難易度のN2以上の認定などの要件ができた。

経営・管理ビザで飲食店を営む日本各地のタイ人やベトナム人、また日本人にもカレーが人気のインド・ネパール料理店を営むネパール人に大きな影響が及ぶ可能性が高いと見られている。

日本各地のネパール人コミュニティと密接に関わっている専門家は、要件厳格化により発生しうる影響や取られるべき対応について、どのように見ているのか。

ハフポスト日本版は、上智大学総合グローバル学部教授の田中雅子さんに話を聞いた。

──在留資格「経営・管理」の厳格化について、どのような点を問題視されていますか。ネパール人コミュニティからはどのような声が聞かれますか。

要件厳格化の背景にあるのはペーパーカンパニー対策ですが、私が話したネパール料理店の方たちは、真面目に経営してきた人たちの実績や経営実態をモニタリングすることなく、ペーパーカンパニーと同じ線引きで高いハードルを設ける日本政府のやり方は、「非常に不誠実」だと話していました。

「経営・管理」の在留資格では配偶者や子どもを呼び寄せることができるため、家族も連れてきたけど、急に厳格化し「3年以内に要件を満たせ」という、「後出しじゃんけん」のようなやり方に問題を感じています。

また、多くの店が閉店に追い込まれたら、インド・ネパール料理店でコックとして働く調理師の技能ビザを持った人たちにも大きな影響が出てしまいます。

──ご家族がいる方は、子どもたちが日本で生まれ育ったり、物心ついた頃から長い期間、日本で育っているケースも多いですよね。

はい。その問題がとても大きいです。改正された在留資格「経営・管理」の省令が施行された2025年10月の末に、イベント参加のために鹿児島県の鹿屋市を訪れ、その際に地元のネパール料理店の経営者と配偶者、小学生のお子さん2人に会いました。

要件厳格化はやはり彼らにとっては大変大きな打撃なので、料理店を経営する男性も、特に日本語資格の要件について非常に追い詰められた様子でした。

男性はコックとして来日し、ようやく今は経営・管理の在留資格でネパール料理店を経営しています。要件の厳格化に高い日本語能力の資格が加わったことで、地域の日本語教室に通い出したそうです。

私に対しても「3年以内に自分はJLPTのN2に合格できますでしょうか」とおっしゃっていました。

一緒に家族を訪ねたのが地域の日本語教室の日本人の方で、「本当にお父さんはお子さんと一緒にすごく真面目に学習支援教室に通っていて、とにかくN2に合格しないとお店が続けられないとすごく心配している」と話していました。

──N2はJLPTの中でも最難関から2番目のレベルなので、難易度はかなり高いですね。帰国となれば、子どもたちの将来も心配です。

小学生のお子さんは私に「先生、僕はネパールに帰ったら、また小学1年生になるの?」と心配そうに聞いてきました。

私が制作に携わった、日本で暮らす移民の子どもたちの「母語教育」について記録したドキュメンタリー映画(2024年)でも取り上げましたが、日本での生活が長い子どもはネパール語での会話がままならなかったり、読み書きができなかったりします。

──そのため、もし突然ネパールに帰国となれば、学び直しということになるのですね。

要件厳格化により昨年10月の時点でも、子どもたちにまでこのような不安が広がっていました。

今年2月には、中学卒業や公立高校の入試を控えたネパール人の高校生が家族で、出国準備をするための約1カ月間の在留資格「特定活動・出国準備」に切り替えられてしまったという話も聞きました。

今、全体的に在留資格をめぐり急に厳しくなってきているので、これは「ポーズじゃなくて、本当に起きるんだ」と、親も子どもも皆、非常に心配しています。

上智大学の田中雅子教授。NGOなどで計10年以上ネパールで働いた経験があり、帰国後も「滞日ネパール人の情報提供ネットワーク」でネパール人の相談にのるなどの活動も継続している。『厨房で見る夢―在日ネパール人コックと家族の悲哀と希望』の監訳、編著を担当

──日本人からも影響を懸念する声が上がっており、抗議と対応を求めるオンライン署名では1万6千筆以上が集まっています。今後、政府はどのような対応を取るべきでしょうか。

国税庁などと連携すれば、ペーパーカンパニー対策のために経営実態を調べることは可能ですので、急にルールだけを変えるのではなく、経営実態のモニタリングを強化すべきです。

モニタリングしきちんと精査することが可能でありながら、それをきちんとやらずに、書類を提出する側の負担だけが重くなっている状況です。

そのような対応も取らずに、このようにルールだけ変えると、「(外国人を)追い出そうとしてる」というメッセージに受け取られかねない。高市政権はいかに自分たちが早く変化を起こしているかということを、見せたいだけなのではないかと感じます。

今、SNS上などへのネパール語での書き込みを見てると、「最後に日本に裏切られた」という声も多く見られます。 

──急な変更で手のひらを返されたような思いなのですね。

その気持ちはすごく強いようです。特にカレー店のお客さんは日本の方が多いので、地域に受け入れられるようにと、商店街や町内の行事に参加したり、子ども食堂に協力したりしているお店もありました。

日本各地で地震や水害が起こった時には、温かいごはんをすぐに調理できるという特性を活かして、被災者向けにカレーなどの炊き出しをしたりしてきたお店もたくさんあります。

今後も日本で暮らしていきたいと、永住権の申請に向けて、社会保険なども真面目に払い、何のルールも逸脱していない人たちがこれまで積み上げてきた信頼が全て奪われてしまうような状況です。

これを真面目に続ければ日本での永住に繋がると信じて頑張ってきた人と、そうでないペーパーカンパニーなどが精査せずに、このようなルール変更がされるというのが、1番不誠実で不公正な点だと思います。

──飲食店経営者への打撃が問題視されていますが、それ以外の業種でビジネスを営む人にも影響が及びそうです。

はい。ネパール人の場合、ネパール人コミュニティ向けに部屋探しのための不動産仲介、または通訳などのビジネスを営み、「移住インフラ」の基盤になっている会社もあり、影響が出そうです。

加えて、ネパールコミュニティでもう1つ大きな問題となっているのは、「スタートアップビザ」の要件の厳格化です。

留学生の時に、不動産仲介や通訳、旅行会社などでアルバイトをしてきた人は、その経験をもとに卒業後、自分の会社を立ち上げる人もいます。その人たちにとっては、今回の改正は大きな打撃です。

──スタートアップビザの要件も、資本金が500万円だったところ、「事業の用に供される財産の総額が3000万円以上となる見込みがあること」と厳格化されました。

留学生が新規でビジネスを立ち上げるのに、いきなり3000万を用意できるということはほぼ考えられず、希望を失ってる留学生もいます。中には、経営学修士を持っている人たちもいます。

卒業後に就職せず、自分でビジネスやろうと考えていた留学生にも大きな影響が出ます。

日本政府はスタートアップビザでの外国人起業活動促進事業に力を入れていたようですが、今回の要件変更で、日本に対する印象にダメージもあるでしょうし、新しく参入する人も少なくなるのではないでしょうか。

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