「夜の太陽エネルギー」、宇宙に放射される赤外線で発電 人工衛星に活用へ
ニューサウスウェールズ大学の研究者が赤外線カメラで撮影した写真。夜のシドニー・オペラハウスとシドニー・ハーバーブリッジが熱を発する様子が写っている/UNSW Sydney
(CNN) 水面をきらめかせ、砂浜に降り注ぐ太陽の光は、オーストラリア名物のひとつだ。同国の最大都市シドニーでは、太陽の力でエネルギーを生み出す研究が進められている。ただし、だれもが思い浮かべる方法とは違う。
ニューサウスウェールズ大学(UNSW)の博士研究員、ジェイミー・ハリソン氏は「光を吸収するのでなく、放出することによって発電する装置を開発している」と話す。「太陽光パネルの裏返しのようなものだ」
日中に地表に吸収された太陽のエネルギーは、夜になると赤外線として放出される。UNSWのチームが開発しているのは、赤外線の放射から電力を生成する熱放射ダイオードという半導体だ。
チームを率いるネッド・イーキンズドークス教授は、「夜の地球を赤外線カメラで撮れば光って見える」と説明する。「これは、地球が冷たい宇宙に熱を放射しているということだ」
熱放射ダイオードの開発自体は、UNSWのチームが初めてではない。だが同チームは2022年、米ハーバード、スタンフォード両大学での研究を基に、こうした装置で発電ができることを初めて直接実証した。
今のところ、発電量は従来の太陽光パネルの約10万分の1と、ごくわずかだ。
イーキンズドークス氏は「自分の体の熱でデジタル腕時計を動かせる程度の電力だ」と述べ、発電できる量は熱源と周囲の環境の温度差で決まると指摘した。
同氏によると、地球上では最適な効率で稼働したとしても、発電量は1平方メートル当たり1ワットにすぎないという。
大気中の水蒸気や二酸化炭素(CO2)のような気体も太陽の光を吸収し、地表と夜空の温度差が小さくなってしまうからだ。
だがこの技術の本当の可能性は宇宙にあると、イーキンズドークス氏は考える。大気のない宇宙空間なら、ダイオードの動作環境はずっと低温になる。
イーキンズドークス氏によれば、この技術は人工衛星への電力供給に活用できる。人工衛星の電力は通常、太陽光パネルから供給されるが、同氏によると、直接日が当たらない時間帯などが弱点になっている。
「特に低軌道では、45分間日光を浴びると、続く45分間は影に入る」と、同氏は説明する。「当然ながら、太陽光パネルが稼働するのは太陽が出ている間だけ。そこで電力の一部を補うというチャンスが生まれる」
現在、影に入った人工衛星の電力は、日が当たる間に充電された蓄電池でまかなわれている。
同氏によると、宇宙技術の分野では現在、低軌道衛星を小型化しつつ、機能は維持しようとする動きがある。熱放射ダイオードは軽量なうえに、機体表面の空きぺースで発電できる。
深宇宙での活躍に期待
ただし米航空宇宙局(NASA)ジョン・グレン研究センターで熱放射技術を研究するジェフリー・ランディス氏によると、この技術が低軌道衛星に使われるためには、「極めて低コスト」でできるならという条件がつく。
「蓄電池は安い。熱放射ダイオードが検討されたとしても、日陰の45分間を蓄電池でまかなうより高くつくことになるだろう」
これに対してランディス氏の研究は、深宇宙へ向かう人工衛星や、月面上の太陽光がまったく当たらない領域を走る探査車への導入に焦点を合わせている。
こうしたミッションには現在、プルトニウムのような放射性同位体の自然崩壊で発生する熱を電気に変換する特殊な熱電発電機が使われている。
ランディス氏の同僚、スティーブン・ポリー氏によれば、この機器は45キロ前後と重く、体積も200リットルほどある。さらに非常に高価なうえ、プルトニウムは生産が難しく、コストもかかる希少な資源だ。
熱放射ダイオードにも熱源としてプルトニウムが必要になる見通しだが、従来の熱電発電機に比べればずっとシンプルで、可動部品も少ないという。
熱放射ダイオードは現在、暗視装置に使われるのと同じ半導体材料で作られている。ただランディス氏によれば、放射性同位体の崩壊で発生する大量の熱に耐えられるかどうか、さらに研究を進める必要がある。
放射性同位体を熱源に使う熱電発電機は、セ氏540~1000度で動作している。
「この種の半導体がそれほど高い温度で使われることは今まで想定されていなかったため、耐用期間のことはあまりよく分かっていない。宇宙飛行となると、半導体は10年か20年、あるいはそれ以上に長持ちしてほしい」と、ランディス氏は語る。
ポリー氏は、今後も研究が順調に進めば、放射性同位体を熱源とする熱放射発電システムが5~10年で確実に実現するだろうと述べた。
一方UNSWでは、イーキンズドークス氏らのチームが米空軍の資金提供を受け、低軌道人工衛星で太陽光だけを熱源とした場合のダイオードの効率化や、発電量の拡大に取り組んでいる。
同チームはさらに、新たな材料の採用も検討している。イーキンズドークス氏によると、従来の太陽光パネルと同じような材料を使うことで、製造工程を抱き合わせにすることが可能になり、熱放射ダイオードが商品化された時に生産水準を素早く上げられるようになるという。同氏は、そのタイミングが今後5年以内に来ると予想している。