日本製鉄のUSスチール買収計画、「黄金株」構想浮上-QuickTake

米政府が日本製鉄によるUSスチール買収を承認する条件として、いわゆる「黄金株」、またはそれに類する権限を得る可能性がある。事情に詳しい関係者がブルームバーグ・ニュースに明らかにした。

  この140億ドル(約2兆円)規模の買収計画を巡り、米政府が実質的にUSスチールの一部決定に対する拒否権を持ち得るという。詳細は今も調整中で、日本製鉄が2023年12月に買収計画を発表して以後、停滞しているこの案件に新たな展開が加わった。

  今年1月、バイデン大統領(当時)は国家安全保障上の懸念から買収を阻止したが、同月20日に就任したトランプ大統領は4月にこの取引の再検討を指示。

  大統領選の選挙活動中、トランプ氏は外国企業によるUSスチール買収に反対の立場を示していたが、今年5月には日本製鉄との「パートナーシップ」が米国で140億ドルの投資を伴って進められるとし、容認する姿勢を自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で示した。

  USスチールの本社があるペンシルベニア州選出のデービッド・マコーミック上院議員は、政府の関与を「黄金株」と表現している。ただし、政府が実際に株式を保有する形となるか、それともより弱い介入権限にとどまるかは現時点で不透明だ。

  黄金株は世界の一部地域では一般的だが、米国では民間企業や外国からの投資に対して伝統的に関与を控えてきたため、極めて異例だ。

黄金株とは

  黄金株とは特殊な種類の株式で、通常は政府機関や少数株主に与えられ、企業の合併や大規模な資産売却、所有構造の変更などの重要事項において他の株主より強い議決権を持つ。

   政府が経営難の企業を救済する際に取得することもあれば、経済・公共政策・国家安全保障上の戦略的重要性を持つ企業に対して保有するケースもある。

  国営企業が民営化された後も一定の監視権限を保持し、外資や敵対的買収から国家的な中核企業を守る手段とされる。

USスチールを巡る黄金株構想の現状は

  日本製鉄のUSスチール買収は現時点でトランプ政権による正式承認を得ておらず、買収が当初想定されていた1株55ドルの全額現金による完全買収になるかどうかなど最終的な所有構造は不明だ。

  トランプ氏は5月25日、「これは投資であり、部分的な所有だが、米国によってコントロールされることになる」と記者団に語った

  米政府は日本製鉄と連携するUSスチールに対して、経営に関与する何らかの案を模索しているもようだが、伝統的な黄金株のような持ち株形式となるかは、両社からの確認が取れていない。

  マコーミック議員は、国家安全保障協定の一環として政府に黄金株が与えられる方向だと述べた。このような取り決めは通常、対米外国投資委員会(CFIUS)の勧告条件に対応するために定められるもので、「軽減合意(mitigation agreement)」とも呼ばれる。

  今回、黄金株の権限がこうした取り決めに盛り込まれる可能性がある。CFIUSは外国企業による米企業買収案件を審査する。

  同議員はCNBCに対し、「米国のCEO(最高経営責任者)、米国人が過半数を占める取締役会、そして黄金株が導入されるだろう。これにより、米政府の承認を得なければ取締役の多くを任命できず、生産水準の引き下げなどもできないよう担保できる」と語った。

米政府が黄金株を持つ他の企業は

  米政府が上場企業の株式を保有することは極めてまれで、例外は2008年の金融危機時に政府支援を受けたゼネラル・モーターズ(GM)とクライスラー(現ステランティス・ノースアメリカ)だ。両社は支援と引き換えに政府に株式を提供し、政府はその株式を後に売却した。

黄金株が一般的な国は

  英国では政府が1980年代の民営化推進後、ロンドン証券取引所に上場する防衛企業BAEシステムズロールス・ロイス・ホールディングスなど一部企業に対し黄金株を保有してきた経緯がある。

  ブラジル政府も航空機メーカーのエンブラエルや鉱業会社ヴァーレなどについて、民営化後もある程度の支配権を維持する目的で保有している。

  中国では、黄金株が主にインターネット業界で活用されている。アリババグループやテンセント・ホールディングス(騰訊)、動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」を運営する字節跳動(バイトダンス)などの大手テクノロジー企業に対し、政府関連機関が一般的に1%程度の株式を保持。

  保有比率は小さいが、当局が長期的に業界に影響力を持つ手段とされる。権限行使の具体的な方法は公表されていないが、データへのアクセスといった可能性が指摘されている。

なぜ黄金株は物議を醸すのか

  黄金株の活用には以前から批判もある。特定の主体に過度な権限を集中させることで、企業買収を阻害し、資本の自由な流れを妨げると論じる識者もいる。

  欧州連合(EU)はそうした観点から黄金株に否定的で、2000年代前半にはEU司法裁判所が黄金株を巡る幾つかの取り決めを違法と判断した。スペイン政府による石油会社レプソルYPFや電力会社エンデサに関する保有がその代表例だ。

原題:Why Trump’s US Steel ‘Golden Share’ May Lack Luster: QuickTake (抜粋)

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