アングル:既視感漂う「夏の円高」、再来警戒も投機の持ち高は逆方向

 外為市場で「既視感」の強い円高進行が話題となっている。写真は日本円と米ドル紙幣。2023年、ボスニア・ヘルツェゴビナのゼニカ市3月撮影(2025年 ロイター/Dado Ruvic)

[東京 4日 ロイター] - 外為市場で「既視感」の強い円高進行が話題となっている。7月米雇用統計の悪化をきっかけにドル安/円高が急速に進む展開は、昨年8月とほぼ同じ出足であるためだ。月間で10円超円高へ振れた昨年と同様となるかは今後の指標やトランプ米大統領の動向次第だが、昨年と異なるポイントとして投機筋の円買い余力が限られていることが意識されている。

<「5日間で13円の円高」の記憶>

「昨年と同じじゃないか」──。米労働省が1日に発表した7月雇用統計で非農業部門雇用者数が7万3000人増と事前予想の11万人に届かず、ドルが3月下旬以来の150円後半から4円弱、一気にドル安/円高に振れた動きに、市場では昨年の8月相場との奇妙な類似に驚きの声が上がっている。

昨年8月、第1金曜日だった2日に発表された7月雇用統計は、雇用者数が11万人増と予想の17万人増を大きく下回り、失業率も予想以上に悪化した。ドルはその日に146円台へ3円超下落した。多くの参加者によみがえったのは、その際の記憶だ。

昨夏の外為市場では、7月下旬から8月上旬にかけての5営業日で155円台から141円台まで、およそ13.5円の大幅なドル安/円高が進行した。雇用統計の下振れと日銀の利上げ、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の利下げ示唆発言、日経平均の過去最大の下げ、世界的な株安と、複数の手掛かりが重なったことが要因だった。

<米労働市場、実態は雇用減の衝撃>

しかも今年は、雇用統計が示した労働市場の減速度合いが「昨年より深刻かもしれない」(みずほ銀行チーフマーケットエコノミストの唐鎌大輔氏)とみられることが、市場の動揺を増幅させている。

参加者の関心を集めたのは、過去2カ月分の雇用者数の下方修正幅。合計25万8000人の引き下げとなり、この3カ月間の雇用者数は月平均で3.5万人しか増えていなかったことになった。新型コロナが広がり、世界経済が活動停止に追い込まれた2020年夏以来の低水準だ もっと見る

少ない雇用増が教育・医療部門に偏っていることも、参加者を不安に陥れた。トランプ大統領が打ち出した関税政策の影響を受けづらいとされる同部門の雇用者数を除くと、この3カ月の平均は3.2万人の減少という衝撃的な結果となる。

「改定が確かであれば、多くの投資家がこれまで誤ったデータを基に運用を行っていたことになる」(りそなホールディングスのシニアストラテジスト、井口慶一氏)。急速なドル安の背景には、こうした参加者が相次ぎ運用方針の変更を迫られるのではないか、との懸念がドル売りを加速させた面があったという。

<昨夏と異なる投機の円買い余地>

もともと雇用統計は振れ幅の大きな経済指標として知られており、単月の結果のみで景気見通しを決め打ちするのは難しい、との見方が市場では定石だ。今回の結果には多くの参加者が驚きを隠さなかったが、昨夏と同様の展開となるかは、今後の経済指標で急速な雇用減や景気失速が本物かを見極めたいとする声が大勢を占める。

同時に市場では、昨夏との相違点として、一夜で巨額マネーを動かす投機筋のポジション(持ち高)の傾きに注目する声が上がっている。

米商品先物取引委員会(CFTC)のIMM通貨先物非商業部門の取り組み状況によると、最新の7月29日時点で、投機筋の円保有高は9万枚弱の買い越しだった。ピークの4月から半減したとはいえ、歴史的には依然として過去に例のない高水準の買い姿勢を示したままだ。

一方、昨年夏は低金利の円を売り高金利のドルをなどを保有することで金利差収入を狙う円キャリトレードが全盛で、IMMのデータも投機筋が過去最大級の円売りに動いていたことを示していた。当時は今に比べると、はるかに大規模な円買いが発生しやすい土壌があった。

昨夏は円売りにかけていた投機ポジションは、今年は大幅な円高に傾いている。「昨夏に比べて、円高圧力がかかりにくい」(りそな銀の井口氏)のが実情だという。

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