[週刊エンタメ]STORY・市川團子 歌舞伎俳優<1>「あんた、僕よりいい役者になるよ」近いようで遠かった 立てるとは思わなかった 8歳の初舞台…祖父・猿翁は言った
スーパー歌舞伎「もののけ姫」が3日、東京・東銀座の新橋演舞場で開幕する。自然と人間の衝突、共生への願いを描いた宮崎駿監督のアニメーション映画を、壮大なスケールをそのままに歌舞伎として上演する作品で、22歳の花形俳優が、主人公の若者アシタカと、生死をつかさどるシシ神の2役を演じる。
田中秀敏撮影6月に行われた製作発表記者会見では、「明日を生きる活力となる舞台にできるよう、誠心誠意、向かっていきたいと思っています」と宣言した。
「スーパー歌舞伎」は、歌舞伎界の風雲児と呼ばれた祖父・市川 猿翁(えんおう) が、現代の人にも歌舞伎の魅力を伝えたいという精神で手がけた新作のこと。今作は、2023年に猿翁が死去してから、初めて作られるスーパー歌舞伎だ。「歌舞伎はデフォルメの演劇。もののけ姫のような壮大な世界観の作品に向いているんです」
第1作「ヤマトタケル」初演から40年。3S(ストーリー、スピード、スペクタクル)を重視し、古事記や三国志演義を題材に、宙乗りや早替わりなどを取り入れた。ただ今回は、祖父が確立したスーパー歌舞伎と、不朽の名作アニメの両方を冠した注目作だ。「正直、怖さもあります」とも。だが、その不安さえも、活力にしてしまうのがこの人の魅力でもある。「皆さんの中に原作のイメージがばっちり残っている。難しさはありますが、良い化学反応を起こすチャンスでもあると思っています」
團子がふんするアシタカ(松竹提供)アシタカは、村を襲うタタリ神を倒したが、右腕にのろいを受け、村を追われる。のろいを断つ道を探すため、シシ神の森を目指す中、山犬に育てられた少女サン(中村 壱太郎(かずたろう) )と出会う。そして、エボシ御前(中村時蔵)が率いるタタラ場で、鉄を作るために森を破壊してシシ神の首を狙う人間と、森を守る神々との戦いに巻き込まれていく。
04年生まれの青年にとって、1997年公開の「もののけ姫」は、テレビの金曜ロードショーで見てきた作品だ。子どもの頃には少し難しさを覚えた物語も、今見ると、新しい発見があるという。「アシタカ、サン、エボシ御前、三者三様の正義がある。他人を傷つけたいわけではなく、自分の正義を貫いた時にすれ違いが生まれてしまう。正しさってなんだろうと考えるきっかけになると思います」。語り口の中に、確かな強さがのぞく。
「アシタカは寡黙な分、一つひとつの言動が重たいんです」。だからこそ、アシタカの言葉や行動の真意を丁寧に読み解いた。アシタカは自然と人間が争わずに済む道を探すが、森は無残に破壊される。「どんなに手を尽くしても、変えられなかった運命だったと思う。ただ、アシタカが奔走した姿は人々の心に残っている。アシタカの行動が、未来を大きく変えていくのではないか」。そんなふうに思いをはせる。
物語の舞台のモデルになったとされる鹿児島県の屋久島に足を運び、絶景を目に焼き付けた。猿翁は自身の祖父から「良いものを見なさい。たくさん感動しなさい」とたびたび言われたという。その言葉を、一門の弟子たちへ伝えていた。「実際に屋久島で岩の上から見た高さの感じや、奥へ道が延びていく光景は、舞台の上でも生かせるようにしたい」
初舞台は8歳の時。映像作品で鮮烈な印象を残してきた父の香川照之は、長らく猿翁と疎遠だったが、2012年、父は市川中車、自身は團子として、同時に歌舞伎界へ入った。
その前に、父から歌舞伎をやりたいかと聞かれ、「やりたい」と答えた。祖父と同じことができるならという一心だった。祖父が主人公の 狐忠信(きつねただのぶ) を勤める「義経千本桜 川連法眼館(かわつらほうげんやかた) (通称・ 四(し) の 切(きり) )」のビデオを自宅のテレビで見て、クライマックスの宙乗りにさしかかると、母親に体を抱き上げてもらってまねていた。「家でまねをするもので、舞台に立てるとは思っていなかった。今思えば、不思議な感覚ですね」
近いようで遠かった歌舞伎の世界。初めて演じたのはスーパー歌舞伎「ヤマトタケル」の主人公の息子ワカタケル。初日はうまくいかなかったせりふの抑揚も、翌日には修正してみせた。カーテンコールに姿を見せた祖父をじっと見つめていた。祖父から楽屋でかけられた言葉がある。「あんた、僕よりいい役者になるよ」(武田実沙子)
■市川團子の歩み
2004年1月16日生まれ
祖父は市川猿翁、祖母は浜 木綿子(ゆうこ) 、父は市川中車(香川照之)
12年 「ヤマトタケル」で五代目市川團子を名乗り、初舞台
20年 「連獅子」で 仔獅子(こじし) の精を勤める
24年 「ヤマトタケル」で主演
25年 歌舞伎座で「義経千本桜」の狐忠信を勤める
26年 NHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」に出演