「50歳までに半数以上」検事の高い離職率、イメージ悪化が懸念材料に 人材確保に暗雲も

新任検事の辞令交付式で法相の訓示を代読する高村正大法務副大臣=4月7日、法務省

新年度を迎え、街中には真新しいスーツ姿の若者が目立つようになった。「若手の離職をどう防ぐか」はどの民間企業にとっても悩みのタネだが、官公庁では離職率が極めて低い。公務員は「安定志向」の代名詞でもあり、当然といえば当然だが、弁護士に転身するケースが昔から多かった検察官は例外だ。金銭面が大きな理由とされてきたが、最近は「ヤメ検」となる理由も、それだけではないようで…。

その差は歴然

厚生労働省の雇用動向調査結果によると、一般企業(常用労働者)の離職率は、令和元年が15・6%▽2年14・2%▽3年13・9%▽4年15・0%▽5年15・4%-となっている。一方、総務省の調査などによると、公務員の離職率は概ね1~2%程度。民間と比べれば、その差は歴然だ。

公務員の待遇は法律や条例で決められている。短期間に大幅な昇給は見込めない反面、景気の影響を受けやすい民間企業と違い、倒産などによる失業の恐れはまずない。

厚労省関係者は「民間では大卒の場合、就職後3年以内に3割が辞めるといわれているが、公務員は20代でも2~3%と、低さが際立つ。やはり、長く安定して勤められることが最も大きな理由だろう」と語る。

「転職」は構造的

これに対し、公務員全体の中で離職率が突出して高いとされるのが検察官だ。法務・検察OBは「検事として任官してから15年以内、つまり40歳までに30%ほどが離職し、50歳までに半数以上が、現場を去っている」と打ち明ける。

検事総長や検事正など、検察官の首脳ポストは限られている。ある程度のところで「組織内での自分」に見切りをつけて弁護士などに転身するケースが一般的とされてきた。

全員が司法試験に合格した法曹資格を持つ「エリート」である検事も、あくまで公務員。激務に比して、金銭的には弁護士になった方が有利とされている。離職率の高さはいわば、構造的なものであるともいえそうだ。

再審請求、取り調べ問題が…

ただ最近、こうした検事の離職の高止まりが、内部では懸念材料となっているという。ある法務省幹部は「問題は、転職を肯定的に捉える時代の流れや、『弁護士という選択肢』が常に用意されていることではない」と打ち明ける。

最も危惧されているのは、検察の「パブリックイメージの悪化」だ。平成22年に発覚した大阪地検特捜部の証拠改竄(かいざん)事件に始まり、近年は検察が批判される場面が多くなっている。

たとえば、昭和41年に静岡県で一家4人が殺害された事件を巡り死刑が確定した袴田巌さん(89)の再審請求。平成26年に静岡地裁が再審開始決定を出し、袴田さんが47年ぶりに釈放されると、当時の捜査のずさんさとともに、再審を巡る検察側の証拠開示の問題点などが指摘された。

袴田さんの再審無罪判決が確定したのは、昨年10月。この間、検察側が再審公判で有罪主張をしたことなども批判が集まった。

加えて近年では、検事の不適切な取り調べを巡る問題も表面化している。大阪地検特捜部の検事が「検察なめんなよ」と威迫したり、東京地検特捜部の検事が不起訴をほのめかす誘導的な取り調べをしたりしていた不祥事は、記憶に新しい。

若い世代に広がる「悪評」

「袴田事件のような冤罪(えんざい)を作り出す検察官。不適切な取り調べを繰り返す特捜検事。そんな悪いイメージが、SNS(交流サイト)の発信力も手伝って急速に広がり、検察にネガティブな印象を持つ人が若い世代を中心に増えてきている」

同幹部は、若手検事の間に厭世(えんせい)ムードが生まれているとの見方を示しつつ、「取り調べの未熟さや警察の捜査に対するチェックの甘さなど、(袴田事件の)再審無罪の原因が私たち以上の世代の不手際にあるなら、じくじたる思いだ。当時を知らない一線の検事が、批判の矢面に立たされている現状は忍びない」と苦脳する。

法務省によると、検察官の採用(任官)数は平成19年度の113人をピークに微減し、毎年70~80人前後を維持。今月7日には、司法修習を終えた新任検事82人の辞令交付式が行われた。

警察とともに治安の両輪を担う検察は、人員・質ともに一定レベルを維持する必要がある。いかに若く優秀な人材を確保し、育てるかは、いつの時代も最重要課題だ。

「人手不足は現在、さまざまな職場が抱える大きな問題だが、検事の仕事はAI(人工知能)に代行できるようなものではない」。同幹部は、危機感を募らせる。

逆風続きの中で、優秀な若手人材をどう確保するのか。模索は続く。(大島真生)

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