富士山噴火のXデー「前兆で数時間前にはわかる」と専門家 「溶岩流噴火」「爆発的噴火」避難の心得とは
富士山は前回の「宝永噴火」(1707年)以来、300年以上、山の地下にマグマが溜まり続けている。専門家は「いつ噴火してもおかしくない状態」と言う。
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最短で数時間後に噴火
「もしも今、火山性地震の増加などの兆候がとらえられれば、富士山は最短で数時間後に噴火する可能性があります」
山梨県富士山科学研究所研究部長を務める吉本充宏さんは、そう語る。
実際、富士山と似た性質を持つ火山である伊豆諸島の三宅島(1983年)と大島(86年)は、火山性地震の発生から約2時間後に噴火した。
「富士山でも同様のことが起こり得ます」(吉本さん、以下同)
いきなり噴火することはない
富士山の地下20キロ以上にあると推定されるマグマが上昇し、地表に達すると、噴火が発生する。政府機関から情報がないまま、突然噴火する可能性はあるのだろうか。
「マグマは岩盤を徐々に破壊しながら上がってくるので、噴火までにはある程度時間がかかります。その間に火山性地震、低周波地震、地殻変動などが起こるでしょう。何の前兆現象もとらえられず、いきなり噴火することはないと考えます」
富士山は有史以来、約180回も噴火を繰り返してきた。そのうち、特に規模が大きかったのは「貞観(じょうがん)噴火」(864~66年)と「宝永噴火」(1707年)だ。
貞観噴火では2年間にわたり、大量の溶岩を噴き出した。溶岩流はJR山手線の内側の半分にあたる約30平方キロを埋め尽くし、現在の青木ケ原樹海の基盤になった。
宝永噴火は16日間の断続的な爆発的噴火で、多量の黒い軽石(スコリア)や火山灰を噴出した。横浜で約10センチ、江戸(東京)で約2~5センチの降灰があった。
「溶岩流噴火」か「爆発的噴火」か
つまり、富士山では全くタイプが異なる「溶岩流噴火」「爆発的噴火」が起こりうるということだ。
もしも富士山の噴火が目前に迫ったら、噴火の影響範囲や避難のタイミングが異なるため、どちらのタイプの噴火なのかを判定する必要がある。しかし、「すぐに見極めるのは非常に難しい」のが現状だという。
「噴煙が1万メートルほどまで上ったことが確認されれば、気象庁は宝永噴火と同様な爆発的噴火であろうと、見解を出すと思います」
噴火が発生した場合、迅速に火口の位置を特定することが重要だという。火口の位置を、溶岩の流れを精密にシミュレーションした「溶岩流ドリルマップ」に当てはめることで、避難が必要な地域が判明するからだ。
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溶岩流ドリルマップは、山梨、静岡、神奈川の3県などでつくる富士山火山防災対策協議会が作成した。これに基づく避難計画では、溶岩流が到達する地域の住民は、「徒歩で避難する」ことが原則とされている。いっせいに車で避難すると渋滞が発生し、避難が滞る恐れがあるが、徒歩であれば確実に避難できるからだ。
「徒歩で避難するといっても、むやみに遠くへ逃げる必要はありません。溶岩流の流れに直交する方向へ数百メートル、遠くても1キロほど離れた一時的な避難場所まで歩くだけです」
高齢者や要介護者については優先的に車を使うことで、確実に避難させるという。
山頂の東側から最大規模の噴火となった場合、人口18万人の神奈川県小田原市の市街地に溶岩流が到達する可能性がある。
「その場合でも、溶岩流が到達するのには2週間以上かかる。避難する時間的な余裕は十分にあります」
大きな課題は、悪天時の火口の位置の特定だ。晴天であれば、火口の位置は昼夜を問わず容易につかめる。しかし、見通しのきかない雨天や降雪時に噴火すれば、火口の位置は大まかにしかわからない。
「富士山が雲で覆われていれば、衛星を使っても火口の位置はつかめない。どこに溶岩が流れ下るのか、正確にわからないため、より多くの住民を避難させる必要性が出てきます」
火山灰で建物が倒壊する恐れ
一方、爆発的噴火は軽石や火山灰を広範囲に降らせる。富士山周辺では、軽石や火山灰の重みで、木造家屋、特に旧耐震基準で建てられた建物が倒壊する恐れがある。
2025年春、内閣府の「首都圏における広域降灰対策検討会」は、宝永噴火を参考に避難行動の指針に関する報告書をまとめた。
降灰量は噴煙の到達する高度や上空の風向きによって大きく変わるが、報告書は噴火15日目に神奈川県相模原市で30センチ以上の降灰もありうるとしている。その場合、木造家屋から堅牢な建物への避難をすすめている。
「しかし、目安となる『30センチ』の降灰量で、どの程度の危険性が生じるのか、まだ誰も検証していないのです」
宝永噴火では大量のスコリアや火山灰がふもとの集落に降り注ぎ、当時の家々を埋めたことがわかっている。近年、吉本さんらは集落の発掘調査を静岡県の御殿場市や小山町で行ってきた。
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「噴火からの時間経過で、どのように家屋が倒壊したかを調査する。さらに、実際の旧耐震の木造家屋に火山灰を載せて、柱にどのくらいの負荷がかかるか、などを計測する。これらを分析することで、どのタイミングで自宅から避難すべきか、今後の避難計画に反映していきたいと思います」
都心でもライフラインに影響
報告書は都心部でも3センチ以上の降灰を予測している。要介護者らには降灰地域外への避難を呼びかけるが、他の住民は自宅での屋内避難が原則となる。
「都心部では、家屋の倒壊は想定されていませんが、電気、水道、交通などのライフインフラが深刻な影響を受けるでしょう」
降灰によって、電力が不足したり、停電が発生したりする恐れがある。火山灰が火力発電所の吸気フィルターを詰まらせると、稼働率が落ちるからだ。火山灰混じりの雨が降り、送電設備に付着すると、最悪、送電がストップする。
水源の川や浄水場に火山灰が降ると、灰に含まれる火山ガスの成分が水に溶け出す。水質が基準値以上に悪化すれば、飲料水を供給できなくなる。
家庭の「備蓄」が重要に
交通網への影響も深刻だ。レールに火山灰が0.5ミリ積もると鉄道は運行を停止する。
「地上から取り込んでいる空気に火山灰が混じり、地下鉄も止まる可能性があります」
スリップの危険性が上がるため、車の走行速度は低下し、物流も混乱する。水や食料は入手困難になる。
「噴火が始まれば、いつ収まるのか、誰にもわかりません。大切なのは、普段から備えておくことです」
現在、首都直下地震に備えて、1週間分以上の備蓄が推奨されている。それは、そのまま富士山噴火への備えになるという。
火山噴火のにせ動画に注意
吉本さんが、「気をつけてほしい」と訴えるのは、誤情報やフェイクニュースだ。
たとえば、今年2月ごろ、ギリシャ有数の観光地サントリーニ島で火山が噴火したという触れ込みで、象徴的な白壁に青い屋根の建物などを背景に逃げ惑う人々の動画がSNSで広まった。ユーロニュースによると、「AIによって生成された動画とみられる」という。現代ならではの悩みといえるだろう。
富士山が噴火した際は、オンライン上に跋扈(ばっこ)する発信元が不確かな情報を鵜呑みにせず、「気象庁などからの火山情報を基に行動してほしい」と、吉本さんは言う。
噴火をむやみに恐れるのではなく、正しい知識を得たうえで、Xデーに備えたい。
(AERA編集部・米倉昭仁)
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