米国で流行する寄生虫感染症の集団感染、起点は人間の排泄物 汚染経路は過去一度も特定できず
大半の専門家は、サイクロスポラに汚染された水が寄生虫を農産物に付着させる媒介物だと考えている/Anna Mardo/Moment RF/Getty Images
(CNN) 米国各地で激しい下痢を引き起こす寄生虫感染症「サイクロスポラ症」の症例が増え続けるなか、保健当局者はこの寄生虫をめぐる長年の疑問に頭を悩ませている。いったい、どうやって人の便が食品に混入しているのか。
サイクロスポラをめぐる恐ろしい事実は、その感染源が人間だけだということだ。この寄生虫はこれまで、人間の便からしか見つかっていない。従って、食品や水に含まれているとすれば、「感染源は人間だ」。米食品医薬品局(FDA)の食品安全局長を最近退任したマーク・ムーアマン氏はそう語った。
そして、サイクロスポラにはもう一つ、不安な要素がある。調査当局は、集団感染の原因を断定したことが一度もないのだ。
農産物の栽培・加工現場の近くにサイクロスポラが存在していたことを強く示唆する証拠が見つかった事例は複数ある。しかし、そもそも便がどのように農業システムに入り込んでいるのか特定されたことはない。
この疑問は切迫感を増している。米疾病対策センター(CDC)によると、米国ではサイクロスポラの感染症例数が過去最多となり、41州で感染が確認または疑われる症例は計1万1500件を超えた。
これらが海外旅行ではなく米国内で感染した症例である点でも今年の状況は異例だ。
「通常は年間2000~4000件にとどまるため、今回はかなり大幅な増加だ」と、フロリダ大学で食品安全を専門とするキース・シュナイダー教授は語った。さらに通常であれば、約5件に1件は海外旅行中の感染だ。
「決定的証拠」を求めて
サイクロスポラ集団感染の調査は多くの場合、いわば確かな手掛かりが得られないまま終わることが多い。
その大きな理由は、寄生虫そのものにある。汚染された食品や水を摂取しても、すぐに発症するわけではない。腹部のけいれん、吐き気、水様性の下痢、膨満感が始まるまでに、最長2週間かかることがある。症状が治まらないことに気付き、医療機関を受診するころには、感染源への暴露から3週間~1カ月が経過している場合がある。
感染を確認するための便検体の検査にも時間がかかる。検査後、症例が地域の保健当局に報告され、当局はさらされた可能性のあるものを本人から聞き取らなければならない。
多くの人は、その日の朝食が何だったかさえ思い出すのに苦労する。1カ月前に食べた可能性のあるものなどなおさらだ。そのため担当者は、店舗の会員カードの電子記録や銀行の利用明細を取り寄せて状況を明らかにすることが多い。さらに共通の感染機会を探るにはそうした全データを分析する必要がある。
中西部9州で今夏発生している最大の集団感染はメキシコ産の玉レタスとの関連が最も疑われているが、ほかの複数の集団では今も感染源の候補は見つかっていない。
「最も疑わしいのは水」
検査で環境中からサイクロスポラの寄生虫が見つかることはまれだ。ただし2020年にフレッシュ・エクスプレスの袋入りサラダキットの調査が行われた際には発見された。このサラダキットは、その夏に14州で発生した700件超のサイクロスポラ症との関連が指摘されていた。
多くの食品安全の専門家は、この検出結果が、集団感染源の特定に最も近づいた事例だとみている。
FDAでこの調査を指揮したムーアマン氏によると、「用水路の水からサイクロスポラの病原体を検出した」という。
フレッシュ・エクスプレスのサラダキットには玉レタス、ニンジン、赤キャベツが入っており、これらを栽培した複数の農場が調査対象となった。最終的にFDAは、サラダミックス用の赤キャベツを栽培していたフロリダ州の農場で全面的な環境評価を実施。農場が灌漑(かんがい)に使っていた用水路から採取した2点の試料でサイクロスポラが確認された。
しかし、サイクロスポラの検査は複雑で、「この寄生虫の遺伝子型判別法はまだ発展途上にあるため、用水路で検出されたサイクロスポラが集団感染の原因であると断定はできていない」と当時のFDA担当者は記している。
一方でFDAは「便で汚染された水や土壌は、サイクロスポラ感染を媒介する可能性がある」としたが、検査結果が得られても、そもそも便がどのように用水路に入った可能性があるのかは結局分からなかったとムーアマン氏は語った。
ほとんどの専門家は、サイクロスポラに汚染された水が寄生虫を農産物に付着させる媒介物だと考えている。
「最も疑わしいのは水だ」と、食品会社に安全対策を助言する微生物学者のジェニファー・マッケンタイア氏は語った。「では、その水がどのように人間の便で汚染されるのか。それはまた別の問題だ」
誰かが灌漑用水の中で直接用を足しているとは考えにくいが、意図していない水の汚染が一因になっている可能性はあるとマッケンタイア氏は指摘する。
ほとんどの農場は、作業員のために仮設トイレや移動式トイレを用意している。そこからくみ取られた排せつ物が用水路に流れ込んだ可能性はあるか。周辺の浄化槽が漏れたり壊れたりして、排せつ物が染み出したことはないだろうか。大雨で下水道があふれたというケースは?
感染した作業員が食品を扱う際に寄生虫を広めた可能性もあるが、マッケンタイア氏はその可能性はさらに低いとの見方を示す。
1人の感染者、あるいは収穫作業班であっても、これほど多くの人を感染させるほど大量の農産物を汚染するとは考えにくいという。