退職代行「モームリ」弁護士2人も起訴…資格は失うの? 今後の流れを弁護士が解説
退職代行サービス「モームリ」の利用者に報酬目的で弁護士を紹介したとして、東京地検は2月24日、モームリ運営会社社長の夫婦と、提携先とされる弁護士事務所の代表弁護士2人を弁護士法違反の罪で起訴したと報じられました。
NHK(2月24日)などの報道によると、社長夫婦は報酬目的で依頼者を弁護士に紹介した疑い、弁護士2人はモームリから法律事務の紹介を受けた疑いで起訴されたとのことです。4人の認否は明らかにされていません。
なぜ退職代行業者が弁護士を紹介すると違法になるのか。また起訴された弁護士側が今後どうなるのかについて解説します。
●そもそも何が問題だったのか
社長夫婦が問われているのは、弁護士法72条違反と思われます。
同法は、弁護士でない者が法律事務を行った場合と、弁護士でない者が、報酬を得るために事業として依頼者を弁護士に紹介することを禁じていますが、今回は後者の紹介が問題になっています。
なお、退職代行サービス自体が弁護士法に違反するかどうかも一応問題になるのですが、今回その点は特に問題とされていません。
弁護士側が問われているのは、弁護士法27条違反と思われます。弁護士は、「非弁業者」などの弁護士法に違反する者から法律事務の紹介を受けることが禁じられています。これを「非弁提携」といいます。
報道によると、弁護士側からモームリ側に対し、1件につき1万6500円が「賛助金」名目でやり取りされていたとみられています。名目が何であっても、実質的に紹介料であれば違法です。
なお、仮に弁護士側が紹介料を支払っていなかったとしても、弁護士法違反にあたる可能性はあります。モームリが依頼者から「紹介」に対する報酬を受け取って弁護士を紹介していると判断されれば、モームリが「非弁業者」ということになります。そこで、モームリから紹介を受けた弁護士も非弁提携として処罰の対象となりえます。
今回、モームリが依頼者から紹介料としての報酬を受けたことが問題とされているのか、モームリが依頼者を弁護士に紹介し、弁護士から紹介料を受け取ったことが問題にされているのかは必ずしもはっきりしません。両方が問題とされている可能性もあります。
●最大のポイントは「罰金刑か拘禁刑か」
大前提として、今回の事件では、現時点では4人の認否は明らかではありませんし、有罪と決まったわけではありません。もし有罪となった場合、弁護士資格はどうなるのでしょうか。
弁護士にとって最大のポイントは、罰金刑か拘禁刑か、です。
弁護士法27条違反の法定刑は、「2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金」です(同法77条1号)。
罰金刑であれば、弁護士資格は失いませんが、拘禁刑の場合は弁護士資格を失います(弁護士法7条1号)。なお、執行猶予が付いたとしても、拘禁刑以上であることに変わりはないため、弁護士資格を失います。
ただし、後で述べるように一定の条件で、再び弁護士登録できる場合があります。
罰金刑となるのか、拘禁刑となるのかについて、実例が少ないので量刑相場の調査はなかなか難しいのですが、非弁業者から大量の債務整理事件の紹介を受けていた弁護士に対し、懲役刑(拘禁刑)(執行猶予付き)を言い渡した裁判例があります(東京地判平成26年(2014年)11月20日)。この裁判例では「弁護士資格の喪失につながることを考慮しても懲役刑(拘禁刑)の選択は免れない」という判断でした。
●有罪になっても再び弁護士登録できる場合とは?
拘禁刑(執行猶予付きの場合を含む)の有罪判決を受け、弁護士資格を失った後、一定の条件を満たすと、再び弁護士として登録できることがあります。
刑法27条は「刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う」と定めています。
つまり、執行猶予期間を無事に過ごせば、刑の言い渡しがなかったのと同じ扱いになります。これにより、弁護士法7条1号の欠格事由は消え、法律上は再び弁護士として登録できることになります。
●必ず再登録できるとは限らない
しかし、実際に弁護士登録ができるかは別の問題です。
再登録にあたっては、弁護士会が登録をしてよいかどうかを審査し、「弁護士会の秩序若しくは信用を害するおそれがある者」の登録を拒絶できます(弁護士法12条)。
調査できる事例が少ないため断定的なことはいえませんが、再登録にあたっては、少なくとも以下のような要素が考慮されているようです。
・被害が大きかったり、社会的影響の大きい犯罪により資格を失った場合、再登録は拒否されやすい
・弁護士としての職務に関する犯罪(非弁提携なども含む)の場合、再登録は拒否されやすい
・攻撃的な言動を繰り返しているなど、「人格」「反省」といった要素で問題があると判断されると、再登録は拒否されやすい。逆に、有罪となった犯罪について全額の被害弁償を行ったなどの事情から再登録が認められることがある。
具体的な例として、非弁提携で懲役刑(拘禁刑)1年6カ月・執行猶予3年の判決を受けた人物の再登録請求が棄却された例(日弁連の議決例(平成19年(2007年)3月26日議決))では、「弁護士としての自覚の希薄さが改善されたと認めることはできない」とされています。
ただし、この人物には有罪判決前に3回の懲戒処分歴がありました。非弁提携で業務停止4カ月、業務懈怠(けたい)で業務停止6カ月、恐喝で業務停止1年6カ月です。
今回起訴された弁護士に他の懲戒歴がなければ、この事例ほど厳しい評価にはならないかもしれません。
別の例では、弁護士法違反等で有罪判決を受けた人物について、「執行猶予期間を終えて間もなく弁護士の登録を許すことは、特段の事情のない限り弁護士会の信用を害するおそれがある」と示したものがあります(日弁連議決例、昭和40年(1965年)3月22日議決)。
ただ、この例でも、有罪判決を受けたのと同一の行為について退会命令の懲戒処分も受けていたため、再登録が認められにくい事案だったといえそうです。
●再登録が認められた事例
一方で、弁護士の職務に関連する犯罪で有罪となった後でも、再登録が認められた事例はあります。
たとえば、業務上横領・詐欺で懲役刑(拘禁刑)2年10カ月・執行猶予3年の判決を受けた弁護士が、自ら弁護士登録を取り消して身辺整理をしたうえ、自己の家屋を売却して被害弁償を行って示談をし、事件後転居して一社員として真面目に勤務し、9年間謹慎したことなどが考慮され、再登録が認められました(日弁連議決例、昭和55年(1980年)7月23日議決)。
証拠偽造・偽証・犯人隠避を行った弁護士が、2年間の謹慎したうえで再登録を求めた事案では、指導監督体制の確保などの事情も考慮して、再登録が認められた事例もあります(日弁連議決例、平成3年(1991年)9月24日議決)。
●再登録は「不可能ではないが容易でもない」
以上を踏まえると、今回起訴された弁護士が仮に拘禁刑以上の有罪となった場合、再登録は「不可能ではないが容易でもない」といえそうです。
再登録を難しくする事情としては、以下のようなものが挙げられます。
まず、弁護士としての職務に関係する刑事罰の場合、再登録が認められない可能性が上がると思われます。特に非弁提携は弁護士の独立性と制度の根幹に関わるため、再登録にあたってマイナスになりそうです。
次に、今回の事件では、「賛助金」名目で紹介料をやり取りする仕組みがあったという報道があります。このような事情が裁判で認定され、さらに弁護士側で意図的に非弁提携の脱法行為を行っていたと評価されてしまうと、再登録にあたってマイナスになりそうです。
さらに、モームリ事件は社会的注目度が高い事件であることも、再登録を認めるにあたってマイナスになりそうです。
逆に再登録を認めるにあたってプラスになる事情として、今回の事件が初回で、1度きりであれば、過去の拒否事例ほど厳しい評価にはならない可能性もあります。執行猶予満了後に相当期間が経過し、真摯な反省を示せば、再登録の道が完全に閉ざされているわけではありません。
いずれにせよ、拘禁刑以上の有罪判決を受けてしまうと、弁護士としてのキャリアに数年以上の空白が生じることは避けられず、影響は甚大です。今後の裁判の行方が注目されます。
監修:小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)
※なお、わかりやすさを重視して記事上は「拘禁刑」で統一しましたが、禁固刑と懲役刑を拘禁刑とする改正刑法施行(2025年6月)より前の行為については、言い渡される判決は懲役刑、実際の処遇は拘禁刑となります。