ウクライナ支援急ぐバイデン政権に同盟国が恨み節-少な過ぎ、遅過ぎ
退任まであと1カ月に迫ったバイデン政権は、残るあらゆる資源を活用してウクライナに軍事支援を提供し、ロシア経済の弱体化を狙う制裁を強化しようと急いでいる。
だが、ウクライナや一部の西側同盟国の当局者から聞こえてくるのは、少な過ぎ、遅過ぎ、の声だ。
バイデン政権が任期最後の数週間に何をしようと、ウクライナは安全保障の確約と引き換えに広範な領土が未決着なまま、苦々しい合意を受け入れざるを得ない方向に向かっていると、当局者は指摘。安全保障の確約も、ウクライナのゼレンスキー大統領が求めている北大西洋条約機構(NATO)加盟はかないそうにない。これはバイデン米大統領が過去2年間にとった、あるいはとれなかった判断の結果だと、関係者が匿名を条件に語った。
米国は900億ドル(約14兆円)を超える支援と兵器を供与しているにもかかわらず、戦争の重要な局面で高性能兵器を迅速に供給するという決断をバイデン氏は下せなかったとして、一部の同盟国には不満がくすぶっている。
ウクライナ軍の反転攻勢が成功した2022年秋、ロシア軍を一気に追い込むためゼレンスキー氏はバイデン氏に兵器の追加供給を訴えた。だが、バイデン氏はためらった。ちゅうちょしたのは、追い詰められたロシアが核兵器使用に踏み切る可能性があると考えたためだと、サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は示唆した。
シャップス前英国防相は「バイデン氏に悪気はなかったのは間違いない。ロシアの侵攻に対し、ウクライナを支援する重要性を理解していた。だが、同氏のアプローチはあまりに慎重で煮え切らないことが多く、形勢の転換に必要な決定的な支援の実施に及び腰だった」とインタビューで語った。
サリバン氏はこの見解に反発。今月7日には、米国によるウクライナへの兵器供給は戦前と戦中のいずれも、「並外れた功績」だったと主張した。実際、特に戦争の初期でウクライナがロシアの侵攻を食い止め、ロシアに対して同盟国を結束させる上で、米国の支援は重要な役割を果たした。
匿名を要請した米政府の別の当局者は、一部の欧州諸国はロシアが侵攻を準備していると認めたがらず、少なくともロシア軍の戦争犯罪が明らかになるまで兵器供給に全く前向きでなかったと不満を吐露した。欧州はこれまでにも制裁強化に反発することが多く、ウクライナのNATO加盟に米国が姿勢の軟化を示しても、ドイツなどは依然強硬な反対を貫いていると、この当局者は指摘した。
大統領がバイデン氏であれトランプ氏であれ、ウクライナにとっての結果は今やあまり変わらないのは皮肉だと別の当局者は述べた。トランプ氏は即時停戦を主張し、同氏が指名した次期国家安全保障担当補佐官は、いかなる合意であれウクライナは現状での戦線凍結や当面のNATO加盟断念を受け入れざるを得ない公算が大きいと示唆している。
この非難合戦の裏側には、米欧双方の当局者をいら立たせる根深い真実が横たわる。欧州各国がハードパワー復活を標榜してはいても、ロシアが絡む大型紛争のバランスを変えられるのは依然としてNATOの中で米国しかいないという事実だ。従って、ウクライナ戦争の行く末がホワイトハウスの決定に左右されることは避けられない。
バイデン氏は冷戦時代の退役軍人でソ連との軍縮交渉に関与した経験があることから、核によるエスカレートの危険が頭から離れていなかったと、当局者は語った。支援をもっと踏み込むべきだと促されると、米当局者はリスクが大き過ぎるとの見解を繰り返し示したという。ドイツなどの他の同盟国も同様の懸念を抱いていた。
欧州の2人の高官によると、根本的な問題は、バイデン氏の戦略がウクライナの敗北を防ぐことに重点が置かれ、勝利への道筋が欠落しているように見受けられたことだ。これが原因でウクライナは長期の戦いを強いられ、数万人の命を失うことになったと高官は述べた。
バイデン氏の選択肢が一つしかなかったわけではない。ある欧州高官によると、同氏には戦略的な選択肢が2つあった。ウクライナへの支援を増強して目的を完遂させる案、和平交渉を推進する案だ。だが、バイデン氏はそのどちらも選ばなかった。
原題:Too Little Too Late: US Allies Say Biden’s Strategy Cost Ukraine(抜粋)