【解説】 ロシア、中東の友好国を再び失うことを懸念 イランとイスラエルの軍事衝突で

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画像説明, 笑顔で言葉を交わすロシアのプーチン大統領(左)とイランの最高指導者ハメネイ師。ロシア政府がこれまで強調してきたイランとの協力関係は、イランに軍事支援を提供することをロシアに義務付けるものではない

スティーヴ・ローゼンバーグBBCロシア編集長(サンクトペテルブルク)

イスラエルが、イランに対する攻撃「ライジング・ライオン作戦」を開始すると、ロシア当局は、現在の中東における緊張の高まりは「憂慮すべき」「危険なもの」だとの認識を示した。

一方でロシア・メディアはすぐさま、今回の事態がロシア政府にもたらし得る利点を強調した。

世界的な原油価格の上昇が、ロシアの財政力を強化するとみられる

ロシアによるウクライナでの戦争から、世界の目がそれる。ロシア紙「モスコフスキー・コムソモレツ」は、「キーウは忘れ去られた」との見出しを掲げた

クレムリン(ロシア大統領府)による仲介案が受け入れられれば、中東で重要な役割を担う国として、そしてピースメーカー(紛争の仲裁人)として、ロシアは自国をアピールできる可能性がある。ウクライナで軍事行動を続けてはいるが

しかし、イスラエルの軍事作戦が長引くほど、現在の情勢によってロシアが被る損失が大きくなるとの見方も広がっている。

ロシアの政治学者アンドレイ・コルトゥノフ氏は、16日付のロシアのビジネス紙「コメルサント」への寄稿で、「この衝突の激化は、ロシア政府にとって深刻なリスクと潜在的な損失を伴うものだ」と指摘した。

「ロシアは、5カ月前に包括的な戦略的パートナーシップを締結した国(イラン)に対するイスラエルの大規模攻撃を阻止できなかった。その事実は変わらない」

「ロシア政府に、イスラエルを非難する政治的声明を発表する以上の対応を取る用意がないのは明白だ。イランに軍事支援を提供する準備もない」

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と、イランのマスード・ペゼシュキアン大統領が1月に署名した、両国の戦略的パートナーシップ協定は、軍事同盟ではない。

そのため、ロシア政府がイランの防衛に関与する義務はない。

しかし、ロシア政府は当時、この協定を大々的に宣伝していた。

ロシア国営通信社「RIAノーボスチ」のインタビューで、同国のセルゲイ・ラヴロフ外相は、この協定は「地域的および国際的な平和と安全保障のための協力強化に特別な注意」を払うもので、「安全保障と防衛分野での協力を深めるという、ロシアとイランの両政府の強い願い」を示していると述べていた。

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画像説明, ロシアはウクライナでの戦争で、イラン製の自爆型「シャヘド」ドローンに大きく依存してきたが、現在は国内で独自のシャヘド・ドローンを製造している。画像はウクライナ上空を飛行するイラン製シャヘド・ドローン

イランで今後、政権交代が起こるかもしれないとの見通しは、ロシア政府にとって大きな懸念材料となるだろう。もう一つの戦略的パートナーを失うことを意味するからだ。

17日付のロシア紙「モスコフスキー・コムソモレツ」は、「現在の世界の政治において、大規模な変化がリアルタイムで進行している。これは、我が国での生活にも直接的または間接的に影響を及ぼすだろう」と報じた。

こうした中、プーチン大統領は今週の大半をサンクトペテルブルクで過ごす予定だ。同市では18日から、毎年恒例の国際経済フォーラムが開催される。

かつては「ロシア版ダヴォス会議」とも称されたこのイベントだが、近ごろはその様相は変化している。

特にロシアがウクライナへの全面侵攻を開始して以来、西側の大手企業の最高経営責任者(CEO)らは参加を避けるようになった。

それでも、主催者側は、今年は140以上の国と地域から代表者が参加すると主張している。

ウクライナ戦争をめぐり、国際社会はロシアを孤立させようとしている。そうした試みは失敗に終わったと、ロシア当局はこのフォーラムを通じて示そうとする可能性が高い。

経済フォーラムではあるものの、地政学的な議論は決して避けられない。

プーチン氏が中東やウクライナについてどのような発言をするか、注目される。

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