山上徹也被告は「傍聴席の受け止めを気にしていた」 鈴木エイトさんが初公判で受けた衝撃とは

旧統一教会を20年以上追い続けてきたジャーナリストの鈴木エイトさん(photo 本人提供) この記事の写真をすべて見る

 安倍晋三元首相銃撃事件で殺人や銃刀法違反などの罪に問われている山上徹也被告(45)の裁判員裁判の初公判が10月28日に行われた。公判は3日連続で行われ、この後は年末までに最大19回開かれる見通しだ。事件の背景にあった世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を20年以上追いかけてきたジャーナリストの鈴木エイトさんは、傍聴席で「衝撃を受けた」という。注目の初公判はどのようなものだったのか。話を聞いた。

【写真】初公判に向かう山上徹也被告を乗せた車

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 山上徹也被告の印象は、公判初日と2日目でかなり異なっていました。公判初日は、ふてぶてしさを感じなくもありませんでしたが、2日目に改めて見てみると、気怠そうな表情や背気味にゆっくりと歩く様子などから、特に意図的な態度というよりは、もともとそういうしぐさや歩き方をする人なのかなという印象を受けました。

 初日の公判後、弁護団の囲み取材で「今日の法廷での彼の態度について、普段の接見時と違いがありましたか?」と尋ねたところ、松本恒平弁護士は「あまり差は感じなかった」と話していました。

 普段のコミュニケーションも、自分からハキハキ話すというより、弁護士側が話しかけ、それに対して時間をかけてゆっくり答えるスタイルらしく、おそらく高校時代の写真や事件当時の映像から抱かれていたイメージが一方的な見方だったのかもしれません。

 また、気になったのは、3年3カ月にわたる拘束生活の中で、拘禁症状のようなものが影響しているのではないかという点です。

 もともと対人関係やコミュニケーションがあまり得意ではなかったところに加え、事件以前から人との接触が少なかったこともあり、長期間の孤独状態が、外見的にも心理的にも影響を及ぼしているのかもしれません。

 初めて公の場に姿を現し、被告人席に座った際には、傍聴席の視線を遮るような動きも見られましたが、翌日はまったく顔を隠すことはありませんでした。弁護団によると、「人前でああいう態度を取るのは、どう受け止められると思いますか?」と本人が気にしていたそうです。

法廷での山上被告は「シャイな一面も見えた」

 私自身も、初日の公判を見た衝撃からテレビ番組などで「ふてぶてしい印象を受けた」とコメントしましたが、2日目の印象はまったく異なり、どこかシャイな一面も見えました。それに、腰縄と手錠をつけて歩く姿から、どうしても猫背気味になり、見た目的にはややすさんだ印象を受けがちです。

 この裁判は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題性自体や、教団と政界との関係を問うものではありません。したがって、それらが法廷で直接認定されるということはないと思います。

 ただ、少なくとも山上被告が教団と政界の関係をどう捉えていたか、それが一方的な逆恨みだったのかという点については、決してそうとは言い切れない、一定の合理性や背景があることを弁護団は示そうとしていると思います。教団自体の問題性を示す裏付けとしては、東京地裁によって教団の解散命令が出ているという事実もあります。


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山上徹也
2025/11/03/ 10:00
奈良地裁に到着した山上徹也被告を乗せた車両=2025年10月28日午後1時18分、奈良市

 ただ一点気になるのは、政治家との関係において、自民党が詳細な検証を行わず簡単な自己申告制の点検で済ませてしまったため、明確な裏付けがないまま、山上被告が旧統一教会と安倍晋三元首相との関係をどう捉えていたかという点が、あくまで「彼の認識の問題」としてのみ処理されてしまう可能性があることです。

 安倍昭恵さんの存在もあり、「まったく無辜(むこ)の政治家が一方的に殺され、その妻が悲しんでいる」というナラティブが前面に出てくる状況もあります。そのためか、初日の裁判終了後、テレビの情報番組でコメンテーターが安倍昭恵さんの人柄を褒め称えたうえで「彼は反省しているのでしょうか」といった発言をしていました。

 もちろん、殺人という犯罪を犯したことは許されるものではありませんし、殺された側に相応の落ち度があったとまではいえません。安倍元首相が山上被告の家庭に対して直接何かをしたわけではなく、その点においては確かに逆恨みと言えます。

教団を放置してきた政治家たち

 ただ、これだけ大きな被害を生んできた団体による被害実態という事実がある中で、それを本来取り締まるべき立場にある政治家が放置してきた、あるいは、教団友好団体のイベントにビデオメッセージを出すなどして加担してきたとも取れる動きがあったことに対し、山上被告がどう感じたのかという点については、一定の審理がなされるべきだと思います。

 その点を報じるのは、我々メディアの責任でもあります。この問題の本質がどこにあるのかということを、裁判で審理される範囲を超えて広く伝えていく必要があると思います。

(構成/AERA編集部・古寺雄大)

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