東京都議選での「勝率100%」を譲れない公明党が選んだ擁立1減でも守りを固める戦術

東京都議選に立候補を予定する新人と並んで街頭演説する公明党の三浦信祐参院議員(右)=5月31日、豊島区内(市野沢光撮影)

会期中の東京都議会定例会。2日目の3日午後、公明党都議団は、代表質問のバッターとして送り出した演壇の薄井浩一都議(足立区選出)を議場の自席から見守ったが、斉藤泰宏都議(目黒区選出)の席の氏名標は前日同様、倒れたままで「欠席」を示していた。

非情な組織決定

公明は平成5年以降の8回の都議選で、いずれも候補者全員が当選し、「勝率100%」を維持し続けている。13年以降の6回は毎回23人が立候補してきたが、13日告示の都議選(22日投開票)で擁立する数は、現有議席よりも少ない22人に絞る。擁立を見送るのが目黒区選挙区だ。

21年から4期都議を務める斉藤氏には「もう1期、務めることができた」(公明関係者)との評があり、支持者の戦意も高かったという。しかし、選挙区情勢を踏まえ、最終的には現職を出馬させないという異例かつ非情な組織決定が下された。

擁立人数をあえて減らすのは「情勢が厳しい目黒に力を割くと、目黒だけでなく、他の選挙区も落としかねない」(公明関係者)とのリスク分析による判断で、いわば守りを固める戦術といえる。

公明は国政選挙での集票力の低下が著しい。過去3回の参院選の比例得票数は757万票(平成28年)、653万票(令和元年)、618万票(4年)と減少し続け、昨秋の衆院選は、比例代表の得票数が平成8年の現行制度導入以降、最少となる596万票に落ち込んだ。支持者の高齢化などに伴う組織の衰退は、都内も例外ではない。

世代交代も課題

ただ、今回の守りの戦術によっても、全員の当選が保証されるわけではない。22人中6人は新人で、世代交代に伴う課題も大きい。

「一人の声を届け、その声を政策に結びつけることができるのが公明党だ」

5月31日午前、東京メトロ要町駅前(豊島区)で、都議選に立候補を予定する公明の新人がマイクを握って訴えた。

雨にもかかわらず、駅頭には傘を手にした約100人の聴衆が集まり、三浦信祐参院議員や地元区議らも応援に駆け付けた。だが、今回の都議選で勇退する当地の現職、長橋桂一都議は会場に姿を見せなかった。

現場で新人の演説を見守った公明関係者は理由をこう説明した。

「長橋氏が6期24年と長かったので、なかなか新人の名前が浸透しない。長橋氏が前に出て話すと、また立候補するのだと間違えられてしまう」

別の関係者によると、新人へと代替わりを図る他の選挙区でも有権者の混乱を避けるため、現職は一歩引いて支援しているという。

公明は支持母体の創価学会の強力な支援を受けるが、公明都議団の重鎮は「もはや創価学会員だからといって自動的に公明の公認候補に投票してもらえる時代ではない」と語る。

さらに、3年前の参院選では、創価学会が候補者支援に関し「人物本位」を打ち出したこともあり、「支持者から、より人物を見られるようになった」(公明都議団幹部)ことも新人のハードルになっているという。

全国の士気に影響も

公明は前身の公明政治連盟が都議会で躍進。同連盟が創設を訴えた児童手当が昭和44年に都独自の制度として導入された後、47年に国の制度になったことをはじめ、都議会から国政をリードしてきたとの自負がある。都議会での影響力を維持する上でも「全員当選」は絶対条件だ。

目標が達成できれば、直後の参院選に弾みがつくが、全勝記録が途切れれば、全国の組織の士気にも影響しかねない。公明の選挙戦術の成否が判明するまで3週間を切った。(原川貴郎)

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