「制裁は効いていない」は本当か? ロシア経済が見せる“強靭さ”の裏で進む静かな崩壊

ロシアがウクライナに軍事侵攻をはじめてから4年が経つ。西側諸国によるロシアへの経済制裁も続いているが、その効果はどれくらいあったのだろうか。 【画像】西側諸国からの経済制裁でロシアはどうなるのか? YouTubeチャンネル「大人の学び直しTV」の登録者数が100万人を超える「すあし社長」が、大国ロシアの現在と未来を解説する。(本稿は、すあし社長『あの国の「なぜ?」が見えてくる世界経済地図』(かんき出版)の一部を再編集したものです.また、2025年9月時点の世界経済、情勢に基づいて制作しています)

ウクライナ侵攻を受け、歴史上でも前例のないほど大規模かつ包括的な経済制裁をロシアに科した西側諸国。その目的は、経済を麻痺させロシアの戦争遂行能力を削ぎ、侵攻を断念させることにありました。 しかし、3年以上が経過した今、ロシア経済は完全な崩壊を免れ、ある種の「強靭さ」を見せているかのように見えます。一方、水面下では、ロシアの経済と社会の構造そのものが、静かに、しかし根本的に変質しています。 国際社会からの「孤立」を逆手に取り、国家による統制を極限まで強め、西側中心のグローバル経済とは異なる、独自のサプライチェーンと経済圏を築こうとする、壮大な社会実験が進行しているのです。 ここでは、ロシアが制裁という未曾有の圧力にどう適応し、どのような新たなリスクと脆弱性を生み出しているのか、その実態を深く掘り下げていきます。

ウクライナ侵攻後、マクドナルドやスターバックス、IKEAといった、ロシア国民の生活に深く根付いていた多くの西側企業が、世論の圧力や経営上のリスクから、ロシア市場からの撤退を表明しました。 しかし、その撤退のプロセスは、クレムリン(ロシアの大統領府とその周辺の政権中枢のこと)による事実上の「国有化」、すなわち資産の接収へとつながっています。 ロシアから撤退しようとする西側企業は、市場価格から大幅に割り引かれた価格での資産売却を強要されるだけでなく、売却益に対して多額の「撤退税」を支払うことを義務付けられています。 さらに深刻なのは、プーチン大統領の鶴の一声で、外国企業の資産が「一時的な国家管理下」に置かれ、政権に忠実な新興財閥(オリガルヒ)や、大統領の側近に、ただ同然で譲渡される事例が相次いでいることです。 フランスの食品大手ダノンやデンマークのビール大手カールスバーグのロシア事業が、それぞれチェチェン共和国首長の甥やプーチン大統領の旧友の手に渡ったのは、その象徴的な例です。 この一連の動きは、単なる資産の再分配ではありません。クレムリンは、政権の存続と自らの運命を共にする、新たな忠誠心の高いエリート層を意図的に形成し、経済に対する国家の統制を極限まで高める「国家資本主義」を、さらに深化させているのです。 これにより、ロシアにおける私有財産権という近代経済の基本原則は事実上形骸化し、ビジネス環境は、法の支配ではなく、クレムリンの意向一つで全てが決まる、予測不可能なものへと変貌してしまいました。


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戦争が長期化するにつれ、ロシア国内では制裁がある日常に対するある種の「慣れ」と適応が見られます。当初のパニックは収まり、政府による大規模な財政出動もあって、消費者心理は比較的安定を保っています。 この状況下で、ロシア政府が国家戦略の柱として大々的に推進してきたのが、「輸入代替政策」です。マクドナルドに代わってロシア版のファストフード店が登場したように、西側諸国から輸入できなくなった製品やサービスを、国産品で置き換えようという試みです。 しかし、その成果は、分野によって大きく異なります。特に高度な技術を要する分野では、課題が浮き彫りになっています。 ハイテク製品や医薬品の分野では、国産品の品質や技術水準は、西側の製品に遠く及ばないのが実情です。ロシアの軍産複合体ですら、その多くをソ連時代の古い技術の改良に頼っており、真に新しい、高度な兵器システムの開発には苦慮していると言われます。 制裁によって西側からの部品供給が絶たれたことで、多くの企業が「代替不可能な外国製の設備や部品がある」と認めており、国産化の道のりは極めて険しいものです。 結局のところ、輸入代替政策は、一部の消費財などで限定的な成果を上げるにとどまり、ロシア経済の根幹を支える技術的な脆弱性を、根本的に解決するには至っていません。 むしろ、長期的な労働力不足や、世界の先端技術へのアクセスが断たれたことが、今後のロシア経済の成長を縛る、大きな足かせとなることは確実です。

西側諸国による制裁の効果を、大きく減殺している最大の要因。それが、第三国を経由した「迂回貿易」、いわゆる並行輸入の横行です。 西側諸国から直接輸入することができなくなったiPhoneや自動車、産業機械といった製品は、ロシアの友好国や近隣国を経由して、ロシア国内へと大量に流入しています。その主なルートとなっているのが、カザフスタンやキルギスといった中央アジア諸国、アルメニアやジョージアといったコーカサス諸国、そしてトルコやアラブ首長国連邦(UAE)などです。 これらの国々は、ロシアとの地理的な近接性や、「ユーラシア経済連合(EAEU)」のような関税同盟の枠組みを巧みに利用し、制裁を回避するための「ハブ」としての役割を果たしています。 特に中国は、これらの迂回ルートを積極的に活用し、軍事転用が可能な半導体や工作機械といった「デュアルユース(軍民両用)品」を含む重要物資をロシアに供給する上で、中心的な役割を担っています。 この迂回貿易は、ロシアが戦争を継続し、国民生活のレベルをある程度維持することを可能にしています。 しかし、それには大きなコストが伴います。 複雑な物流ルートと多くの仲介業者が介在するため、輸入品の価格は必然的に高騰し、その負担は最終的にロシアの消費者や企業の肩に重くのしかかります。 EUやアメリカはこの制裁の抜け穴を塞ぐため、契約書に「ロシアへの再輸出を禁じる」という条項の盛り込みを義務付けるなど、対策を強化しています。 しかし、グローバルに張り巡らされた複雑なサプライチェーンの抜け穴を完全に塞ぐことは極めて困難であり、制裁を科す側と、それを回避しようとする側との間で、終わりの見えないいたちごっこが続いているのが実情です。

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