カタール提供の豪華ジェット機、スパイには悪夢-米情報当局に警鐘

トランプ米大統領に超高級仕様のボーイング747型機を提供するとのカタールの申し出は、外国からの贈り物を長年疑いの目で見てきた米国の情報機関や外交当局の間に警鐘を鳴らしている。

  89席を備え、フランス人デザイナーが手がけた豪華な内装を誇るこのジェット機を巡っては、法的・倫理的な問題に加え、技術やセキュリティー上の懸念も浮上している。専門家らは、外国政府からのこのような贈与は、大統領や同行者の通信を監視・追跡・漏えいする機会となり得ると指摘する。

トランプ氏が機内を見学したカタールのボーイング747型機(2月15日)

  冷戦時代にモスクワで活動していた経歴を持つ米中央情報局(CIA)元駐在員のサッド・トロイ氏は 「もし自分たちがこの機体を外国政府向けに製造していたなら、間違いなく盗聴器を仕込んでいただろう」と述べた。同氏はモスクワに赴任していた際、米大使館の建物からコンクリートの中に埋め込まれた監視装置を1つ1つ取り除く作業を思い出すという。

  トランプ氏は政権1期目にボーイングに対し大統領専用機を2機、総額39億ドル(約5700億円)で発注していた。しかし納入の遅れに業を煮やした同氏は代替機を探しており、カタールのジェット機には以前から目を付けていたとされる。

パリ仕上げの豪華内装

  このジャンボ機は2012年製で、カタール王族で元首相のハマド・ビン・ジャシム氏が使用していた。

  内装はフランスのインテリア会社、キャビネ・アルベルト・ピントが手がけ、クリームホワイトとタンカラーの家具、タイピン社製の特注カーペット、シカモア材やワカポー材の調度品、さらにはアレクサンダー・カルダーのアート作品などが施されている。上階には主寝室とゲストルーム、プライベートラウンジなどがあり、下階には複数のラウンジやオフィス、乗務員スペースが備わる。

中東歴訪のためエアフォースワンに搭乗するトランプ氏(5月12日)

  トロイ氏によれば、この機体を現在の大統領専用機「エアフォースワン」仕様にするには改修が必要。爆発や攻撃に耐え得るよう機体表面の強化に加え、空中給油機能、機密通信システム、兵装システムなどの技術的装備が求められるという。

  機体を徹底的に分解し、国防総省や情報機関の職員が追跡装置や監視システムなどが仕込まれていないかを確認するには「数カ月から年単位」の作業が必要となる。

  「だからこそ、エアフォースワンの建造にはあれほど時間がかかる、大統領の安全を確保するために多くの装置が取り付けられているからだ」とトロイ氏は話す。

汚点

  ボーイングの納入が「大幅に遅れている」と非難してきたトランプ氏は、この贈り物を擁護している。

  トランプ氏はサウジアラビアに向かう機内でFOXニュースに対し、「受け取るべきじゃないという人もいる」が、「私はなぜ受け取らないのかという考え方だ。米国は他国に贈り物をしている」と語った。

  しかし、トランプ氏の熱心な支持層からも、今回の件を賄賂や湾岸諸国による影響力の行使とみなす声が上がっている。

  極右活動家のローラ・ルーマー氏はX(旧ツイッター)への投稿で「私はトランプ氏のためなら銃弾も受ける人間だが、これが本当なら政権にとって大きな汚点になる」と述べた。

贈呈拒否にもリスク

  カタールは長年にわたり米国の同盟国であり、現在はイスラエルとイスラム組織ハマスの間の停戦をエジプトと共に仲介する役割も担っている。同国にはハマスの政治部門が置かれているが、こうした関係性があることで、「一部の情報が悪用される恐れもある」と語るのは、シドニー大学国際安全保障研究センターのジェームズ・ダー・デリアン所長だ。

  「もちろん、カタールはソ連ではないが、それでもかなりの情報活動力を有している。規模の割に影響力が大きい」と同氏は述べた。

  外国政府からの贈り物を受け取ることは危険を伴うが、拒否することにもリスクがある。贈答行為はアラブ文化において重要な意味を持つため、拒絶は外交的失態となる恐れもあるからだ。

  ダー・デリアン氏は、ジェット機の贈り物を拒めば「多くの指導者が不快に思う可能性がある。米国だけでなく、カタールや他のアラブ諸国のリーダーも同様だ。もてなしが彼らの文化の極めて重要な部分だと考えるからだ」と指摘した。

原題:Trump’s Freebie Qatar Jet Is the Stuff of Nightmares in Spyworld(抜粋)

関連記事: