「違法」認めぬ斎藤知事を横目になぜか進む見直しドミノ 周辺県でも公益通報の改善が加速

定例記者会見に臨む斎藤元彦知事=18日午後、神戸市中央区

斎藤元彦兵庫県知事の疑惑告発文書問題で、告発者を特定し懲戒処分とした斎藤氏らの対応について、県の第三者委員会が違法と認定する報告書を公表してから19日で1年。文書問題は自治体などが公益通報制度の運用を見直す契機となり、この間に法改正もされた。告発者の保護を強化し、通報しやすい環境整備が進められているが、当の斎藤氏は自身の違法性を認めないままだ。客観的な調査結果を受け入れない姿勢に、有識者や県庁内から厳しい視線が向けられている。

「県の対応は初動から懲戒処分まで適切だった」。18日の定例記者会見で、第三者委の報告書について問われた斎藤氏はこれまでと同じフレーズを繰り返した。原則週1回の定例会見では、現在も文書問題に関する質問が相次ぐが、斎藤氏は「適切適正に対応してきたという答えを繰り返す」としている。

第三者委は斎藤氏が設置を決めた。元裁判官らが調査を担い、昨年3月に報告書を公表。匿名の告発文書の作成者を元県西播磨県民局長の男性=令和6年7月に死亡、当時(60)=と特定し、停職3カ月とした県の対応は「明らかに違法」と認定し、処分は無効と結論付けた。

斎藤氏は違法との調査結果を受け入れていないが、影響は広がった。

自浄能力を高めることを目的とする公益通報制度。それが兵庫県で機能しなかった理由の一つとして、第三者委は外部の通報窓口がなかったことを挙げた。

公益通報者保護法を所管する消費者庁の調査によると、令和3~4年度に全国の都道府県で外部窓口を持っていなかったのは兵庫県を含む13県あったが、6年の文書問題以降、各地で制度の見直しが進んだ。岡山県は7年1月、弁護士事務所に外部窓口を新設。担当者は「兵庫県の問題を受けて設置を決めた」と説明した。香川県や奈良県も外部に通報窓口を新たに設けた。

同年6月には改正公益通報者保護法が成立。通報者の探索行為の禁止などが明文化され、通報後1年以内の解雇・懲戒処分は通報が理由と推定するなど、不利益な取り扱いの防止規定を強化。告発を理由に社員や職員を解雇・懲戒処分とした場合の刑事罰も設けた。有識者の間では、文書問題が改正内容に影響したとの指摘がある。

今年12月の改正法施行を前に兵庫県も1月、公益通報に関する県の要綱を改正。報道機関など外部への告発者も内部通報と同様に保護すると明記し、通報内容の利害関係者に対応させない「利益相反の排除」も盛り込んだ。

斎藤氏の指示で告発者捜しが行われた文書問題の対応とは齟齬(そご)が生じる形だが、ある県幹部は通報しやすい環境作りのため、文書問題と切り離して改正したと説明。「今後、運用事例を積み重ねて信頼を得ていくしかない」としている。

一方、斎藤氏が違法性を認めていないことについて、別の幹部は「肝心な部分をうやむやにしたままでは、職員が安心して通報できるはずがない」と吐露した。

パワハラは認め、謝罪も

第三者委は、告発文書に記載された斎藤氏らに関する7項目の疑惑の真偽も調査。斎藤氏によるパワハラ行為10件を認定した。斎藤氏はパワハラについては謝罪し、ハラスメント研修を受講するなどした。

報告書では、側近以外とのコミュニケーション不足が知事と職員との間の認識の齟齬を生じさせ、結果的にパワハラなどにつながったと指摘。知事の不適切な言動を周囲がいさめることもできなかったとした。

認定されたパワハラは職員への叱責や机をたたく行為、夜間休日の度重なるチャットでの連絡などで、斎藤氏は当初、「業務上必要な指導だった」などとしていたが、報告書を受けて「職員に謝罪したい」と述べた。

ただ、パワハラに関する自身の処分は否定。県では過去に職員がパワハラで処分されており、整合性を問われたが「襟を正して仕事を前に進めることが身の処し方」と説明した。昨年5月には幹部職員約120人と一緒に4時間以上にわたってハラスメント研修などを受講したが、出席した職員からは「すでに知っている内容。知事1人で受けたら良かったのでは」との声が聞かれた。

第三者委は、贈答品受領などそのほかの疑惑について「事実は認められなかった」などとしたが、「知事による贈答品の要望とも受け取り得る発言が複数件で見受けられる」と言及した。

「あしき前例に」近畿大法学部・上崎哉教授

第三者委員会設置の趣旨は、まとめられた報告書をもとに組織が不適切な点を正し、自浄能力を発揮することだ。斎藤氏が設置した第三者委は元裁判官の弁護士が丁寧に調査し、報告書は客観的かつ公正、公平に判断されている。最大限尊重すべきであり、受け入れないという選択肢はあり得ない。斎藤氏の姿勢は、違法性を認めず報告書を受け入れなくても知事の職にとどまれることを示したという点で、あしき前例になっているのは確実だ。

制度の改善につながった点もあり、男性の公益通報は十分に意味があった。文書の作成と配布を理由にした懲戒処分は違法と判断された。撤回し告発者の名誉回復をして相応の責任を取るべきだが、現状そうした対応は期待できない。こうした状況が続くことは県民にとっても望ましいことではない。

文書問題について「適正、適切」などとする斎藤氏の県議会や会見での説明も、真摯(しんし)な姿勢に欠けていると言わざるを得ない。この1年間の斎藤氏の姿勢を踏まえると、県議会は改めての不信任決議も視野に入れるべきだ。

関連記事: