ニューヨークのマムダニ新市長当選によって民主党の分断が急速に進む可能性も…ますます危険度を増すアメリカの近未来(Wedge(ウェッジ))
ニューヨーク市長選挙で、民主党候補ゾーラン・マムダニ氏が当選した。マムダニの経歴はこれまでのニューヨーク市長経験者と比べると異例な点が多い。アフリカ生まれのインド系移民で、イスラム教徒である。 【写真】注目すべきマムダニ氏の選挙戦略 同時多発テロでイスラム系のテロリストの攻撃を受けて大きく傷ついたニューヨークの市長選には、彼の宗教的背景は大きく不利となると考えられていたが、それを覆しての当選であった。 34歳という年齢は近年にない若さであった。マムダニより若い人物がニューヨーク市長となった記録があるのは130年以上前のことであり、しかも、当時は年齢も正確に記録されていなかったという説もある。 マムダニは、自ら民主社会主義者であると公言する急進左派であり、社会主義や共産主義を極度に嫌うアメリカ社会において、そのような人物が米国最大都市の市長に選ばれるのも異例のことであった。 マムダニにとって今回の選挙は、民主党の予備選挙に勝って同党の公認候補となっての挑戦である。ニューヨーク市は民主党が圧倒的に強いので、民主党公認候補にとっては市長選の本選は楽勝なのが通例である。ところが今回はそうではなかった。 なぜなら、予備選でマムダニに敗れた同じ民主党のアンドリュー・クオモ候補が、無所属で本選に出馬しマムダニに挑戦してきたからである。予備選で敗れたとはいえ、前ニューヨーク州知事のクオモは、父親も同州知事を務めた政治一家の出身で知名度も高く、多くの有力な支援者を抱えていた。 マムダニが公約で富裕層に対して増税すると宣言すると慌てた富豪たちは、クオモに巨額の選挙資金を投下した。ある大手化粧品会社の関係者は260万ドル、ヘッジファンド関係者は175万ドル、民泊企業の共同創業者も200万ドルといった具合に、日本円に直せば数億円という単位でマムダニの当選を阻止するために寄付したのである。
この2人の候補者のバックグラウンドは大きく異なっている。片方が移民で無名の、経験の浅い州議会議員なりたての34歳、他方はニューヨーク州知事を3期もつとめた大物州知事を父に持ち、本人もクリントン政権において閣僚を務め、州検事総長を経て州知事を10年務めた67歳の大物である。 2人のスタイルを象徴する出来事がある。選挙期間中、地元チームのバスケットボールをマムダニもクオモも観戦したが、マムダニが後方の安い席で、地元の人々と交流しながら観戦したのに対し、クオモは汚職スキャンダルにまみれたアダムズ市長と共にコートサイドの特等席で観戦したのである。 もちろんマムダニが貧しい移民でないことは皆が知っている。父親はコロンビア大学の教授であり、母親は有名な映画監督であって、本人も恵まれていたと認めている。ただ、どちらが恵まれない市民に寄り添っているかは明らかであった。 トランプ大統領は、民主党のライジングスターであるマムダニを目の敵にして攻撃した。マムダニを共産主義者と非難し、そのような人物を当選させると、米国を「共産主義のキューバや社会主義のベネズエラのようにしてしまうだろう」と述べた。そして、あろうことか、選挙戦終盤には、自身の属する共和党の候補ではなく、民主党に属するクオモ支持を表明したのである。 第一次世界大戦後の赤狩りや第二次世界大戦後のマッカーシズムをみても明らかなように、米国は歴史的に共産主義や社会主義を毛嫌いしてきた。特に冷戦期には、ソ連との対抗上、政府が国を挙げて国民の間にその恐怖を煽ってきた。それによって醸成された恐怖心は根強く、これまで多くの民主党左派の候補がそのために落選してきた。 大統領に共産主義者のレッテルを張られるなど目の敵にされた無名で政治経験も浅いイスラム系の移民である候補が、大富豪たちの寄付をふんだんに受けた名門政治一家の前州知事を相手に、本選挙で過半数の得票を得て当選を勝ち取ることが出来たのはなぜだろうか。