<キャンパる>「学生出産」に目立つ現役学生の慎重姿勢 実例の少なさも影響か
少子化の流れを食い止めるためには、若い世代で出産・育児を経験する人が少しでも増えることが有効な手立てとなる。ただ学生は例外だろうか。学生ながら子どもを産み育てることについて、また、自らの出産・育児について、今の学生はどう考えているのか。現役学生が取材、記事執筆を行う毎日新聞「キャンパる」編集部はオンラインでアンケートを実施し、その意向を探った。【上智大・石脇珠己、佐藤香奈(キャンパる編集部)】 【写真で見る】学業と子育ての両立をサポートする上智大内の託児室 今年10月に実施したアンケートでは首都圏を中心とした大学生、大学院生、短大生合計196人から回答を得た。また、性別構成としては女性が138人と約7割を占めた。 ◇否定派が半数以上 学生ながら出産・子育てをすることについてどう思うかを尋ねたところ、「あまりよくない・よくない」と否定的な印象を抱く人が103人と半数を超えた。一方、「よい・どちらかといえばよい」と答えた人は39人、「どちらともいえない」が48人、「その他」が6人だった。 否定的な回答をした103人に複数回答可で理由を尋ねたところ、「大学との両立が難しいから」が最も多く91人だった。続いて「望まない・予定外の妊娠が多いと思うから」が51人、「生まれる子どもにとって、親が学生なのは望ましくないと思うから」が29人、「学生は学業や大学生らしい生活をすべきだ」が18人だった。 また自由記述で「学生の本業は学ぶことであり、学んでいる人が育てているのは矛盾している」「教員や他の学生の理解と支援を前提とした子育ては、そもそも身勝手だと思う」という回答も見受けられた。理由はさまざまとはいえ、学生が出産・子育てをすることを一般的でないと考える人が多いことが分かる。 一方で、肯定的な回答をした39人に理由を尋ねると、「個人の自由だから」など、それぞれの選択を尊重するものが多かった。 ◇つきまとう不安 学生出産について「情報環境の中でネガティブな意見に触れたことがあるか」という質問には、約6割にのぼる112人が「ある」と回答した。遭遇したネガティブな意見の実例を尋ねたところ、多くが予定外の妊娠であることを前提とした「計画性がない」「ふしだらだ」「無責任」「子供がかわいそう」「親に迷惑をかける」などの非難だった。また、インターネット上には当事者の体験談も多く「実際に学生出産して後悔したという人の投稿を読んだ」という声もあった。 続いて「自分の子どもができたことが分かった場合、学生でも出産するか」という質問には、「そうしたい」が57人、「そうしたくない」が107人、「特に希望はない」が23人だった。出産に当たっての不安要素としては、出産に積極的・消極的どちらの場合でも「大学との両立(計138人)」「金銭面の不安(計137人)」「就職などその後の人生への影響(計112人)」が圧倒的に多かった。 ◇自分のために使いたい時間 ただ、就職後に出産・子育てをする場合でも仕事との両立において困難が伴う。学生出産は、子育てによるキャリアの断絶を避けるための代替策になりうるだろうか。「子育てで仕事を休みたくない場合、学生のうちに出産・子育てをするという選択肢もあるがどうか」という質問をしたところ、「そうしたい・選択肢に入る」が13人だったのに対し、「そうしたくない・選択肢に入らない」が141人で全体の約7割を占めた。 自由記述式で理由を尋ねたところ、「仕事の方が休めない」「体力的な面で有利」など、社会に出てからではなく在学中の出産・子育てに前向きな学生がいる一方、金銭面や就職活動・キャリアプランにおける不安を理由に、学生出産に後ろ向きな学生が多かった。他にも「学業なども含めて、自分に割ける時間が限られてしまう」「学生時代にしかできない経験を得たい」など、学生でいられる貴重な時間を自分のために使いたいという声が多く見られた。 ◇整わない環境 また「職場では産休が一般的だが、大学ではそうではない。周囲の理解がなく、つらい思いをしそう」と先例の少なさを理由とする意見もあった。加えて「受験や就活、奨学金など、今の学生を取り巻く社会体制が、子育てを視野に入れていない」「出産・育児に対応する休学制度の拡充を求めたい」などの意見もあった。 では、学生出産を検討するに当たって不足している支援とはどのようなものだろうか。「支援により学業面や金銭面での不安がなければ、学生出産をライフプランに入れていたか」という質問には、26人が「そうしたと思う」と答えた。 具体的にほしい支援策を尋ねたところ、金銭的支援という回答が多数見られた。また「子どもを安心して預けられる環境の整備」「休学を無償化する・取りやすくする」「オンライン授業を増やす」などの意見も複数あった。 ◇手本になる事例少なく 一方で、支援があったとしても学生出産をライフプランに入れない意向の学生は110人いた。理由を尋ねると「子どもがいる状態で就職することへの不安」が最も多く58人、続いて「ロールモデル(手本になる存在の人)がいないから」が36人だった。 また「そもそも子どもを産むことへの責任をまだ持てていない」「自分が親となるほどの知識や人格をまだ備えていない」など、心の準備不足を理由に挙げる学生も複数いた。支援が拡充されても、学生出産への不安はすべて解決するわけではなく、社会的に実例も少ない。そうした中で学生出産を能動的に選ぶ人は限られるのだろう。 ◇妊娠経験者が抱いた葛藤 アンケートに回答してくれた学生の一人である藤沢真依さん(19)=仮名=に、メールで話を聞くことができた。藤沢さんは今年の8月に予定外の妊娠を経験し、中絶を選択した。子どもを育てるという選択は藤沢さん、パートナーともに考えていなかったという。さまざまな理由があるが、一番はまだ学生で自分のために時間を使いたいという強い思いからだ。藤沢さんは「子育てする分、自分の時間はおろそかになるので、これからのキャリアや成し遂げたい未来に大きく響くと思った」と話した。 妊娠が判明した時は「人生が終わった」と絶望した。一人で抱えるのはどうしてもつらくてできず、パートナー以外では信頼できる友人2人だけに伝えた。両親には言えなかった。藤沢さんの両親は厳しく、結婚前の性行為に否定的だった。実家暮らしのため「親にどんな顔を向ければいいのか。生理がだいぶ来ていないので親にバレたらどうしようか、ソワソワしていた」 幸い夏休み中で大学の授業を休む心配はなかった。しかし、4週目からはつわりがひどくなった。体調的につらい中、周りの人にバレないよう努力した。「軽い人、無責任な人だと思われたくなかった。自分を許せなかったので、今思えば(軽い、無責任だという非難は)自分で自分を責める声だったのかもしれない」 中絶手術を行ったのは7週目になる時期だった。パートナーの貯金により費用を工面することができたが、「学生にとって安易に出せる金額ではないと思う」と言う。 いつかは両親にも中絶したことを伝えたいと思っているが、怖いという気持ちはぬぐえない。「怒られるのはもちろん怖いが、一番怖いのは失望され、傷つけてしまうこと」。また、命を途絶えさせた「罪を背負って生きていく」のが今でも苦しいと話す。 藤沢さんは「学生が産むことも当たり前で、産んだ後も社会復帰、活躍ができている実例が多くあれば(産むことも)考えていたかもしれない」と振り返る。学生生活と出産・育児を両立させながら社会的な自己実現をかなえているロールモデルは、今の学生にとって身近とは言えない。こうした実情は、アンケート結果からも読み取れる。学生出産が一つの選択肢となるには、さまざまな障害を取り除くだけでなく、実例が増えることが必要なのかもしれない。