ダボス会議常連のCEOら、ホワイトハウス復帰のトランプ氏になびく

4年前、世界経済フォーラム(WEF)年次総会(ダボス会議)の常連のエリートらは、ドナルド・トランプ氏がホワイトハウスを去ることに安堵(あんど)のため息をついた。

  そして今年、トランプ氏の返り咲きを受けて、こうしたエリートの間には、われ先にと同氏にくみしようとする機運が見られる。

  今年の年次総会では、トランプ氏がオンライン形式で演説する予定だ。

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  ゴールドマン・サックス・グループで長年にわたり最高経営責任者(CEO)を務めたロイド・ブランクファイン氏はこうした現状について、「ナポレオンがエルバ島を脱出した当時の状況を想起させる」と指摘する。

  これは、現代の企業経営トップの急変ぶりを1815年当時のフランスの新聞報道になぞらえたものだ。当初ナポレオンを「怪物」などと伝えていた各紙は、ナポレオンがパリに近づくにつれて、「閣下」の到着だと表現を一変した。

  ブランクファイン氏は「ちなみにトランプ氏はナポレオンと比べられることに感謝する可能性さえある」とも話した。

エルバ島を脱出後、パリに向かうナポレオンを人々が歓迎する様子(1815年)

  ダボス会議の常連である国家元首やヘッジファンド運営の富豪、テクノロジー企業の大物らはグローバル化を唱え、一段と多くの富と権力を手に入れてきた。不平等の拡大や二酸化炭素(CO2)排出増大に憂慮を示してきたのも彼らだ。

  しかし今、トランプ氏の復帰に伴い、これらエリートの多くは自分たちの利益を守り、推進するための行動に余念がない様子だ。かつてダボス会議の場で尊重されたアイデアの一部であっても、当面放棄しても構わないというもので、DEI(多様性、公平性、包摂性)を唱えたり、気候変動対策の急務を訴えたりするのは二の次となる可能性がある。

  モルガン・スタンレーやメルクなどの取締役を務めるダボス会議の常連の1人で、トランプ氏に批判的なトム・グローサー氏は一部のCEOについて、「もはや仮面をかぶらなくてよいと安心しているだろう」とコメント。「彼らの言動は恐らく本音に近づいている」と語った。

  トランプ政権1期目当時、経営トップはこぞって同氏に祝意を伝え、機嫌を取ろうとした。今回は就任式まで待つことなく、こびへつらうような動きも見られる。

  メタ・プラットフォームズのマーク・ザッカーバーグCEOは最近、トランプ氏の主要な支援者である総合格闘技団体「UFC」のダナ・ホワイトCEOをメタの取締役に任命。ザッカーバーグ氏はこのほか、共和党の大口献金者ミリアム・アデルソン氏と共にトランプ氏の就任パーティーを開く。

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  トランプ政権1期目に商務長官を務めたウィルバー・ロス氏は「ビジネスマンの仕事は世界を変えることではなく、それに対処することだ」と述べるとともに、「誰もがトランプ氏に会おうとしている」と話した。著名投資家のロス氏は18年、経済界首脳との親交を深めるためトランプ氏にダボス会議出席を勧めた経緯がある。

  トランプ氏の就任前の時点でも、保守派の圧力を受けてマクドナルドやウォルマートなどDEIの取り組みを巻き戻す企業が増えている。

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  また、米大手金融機関6社は銀行のCO2排出量削減を促す「ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)」を脱退。米連邦準備制度理事会(FRB)も気候変動リスクへの金融監督上の対応を検討するために設立された「気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(NGFS)」から脱退したと発表した。

  最近では、マイクロソフトのサティア・ナデラCEO、アップルのティム・クックCEO、コカ・コーラのジェームズ・クインシーCEOら何人もの企業トップがフロリダ州パームビーチにあるトランプ氏の邸宅「マールアラーゴ」を訪問している。

  米エール大学経営大学院のジェフリー・ソネンフェルド上級副学部長は経営トップらについて、「彼らはトランプ氏が批判に神経質でおだてに弱いことを認識している」と論じた。

原題:‘Were You Lying?’: The Great CEO Flip-Flop Over Trump Hits Davos(抜粋)

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